第6話 勇気の心を武器にして 17 ―神はセイギを見放したのか……―
17
― なんで……何でだよ……
ジャスティススラッシャーは確かに本体に命中した。ジャスティススラッシャーをくらったデカギライの体は粒子状になり、爆発四散し消えていった。
― でも……何で……何で……
セイギはピカリマートを背にして振り返った。
― どうして……
本体を倒せば全ては終わる筈だった。
しかし、
「フハハハハハハハッ!! 馬鹿だな、俺がそう簡単にはやられる訳がないだろ」
しかし………分身が消える事はなかった。
そして、十数体のデカギライは一斉にセイギを睨んだ。勿論、銃を構えて。
「手を抜いてやってたんだ………お前がいつか罠にはまると思ってな!」
「なんだと……」
「調子に乗るのは馬鹿の証だよ……クソガキが」
セイギの背後から声が聞こえた。デカギライの声だ。新たな分身か、それとも何処かに潜んでいた"本物の本体"か……
「BANGッ!!!」
「なっ………!!」
セイギが後ろを振り返る前に弾丸は放たれた。
それはセイギの背後に現れたデカギライから。
「うわッ!!!」
弾き飛ばされたセイギは、再び籠の中に戻されてしまう。
「ちき……しょう……」
不意打ちをくらったセイギは大剣を構えようとするが、既にデカギライが動いた後だった。全てのデカギライがセイギに向かって弾丸を発砲した後だった。しかも、弾丸の速度はセイギが知っている今までのモノとは違っていた。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
セイギはその身に全ての弾丸を受けてしまった。
その速度は今までの倍だ。『手を抜いていた』とデカギライは言ったが、弾丸の速度までもデカギライは操れるのか。
「フハハハハハ!! 『お前に俺が殺れるかよ』俺はそう言っただろ? 俺はなぁ、進化したんだ!」
全ての弾丸を受けたセイギが弾き飛ばされる事はなかった。何故なら、弾丸は全方向から飛んできたからだ。セイギが飛んでいく余白はない。セイギはただその場に膝から崩れ落ちた………いや、落ちそうになった。まだまだデカギライの攻撃が止まなかったのだ。
「フハハハハハハハ!!」
高笑いを上げるデカギライはセイギを弄んだ。次からの攻撃は一斉にではない。敢えての連続だ。
「フハハハハハハハ!!」
セイギは弾丸に撃たれては弾かれ、撃たれては弾かれ、撃たれては弾かれ……リンチだ。セイギは
「クッ……クソォ……」
しかし、それでもセイギは諦めない。セイギは考えていた。攻撃を受けながらも絶望には堕ちない。
― クソッ……クソッ……俺は馬鹿だ! 馬鹿野郎だ!! また俺は騙されたのか!! こんな時に何やってんだ!!! ………でも、でも、俺はこの場所に墜とされた時から、本体から目を離さなかったぞ。素早い行動ではあったけど、俺はアイツが分身を生み出すところも見逃さなかった……いや、でも待て………ピエロが現れた時、あの時にデカギライから目を離してしまった瞬間があった……いや、でも、ピエロがデカギライの動きを制止する時に、ピエロもアイツを睨んでいた。だったらアイツが本体の筈……いやいや、ピエロとデカギライはグルだ。やっぱり俺は騙されて………
「ガキセイギ!! 遂にお前も終わりか?フハハ!! さっきの攻撃、良い攻撃だったぜ……相手が"進化する前の俺"だったらなぁ!!」
セイギの疑問に答える様にデカギライは喋り出した。
「……なぁ? 訳も分からず死んでいくのは嫌だろ? 教えてやるよ……お前がさっき攻撃したのは、確かに分身じゃなかったよ。"俺だった奴"だ!!」
この続きを話すのはまた別のデカギライだ。
「もし俺が、進化せずにここにいたならば、あの時俺はお前に殺されていただろうなぁ。でも、今の俺にアレじゃあ無理だよ。何故ならなぁ、進化した俺は"肉体を乗り換えられる"ようになったからだ!! "分身に魂を移し変える"事でな!!」
「フハハハハ!」
今度はまた別のデカギライが喋る。
「これで『本物だ、分身だ』……と気にする必要は無くなった。俺の意思で、"分身も本物の俺に変えられる"。命を幾つも持った気分だ!! これで俺は無敵になった! お前は絶対に俺には勝てない!!」
「そろそろだな。お前の仲間に取り付けられた爆弾が爆発するのは」
「フハハッ! どうした? 俺を倒さなくて良いのか?」
「まぁ、もう無理だろうけどな!」
「さぁ、お前の仲間が死ぬところを見ろッ!!」
― 肉体を乗り換える……魂を移し変える………だと……じゃあ、俺はどうすれば! どうすれば良いんだ!!! ボッズーをどうすれば助けられる!!!
