第三章 愛の英雄の誓い 編

第1話 血色の怪文書

第1話 血色の怪文書 1 ―ありふれた日々―

 1


「ねぇ桃ちゃん、さっきのお婆ちゃんの言葉すっごい感動しなかった?」


「しました!しました!『輝ヶ丘は私の宝物だ』って!!」


「格好良くない?」


「格好良いです! 格好良いです!」


「だよねぇ~~」


 私と、一学年上の真田萌音先輩は、何度も『格好良いね!』『格好良いですよね!』……と口にしながら帰り道を歩いていた。


「でも、私も思うなぁ~! 輝ヶ丘は私の宝物だって! 私達、生まれた時からずっと輝ヶ丘じゃん? 友達との出会いも、色んな想い出も、全部輝ヶ丘と一緒だし! 私にとってみんなが宝物だから、私にとっても輝ヶ丘は宝物だよ!」


「あぁ~! 先輩、お婆ちゃんの真似はダメですよ!」


 私が茶化すと、先輩は大きく笑った。


「真似じゃないよ! ヒドッ!」


「ははっ!」


「ははっ! っじゃないよ! 桃ちゃん、ヒドぉ~~!」


 私はこの頃はまだ他愛なく笑えた。

 だって、これは一年前の想い出だから。《王に選ばれし民》が現れるずっと前の出来事だから。


「あっ! 私こっちだ!」


 分かれ道に立った時、先輩がそう言った。


「あっ、もうここか。じゃあバイバイですね!」


「うん! それじゃあ、気を付けて帰るんだよ! バイバイね!」


「はい! バイバイです!」


 私達はさよならの意味なんて込めずに『バイバイね!』と手を振った。


『バイバイね!』なんて大嫌い。


『またね!』って、『またね!』……が良かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る