第6話 勇気の心を武器にして 26 ―二人で一つのオムライス―

 26


「デカギライッ!! 今日はお前との決着をつけるッ!!!」

 ピエロが消えた事に誰も気付く事はない。二人の英雄とデカギライの戦いは続いた。

「勇気!! ……じゃあなかった! ユウシャッ!! オムとライス! 覚えてるか!!」

 セイギは走り出す。ユウシャに向かって叫びながら。デカギライの弾丸はユウシャに向かっても飛んではいるが、勿論セイギにも飛んでいる。その弾丸を斬りながらセイギは走った。


「あぁ、勿論だ!!」

 ユウシャは駐車場に着地した。


「ヨッシャ! なら、俺の背後に立ってくれ!!」

 そう言うとセイギは駐車場の中心で立ち止まる。

「俺はこの剣に力を溜めたい!! 俺が裁き切れない弾丸を撃ってくれ!!」


「オーケーッ!! 任せろ」

 ユウシャは走った。そして、セイギの後ろに背中合わせで立つ。


「クソがァッ!!!」

 弾丸を撃つデカギライの中にはセイギとユウシャに向かって走る奴もいる。しかし、そんなデカギライをユウシャのレーザーが襲い、転ばせる。ユウシャは決してデカギライにセイギの邪魔はさせないつもりだ。


「デリャッ!!!」


「トリャッ!!!」


「ウリャアッ!!!」


 セイギは迫り来る弾丸を斬って、斬って、斬りまくった。大剣にはドンドン力が溜まっていく。

 セイギとユウシャは知っている……正義と勇気は知っている。

「俺達二人が揃えばどんな奴にも絶対に負けねぇ!!!」

「諦め知らずのお前がいるからなぁ!!」

「いいや! それはお前の勇気が、俺に希望をくれっからだよ!!」

 セイギとユウシャは斬りながら、撃ちながら、お互いを鼓舞した。


 だが、


「「「うるせぇッ!!!」」」


「「「くだらねぇ事を言ってるんじゃねぇ!! BANGッ!! BANGッ!! BANGッ!!!」」」


「「「クソガキが二人になろうが俺は絶対に負けねぇだよッ!!!」」」


「「「言っただろ!! 俺は俺の意思で本物の俺を作れるんだよッ!!!」」」


「「「だから絶対にお前達は俺には勝てない!!! 俺は無敵なんだよ!!!」」」


 激昂したデカギライはセイギとユウシャの言葉を遮った。しかし、今度はその声を正義が遮る。


「無敵か!! でもな、俺達二人はその無敵を打ち破る二人だ!!! ユウシャッ!!! さぁ、行くぜッ!!! 飛べッ! ジャンプだッ!!! コイツら一気にブッ倒すッ!!!!!」

 さぁ、セイギの大剣の力はもう十分だ。


「何? 一気に? ははっ! 成る程ッ!!!」

 ユウシャはセイギの要求通り、上空に向かって高く跳んだ。


「へへっ! やるぜ……新技の御披露だぜ!!」

 ユウシャが跳んで、セイギは360度見渡せるようになった。周りはデカギライばかり。敵に囲まれ四面楚歌。だが、セイギはこれを求めていた。何故なら、この場面を想定してセイギは修行をしたのだから。

「行くぜッ!! 決めるぜッ!!」

 セイギはぐるりと回転しながら思いっ切り大剣を振った。

「大回転ッ!! ジャスティス! スラッシャァァーー!!!!」

 くうを斬る大剣の刃からは残像の如く光輝く黄金のオーラが発射された。それは、一気呵成に回転したセイギが描いた大車輪。

 大車輪はまばたきの速さで一気に飛んでいくと、デカギライの弾丸を、そしてデカギライ達を斬っていった。


「ギャワァァァァァ!!!!!」


 ジャスティススラッシャーに斬られたデカギライは続々と爆発していく。

 十数体に及ぶデカギライの爆発で、ピカリマートの駐車場は炎の海へと変わった。しかし、その炎はすぐに消える。《王に選ばれし民》の力は破壊されるとすぐにこの世から消えるから。