デカギライの攻撃が止んだ。最後の弾丸に弾き飛ばされたセイギは、地面に落ちてゴロゴロと転がった。
デカギライもセイギと同じだ。戦いの経験を積んでいる。自分の弾丸をくらったセイギが一発でどの程度のダメージを受けるのか、どの程度の距離を飛ぶのかを知っている。
『お前の仲間の死ぬところを見ろ』その言葉通り、セイギの動きはボッズーの真下で止まった。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
セイギの呼吸は大きく乱れ、体には芯がない。フラフラとして生きるゾンビだ。
それでもセイギは立ち上がった。立ち上がらなければならない。
「倒れてる暇は無ぇ………ボッズーを……ボッズーを助けねぇと……考えろ……考えろ……もっと冷静になれ……さっきの俺は結局動揺してやがった………もっと冷静だったら……デカギライの罠に違和感を持てただろ………こっから一気に逆転だ……その方法を考えろ………英雄なんだろ……ガキセイギよぉ……馬鹿セイギよぉ……ハァ……ハァ……ハァ……」
セイギは諦めない。諦めたらそこで終わりだから………
でも、神は無情だ。
「ケケ!! そうだね!! 助けないとねぇ!! ケケケ!! でもその前にお前は死ぬんだ!! ケケケケケ!!」
大剣を構えようとするセイギの周りを、灰色の煙が漂い始めた。
ソレが何かは意識朦朧とした中でもセイギは分かる。
「またお前か……邪魔を……するな……」
そして、煙は形を作る。ピエロの形を。
「ケケケ!! 『邪魔?邪魔じゃねぇよ俺はお前を倒しに来たんだ!!』ケケケケケ!! お前の台詞……真似させてもらったよ!!」
再び現れたピエロは陽気とも取れる不気味な笑顔をセイギに近付けた。
「ケケケ!! 悪いけどなぁ、ここからは2対1にさせてもうぜ!!」
「なに……」
「バァァァカッ!!!!」
セイギの言葉をピエロは遮る。セイギの首を掴み、その体を持ち上げながら。
ピエロの身長はセイギよりも小さい。160cmあるかないか位だ。しかし、やはりピエロは《王に選ばれし民》………その力は普通とは違う。
「何だよ? 約束が違うってか? ケケ……なぁ?知ってるか?? 約束ってのはさぁ! 破る為にあるんだよ!! だからルールを作ったんだ!! 分からないかなぁ? ケケケケケ!!」
「なん……だと………」
首を絞められ苦しむセイギは、ピエロの手を掴んだ。
「おいおい……触るなよ。汚いねぇ手でよ!!!」
ピエロはセイギを地面に叩き付けた。
そして、そのまま倒れたセイギの腹を踏みつける。
「ぐわぁぁぁ!!!」
「ケケケケケ!! 叫べ、叫べ!! いやいや、王は気紛れだよなぁ!! 困っちゃうよ!! この前はお前を殺すなって言っといてさ、今日はお前を殺してこいってさ!!! 困っちゃうよ!!! ケケケ!! ピエロちゃん困惑ぅ~~!! ケケケケケケケケ!!!」
絶体絶命。ボッズーに付けられた爆弾が爆発するまで、後5分を切っている。
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