第1話 血色の怪文書 10 ―深夜に蠢く影―
10
記事を発表してから3日後、真田萌音の書いた記事は大きな話題となっていた。
彼女の記事はSNS上で広く拡散され、すぐにテレビでも取り上げられるようになった。その反響は凄く、怪文書をばら蒔いた人物への批判と、輝ヶ丘の住民への同情の声が日常でもネットの世界でも常に聞こえる……発表からたった2日でそんな状況へと変わっていた。
ここまで大きな話題になった理由の一つに真田萌音が記事を上げた媒体がある。
『noteに上げる』と彼女は言ったが、結局彼女は自分が連載を持つニュースサイトに記事を上げる事にした。
それは山下を出てから思い付いた事。
彼女は思った。『より公的な媒体を通して記事を発表した方がその信頼性も拡散力も強まる』と。
そして、話題となった理由はその記事の内容にもある。
彼女は記事の内容にも拘った。彼女は怪文書の写真をSNSに投稿したアカウントを愛から教えてもらうと、そのアカウントの持ち主に直接会って取材をし、発見時の状況やその時の心境を事細かに記事へと落とし込んだ。
更に『怪文書が新たに発見された』と情報を聞くと、現地に直接赴き、取材を行い、写真を撮影し、臨場感を持った記事にする為に力を尽くした。だから愛との約束よりも発表が一日遅れたのだ。
他にも、元々彼女が山下のお婆ちゃんの記事を書いた時に話題になっていたのもでかい。
その時は、記事が載った紙面を写真に撮ってインスタに投稿した事でその内容が拡散されて彼女もお婆ちゃんも称賛された。そして更に、それとほぼ同時期に全国的に行われる新聞部のコンクールでも記事が大賞を受賞した………この二つの相乗効果で、一時期は彼女自身がメディアの取材を受ける対象になったのだが話題の規模としてはローカルニュースの枠を出ない程度だった。しかし、その一件で彼女を青田買いしようと"とあるニュースサイト"が彼女に連載を持たせてくれたのだ。実績のある者と実績のない者では拡散の初動にはやはり違いが出てくる。連載を持った事で彼女は前者へとなれていたのだ。
そして、怪文書は全国的な話題となり、『怪文書の作成者は何処にいるのか、それは一体誰なのか』そんな話題へと変わっていく。
だが、この状況に不敵な笑みを浮かべる人影がひとつ………
―――――
「まだまだ……本当の始まりは、ここからだ」
月明かりをその背に受けて
《真田》と表札がかかる家の前に。
日付は変わったばかり、二月の夜の闇は深い。ポツリと一つだけの街灯が、薄暗く辺りを照らすだけ。
辺りを見回しても誰もいない。
その事を確認した人影は、ポケットから一つの瓶を取り出した。それは、手のひらに隠れる程の小さな瓶。その中には灰色をした直径1cmにも満たない"花の種の様な物"が幾つも入っている。
「さぁ……」
不敵な笑みを更に深くして、人影はコルクで作られた蓋を外した。
「……行け」
バラバラと辺りに撒かれた花の種の様な物は、地面に落ちると見る見るうちに大きくなっていった。膝を抱えた大人くらいの大きさへと。いや『くらい』という言葉は正しくない。何故なら、ソレは確かに膝を抱えているのだから。男なのか女なのかの判別はつかない、どちらにも取れる形。だが、ソレは確かに"膝を抱えた人間"の形をしている。
そして、ソレはのっそりと立ち上がる。
「フッ………」
自分を囲むように立った十数体のソレを眺め、人影は歯を見せて笑った。
まるで"枯れた木で作られた人形"の様なソレを見て。
「《ダーネ》、初仕事だ。しっかりと働け……」
《ダーネ》
人影はソレを《ダーネ》と呼んだ。
《ダーネ》と呼ばれたソレには表情が全く無い。瑞々しさの欠片も無い枯れた木の肌を持つ顔には、目の代わりに丸い穴が二つ、口の代わりに薄く裂けた線が一つ。
頭部は割れた木の様にギザギザと不規則に尖り、手足はヒョロ長い、全身もヒョロ長い。
「ギギ……ギギギ……」
人影から合図を受けたダーネは歩き出した。その歩みはぎこちない。まるでゾンビの様にフラフラ……と、辺りに散っていく。
「フッ………」
そして、
ボトリ………
ダーネが去っていく姿を見ると、人影は真田萌音の家の前に宝石の様に輝く不思議な石を落としていった。
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