第1話 血色の怪文書 3 ―輝ヶ丘は宝物―
3
もんじゃを食べ終わっても正義とお婆ちゃんの話はまだまだ尽きなかった。
「ちょっと正義ちゃんに見せたい物があるんだよ」
そう言うとお婆ちゃんは、お店をほっぽって二階の住居へと上がってしまった。正義達以外にはお客さんが来てないから良いのだろう。
「見せたい物? 何だろなぁ?」
正義が勇気に聞くと、
「さぁ?」
勇気は麦茶の最後の一口を飲みながら軽く首を傾げた。
それから暫くすると、お婆ちゃんは降りてきた。
「さぁさぁ、これだよ」
その手には折り畳まれた一枚の新聞が。
「あっ! それかぁ!」
それを見た愛はお婆ちゃんが正義に何を見せようとしてるのか気付いた様子だ。
そして、それは勇気も。
「あぁ、それですか」
「???」
分からないのは正義ただ一人。
「バッチャン、俺に見せたい物ってそれ?」
正義はお婆ちゃんが手に持つ新聞を指差した。
「そうよぉ」
お婆ちゃんはそう答えると再び小上がりを上がって、正義のすぐ横の畳の上にその新聞を広げた。
「見てくれるかい、正義ちゃん」
お婆ちゃんの顔は何やら嬉しそうだ。
「???」
『?マーク』を顔に浮かべる正義は、お婆ちゃんの顔から新聞へと視線を落とした。すると、「おっ!!」と驚く。
「へへっ! どうしたのこれ? バッチャンじゃん!」
そうなんだ。お婆ちゃんが持ってきた新聞の紙面には、お婆ちゃんの写真が載っていた。白黒写真ではあるが、それはデカデカと、一頁の4分の1くらいは使ってる。
「去年の今頃だったかねぁ? 取材を受けたんだよ」
「取材? バッチャンが? 凄いじゃん!」
そう言うと正義は新聞を手に取り、読み始めた。まずは写真の右隣にある見出しから。
「町は私の宝物、輝ヶ丘の名物駄菓子屋のおばあちゃんは語る……へへっ! スゲぇ! バッチャン、格好良いじゃん!」
「でしょ!!」
愛だ。愛は正義の肩越しに新聞を覗き込みながら、お婆ちゃんの記事に関しての補足を始めた。その声はお婆ちゃんと同じ。嬉々としている。
「その記事はね、【私の宝物】っていう連載記事なんだけど、輝ヶ丘に住んでる人に宝物を一つ紹介してもらって、宝物とのエピソードを交えてその人の人生を振り返ってもらって、輝ヶ丘の素晴らしさも紹介しようって企画なの。でもね、お婆ちゃんは他の人とは違ったの! 『私の宝物は形の無いもの、この町自体が私の宝物だ』って言ったんだよ! 格好良くない?」
「へへっ! あぁ、格好良いな!」
愛が言う通り、記事の中でお婆ちゃんはそう語っていた。そして、その後には山下での子供達との想い出話が続く。
「『お店を開いて50年以上。店主のお婆ちゃんは「お店に来る子の目を見れば、その子が良い子か悪い子かすぐに見分けが付く」と語る。「でも、輝ヶ丘の子供達は皆良い子だよ。事情があってひねくれてしまっている子はいても、悪い子は一人もいなかったよ」とも。』へぇ~~バッチャンかっけぇ!!」
「でしょ! ここもね、本当はお婆ちゃんはもっともっといっぱいお話をしてくれたんだ。その中から厳選して3つのエピソードに絞ったの! どのエピソードを載せるか何度も何度も話し合って、入稿のギリギリになってやっと決まったんだ!」
「へぇ~~そうなのか」
と正義は愛の話に納得しかけたが、ふと疑問が生まれる。
「ん……? 愛、なんか詳しくない?」
「ははっ!」
この正義の質問に勇気が笑った。
「桃井、喋りたいという衝動が先走り過ぎているんじゃないのか? 大分説明不足になっているぞ。まずはその新聞が何なのかを教えてあげる必要があると思うが。正義もよく見ろ、新聞の上の方だ。そこに『輝ヶ丘高校新聞』と書いてあるだろ」
