第6話 勇気の心を武器にして 21 ―稲妻が脳天を貫き、深い眠りを覚まさせた―

 21


 稲妻が走った。


 ピエロの目に繋がれ、ピエロが見る世界を見ていた勇気の視界に稲妻が走った。その稲妻は勇気の視界を真っ白に染めて、脳天に強烈な痛みを与えた。


 そして、その稲妻が消えると、勇気の目の前には……



「も……桃井……」



「あっ! 勇気くん?」


 愛が居た。

 愛は勇気の顔を心配そうに見ている。


「桃井……桃井だよな?」

 勇気は当たり前の質問をした。さっきまで自分を包んでいた世界が急に崩れ、現実に戻って来れたのだ。勇気の頭はまだ混乱しているんだ。


「うん! そうだよ! 勇気くん、やっと目を覚ましたんだね!!」

 勇気と会話が出来た事に愛は嬉しそうだ。


「目を……覚ました? そうか……じゃあやはりここは現実か」

 勇気も同じだ。安心した表情へと変わった。愛と会話が出来た事で『自分が本当に現実へと戻って来れたんだ』と勇気は確信した。


「ははっ! 『現実』ってやっぱり勇気くん、夢見てたの?」

 愛は笑った。嬉しくて満面の笑みだ。


「夢……?」


「うん、何かよく分からないけど、勇気くん急に叫んでどこか別の世界に行ってた感じだったよ。『目を覚まして!』って言っても全然起きないし……だからちょっと叩いちゃったけど、ごめんね」


「叩いた……」

『そういえば……』と勇気は左の頬を擦った。頬は少し熱を持った感じでヒリヒリと痛い。

「ふふ……なるほど。桃井が目覚めさせてくれたって事か……」


「うん! ダメだよ勇気くん、起きたまま寝たら! ビックリしたよ!」


「ふふ……すまなかったな」

 勇気は苦笑い。恥ずかしそうに額を撫でた。しかし、

「ん?」

 浮かべた笑顔はすぐに消えた。

「いや、やはり俺は寝ていた訳じゃないらしい」

 そして、その顔は険しく変わる。


「え?」


「桃井……俺の後ろへ回るんだ。"奴"がいる……」

 そう言うと勇気は一歩前へ進み、何かから愛を守る様に立った。

「桃井、君には見えないだろうな。だが、俺には確かに見えるんだ。奴なんだ……俺を惑わすのは」

 勇気には見える。空中に浮かぶソレが……

「正義から聞いてはいないか? 俺の前に現れる黒く禍々しい闇の塊の事を……」


「闇?」


「あぁ……」


「あ……」

 愛は思い出した。

「うん、そう言えばせっちゃんから」


「聞いていたか。ならば話は早い。今、目の前に奴は居る……」

 勇気は闇を鋭く睨んだ。

「今から俺は、コイツと決着をつける。だから桃井……また俺がおかしくなったら、その時はもう一度俺をブン殴ってくれ……」

 勇気は愛にそう願うと、再び前へと進んだ。


「え……? わ、分かった……」


 勇気と愛の二人の周りにはもう殆ど人は居ない。パトカーの避難要請を聞いて、皆足早に逃げていったんだ。特に勇気が進んだその先には誰も居ない。何故ならその先の道を行けば、ピカリマートがあるから。

 避難を呼び掛けていたパトカーももう行ってしまった。


 ― 俺と桃井、そしてこの禍々しい闇だけ……丁度良い、コイツと決着をつけるにはな……

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