 そして、その炎が消えた後、

「ハァ……ハァ……ハァ……さぁ、どうだ?」

 セイギは何かを探す様に辺りを見回した。もうデカギライの姿は駐車場の何処にも居ない。


 だが、


「フハハハハハハハッ!!!!」


 デカギライの高笑いが聞こえた。それは、ピカリマートの屋上から。


「………そこか」

 セイギは静かに声が聞こえた方向を見る。

「…………」

 ただ静かに、驚きもせず、静かに……


「フハハハハッ!! だから言っただろッ!! 俺は無敵だッ!! お前の技をくらう前に分身をここに作っておいて良かったぜ!! まぁ、今はこの俺が本物の俺だけどなぁ!!」


「そうか……本物かボッズー」


「ん?」

 デカギライは背後から聞こえた声に振り返った。

「そ……それは!!」

 その瞬間、デカギライの体は驚愕で固まる。

 デカギライの驚愕も無理はない。何故なら、己に向かって飛んで来るのは、不思議なタマゴの殻なのだから。しかもその殻はズンズンと大きくなり、デカギライの体をすっぽりと収められる位の大きさになった。


 いや、この不思議なタマゴの殻にデカギライは驚いた訳じゃない。このタマゴの殻が己に何を起こすのかをデカギライは覚えているからこそ、このタマゴの殻がもう逃げられない程の距離にいた事に驚いたのだ。


「悪いけど、お前の動きは予想通りだったぜ!!」

 セイギが叫んだ。


 そうだ、セイギは読んでいた。ジャスティススラッシャーを放った後、デカギライがどう動くのかを。


「本体を変えられるってのは驚いたけど、俺は最初から、お前はこの前と同じ様に分身がやられてる隙に逃げ出すって思ってた。だから俺はジャスティススラッシャーを囮に使うって決めたんだ!! この前と似た状況を作るのが、本体のお前を炙り出すには一番だって思ったからな!! へへっ! この前の回転斬りは咄嗟に出たヤツだったから、正確に出す為に修行までしたんだぜ!! 重たい剣を持って回るのって結構コツがいるんだ!!」


「なん……だと……」

 デカギライは罠に嵌まった自分に驚いた。だが、もう遅い。大きくなったタマゴの殻が左右に分かれ、一気にデカギライを包み込んだから。

 もう逃げられない………デカギライの動きは封じられた。


「んでな、俺は最初から卵焼きなんだよ……なぁ! ユウシャ!!」


「あぁ……その通りだ」


「なッ………!!」

 黄金に輝く半透明のタマゴの中で再びデカギライは驚いた。己が立つ屋上のその向こう側にはガキユウシャが居たからだ。


 そしてユウシャは両手に持った銃をクルルと3回回すと、その銃口を横に並べて、引き金を引き絞った。

 しかし、ユウシャはすぐにはレーザーを放たない。ユウシャはレーザービームよりも"もっと特別な物"をデカギライにぶつけるつもりだからだ。 


「ボッズー、このやり方であっているか? ははっ! 聞いたところで、今の君じゃあ答えられないか……」


 そうだ、ボッズーがユウシャの耳に囁き教えた事、それはガキユウシャの必殺技だ。その必殺技をユウシャは、デカギライにぶつけるつもりだ。


 ………引き金を引き絞られた二つの銃は、一秒毎に力を溜めていく。



 1秒…2秒…3秒……銃口がゴォーッと大きな音を立てながら、バキュームの様に周りの空気を取り込んだ。



 4秒…5秒…6秒……空気を取り込みながら銃はブルブルと震える。始めは極々僅かに。



 7秒…8秒…9秒……時間が経つ毎に震えは大きくなる。



「時は来たようだな……」



 ………10秒、上下に激しく揺れ動く銃の引き金をガキユウシャは切った。 



 ドキューーンッッッ!!!



 轟音を鳴らし、二つの銃口から突風と共に放たれた物は、蒼白く輝く二つの光。その光は渦を巻きながら合体し、直径1mの蒼い光の玉へと変わった。


「さぁ………チキンライスは如何いかがかな?」


 目映い光弾は高速で半透明のタマゴに向かって飛んでいく。

 そして、



 ドガーーーーーンッッッッッ!!!!!



 光弾がぶつかると、半透明のタマゴは大爆発を起こした。


 ―――――


 その爆発が消えた後、屋上には黄金の炎が残り、メラメラと燃えるその炎に囲まれて"人間"へと戻った"リーダー格の男"が、まるで赤子の様に体を丸め倒れていた………

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