「え……? あ!」
確かに書いてあった。多少インクが滲んで読みにくいが、確かに『輝ヶ丘高校新聞』と書かれている。
「え? じゃあこれ、校内新聞ってこと? ふぇ~~よく出来てんなぁ!」
そして正義は驚いた。だって正義が通っていた前の高校の校内新聞は"正に校内新聞"と言う感じで、頁数は少なく、新聞というよりもタブロイド紙といった感じだった。しかし、目の前のは違う。枚数も多ければ紙面のレイアウトや記事も本物の新聞と遜色ない出来だ。
「でしょ! でしょ! よく出来てるでしょ! 今の部長の真田先輩が部長になった時に、ロゴとかのデザインとか、取り上げる内容も全部作り直したんだよ! ほら、おばあちゃんを取材したのもその人!」
愛は記事の終わりの箇所を指差した。その顔は何故だか誇らしげだ。
「へぇ、本当だ」
確かに愛が指差した箇所には【取材者
「ふぅ~ん、でもさぁ、それにしても何で愛がそんなに詳しいんだ?」
この質問にいち早く答えたのは愛じゃなかった。お婆ちゃんだ。
「それはね、愛ちゃんが去年まで新聞部にいたからよ。ねぇ、愛ちゃん?」
「うん!」
愛は誇らしそうに鼻を鳴らした。
―――――
「へぇ、じゃあこのバッチャンの取材の時も愛はいたんだ」
「うん! 私はカメラ片手に補助みたいな、助手的な! まぁ、先輩のバディってヤツ!」
そう言う愛の顔はやはり誇らしげ。誇らしげを通り越してドヤってる。『バディ』の『バ』も『バ』を通り越して『ヴァッ』っと爆発していた。
「カメラ片手に? って事は、この写真撮ったのは愛って事か?」
「うん!」
愛はまた鼻を鳴らした。
「見てよこのお婆ちゃんの表情、素敵だと思わない?」
「あぁ、良い笑顔だ! お婆ちゃんの優しさが写真からでも伝わってくるよ!」
.正義は愛に向かって言うように、それでいてお婆ちゃんに向かっても言うように、両者の顔を交互に見てそう答えた。
「ふふ、でもお婆ちゃんのこの表情を引き出したのは私じゃなくて先輩だけどね! 先輩はさ、記事を書けば名文だし、インタビューをすれば相手の話をスルスル引き出しちゃうしで、凄いんだ! ね、お婆ちゃん!」
「うん、私も気が付いたら二時間以上も話しちゃってたわぁ」
「天才だと思うんだよね!」
愛の顔はまるで自分の事を自慢してるみたい。『先輩を尊敬している』と言葉にしなくても分かる。
「しかも真田先輩は新聞部だけで終わる人じゃなかった」
今度話し出したのは勇気だ。
「先輩が自分のSNSにその記事をUPしたら、かなり大きな話題になってな、今では高校生記者としてニュースサイトで連載を持ってるくらいなんだ」
そう言って勇気はスマホの画面を正義に見せた。
「へぇ~本当だ」
どこのサイトだかは分からないが、確かに勇気が見せてくれた画面には、さっきの新聞と同じく文の末尾に『真田』とある。
「凄い人なんだなぁ~、俺も一度会ってみてぇ」
「うん! 私もせっちゃんに先輩会わせたい!」
「だったら正義には早く転校して来てもらわないとな、でないと先輩が卒業してしまう」
勇気は腕を組みながら、また皮肉っぽい笑顔だ。
「へへっ! そうだな! 早くしねぇと!」
―――――
しかし、正義は転校せずとも、それから程なくして真田萌音と出会う事になった。
それは新たな事件を通して。そして、彼女は山下のお婆ちゃんと共に、愛が英雄の力を得る為に重要な役目を担う存在となる。
だから、ここからの物語は愛を中心に進めよう。何故なら、この話の主役は愛なのだから。愛が《愛の心》を得て、ガキアイシンへと変わる物語なのだから。
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