第6話 勇気の心を武器にして 16 ―俺は覚悟を決めたんだ!!!―

 16


「デヤッ!! ドリャ!! トリャアッ!!!」

 セイギは懸命にデカギライと戦っていた。しかし相手は十数体もいる。簡単に勝てる相手じゃない。全方向から弾丸が飛んでくる状況なんだ。弾丸を斬っても、斬っても、キリがない。避けても、避けても、キリがない。

 しかし、セイギはまだ冷静を保っていた。何故なら


 ― デカギライの奴、余裕綽々だな。動こうともしない。二丁拳銃になっても攻撃が一辺倒だからパターンも読みやすい。俺を籠の中の鳥にして優位に立ったつもりなんだな。でもな、お前との戦いは重ねた……重ね過ぎたぜ!! もうそう簡単には弾丸はくらわねぇ、それに、分身しても動かないまんまじゃあ、本体がどれなのか分かったままだぜ……


 そうだ。セイギは弾丸を避け、そして斬り回りながらも、常に本体を目の端に捉え続けていた。その状況がセイギに冷静さを与える。この戦いの場所が何処なのかも理解するくらいに。


 ― ここはピカリマートの駐車場だ。この間の戦闘のせいでピカリマートは休業になったって愛が言ってたな。申し訳ないが、今は助かる。車一台止まってないし、人も居ない。飛んでくる弾丸が見やすいぜ。駐車場の周りにも人が居ないな……避難が呼び掛けられているのかな?いや、今はそれを考えてる暇はない。考えるのはどう本体に攻撃を仕掛けるかだ。時間は限られてる。やっぱジャスティススラッシャーか……でも、本体に向かって真っ正面からは無理だな。俺がジャスティススラッシャーを放った瞬間、本体が逃げ出すのが目に見えてる。分身も残ったまんまで、本体も逃したんじゃ、ただ自分を不利にするだけだ……じゃあ、やっぱ新技を使うか?そうすれば多分、本体以外の奴らは倒せる。だけど、それじゃあ分身を倒す為だけにジャスティススラッシャーを使うって事になる。時間が無いんだ、本体を一人に出来ても、その後にジャスティススラッシャーの力無しで俺は本体を時間内に倒せるのか? ……どうする? 自分自身に賭けてみるか……いや、まだ考えろ。他の方法があるかも知れない。それに…………いいや! 迷っちゃダメだ!! 決めた筈だ! 俺は覚悟を決めたんだ! じゃなけりゃボッズーが……


 セイギは覚悟を決めたつもりだった。ピエロが課したルールに乗ると決めた時から。『デカギライを倒す』と。

 でも、それは『倒す』という言葉は本来ならば違う。本来ならば『殺す』だ。デカギライは《王に選ばれし民》にバケモノに変えられただけ。本当はただの人間なのだから。


「セイギ……ダメだ……人を殺しちゃ……」


 ボッズーの声が聞こえた。


「え?」

 それはとてもか細く囁く様な声。戦闘の最中にそんな細い声が聞こえる訳がないからセイギは驚いた。

 でもセイギはすぐに「あっ……」と思い出した。変身している間に送られた通信は、腕時計じゃなく仮面の中に届くという事に。ボッズーが通信を送ってきているのだ。


「セイギ……絶対にダメだぞボズ……お前は世界を救うんだ……人を殺しちゃいけないボズ……」


「でも……そんな事言ってもデカギライを倒さないとボッズーが」


「それでも……ダメなんだボズ……セイギは……《正義の心》を汚しちゃいけないボズ………付け入る隙を与えちゃダメボズよ………」


「付け入る隙? 何がだよ?」


「………」


「おい、おい!」


「………」


「ダメだ、気を失っちまったのか……」


 ― ボッズー、ごめんな。でも俺はお前を助けたい。やるしかないんだ。やるしかないんだよ!!


 セイギは大剣の重さを確かめた。


 ― ジャスティススラッシャーの準備は出来た……ここまで溜めればデカギライは倒せる


 デカギライとの戦いの経験はもう十分だ。セイギは大剣にどの程度力を溜めればデカギライを倒せるのか経験から学んでいた。


 ― やるぞ……やってやる。後はどう攻撃を仕掛けるか……


 セイギは今、弾丸を避けて跳び上がったところだ。空中でセイギはもう一度辺りを見回した。


 ― 何もないな……車一台も無いから弾丸を避けるには見晴らしが良くてやりやすい。でも、こっちが攻撃するってなると逆だな、隠れる場所が無さ過ぎて本体に近付くのがムズい。やっぱ新技を使って分身を倒して本体を一人にして………いや、違う、そうだよ! デカギライとの戦いで積んだ経験はまだあった……


 セイギはドンッ! と地面に降りた。


 目の端で本体を捉えながらセイギは大剣を構える。そのセイギに向かって弾丸が飛んでくる。でもセイギはもう避ける気はない。斬るだけだ。大剣を振り回し、360℃全ての弾丸を相手にする。


「デリャ!! トリャアッ!!! テェェイッ!!!」


 ― 来い……来い……早く来い……


 セイギは待っていた。弾丸を斬りながら。


 ― へへっ! 思ったより早い! 来たぜ!!


 それは何か、それは弾丸だ。それは本体と対極の場所に居る分身が放つ弾丸だ。それはセイギに切っ掛けを与えてくれる弾丸。


 セイギはギリギリまで邪魔な弾丸を斬り、待っていた弾丸だけを残すと、大剣を下ろした。


 ― さぁ、来いッ!!!


「うわッ!!」


 セイギはわざと弾丸をその身に受けた。


 ― へへっ! 学んだのはもう一つあった! それはデカギライの弾丸をくらった時の俺だぜ! 一発ぐらいの弾丸なんて痛みは軽い! さぁ、弾き飛ばせ俺を!! 俺を連れて行け! 本体の近くにッ!!


 弾丸によって弾き飛ばされたセイギは一直線に本体に向かって飛んでいく。そして、空中でセイギはくるりと体の向きを変え、本体の方向を向くと……


「ウォーーーー!!!! ジャスティススラッシャーッッッ!!!」


 大剣を振り下ろした。

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