第6話 勇気の心を武器にして 9 ―衝動が体を突き動かす―

 9


 警察署へ向かう道の途中にもバリケードは張られていた。そこには通行止めをする警官もいる。しかし、勇気はそこを無理矢理突破した。

 そして勇気は叫んだ。『やめろッ!!!』と、デカギライに向かって。

 何故自分がそんな事をしているのか、何を考えているのか、勇気自身にも分からなかった。

 ただそこにあったのは"衝動"、体を突き動かす"衝動"だ………


「お前……この前山の中で会った奴か?」


 デカギライは標的と定めた警官から標準を外すと、その銃口を今度は勇気に向けた。


「やめろ! 下がるんだ!!」


「下がれッ!!」


 勇気の近くにいる警官達が叫んだ。しかし、勇気は下がらない。


「フハハッ!! おぉ、何だかついこの前も同じ様な場面を見たなぁ! おいクソガキ、お前はまた同じ事を繰り返す気か? この前もそうやってお前の暴走が、刑事デカ共の死を招いたのを忘れたか?」


 デカギライは勇気を脅した。だが、勇気は怯まない。理屈じゃない衝動が勇気を突き動かしているから。そして、デカギライが言うその日と違う事がある。それは、勇気が"自分を英雄とは思っていない"という事。今の勇気は『自分は力を持っている』とは思ってはいない。『今こそ本物になる時だ』などと思ってはいない。何故なら勇気は自分を『臆病者』だと思っているから。『恐怖を抱えた臆病者』だと。

 だが、勇気はデカギライに立ち向かった。目の前で人の命が奪われそうになっているのを黙って見ている事は出来なかったから。

 たとえ自分の命を賭してでも……


「だから………俺を殺れよ。この人達の命が救えるなら、俺はそれでも構わない。俺を殺して、お前はここを去れ!!」


「はぁあ? 何だそれは? 取り引きになって無ェなぁ!! 俺が刑事デカ共を殺す楽しみと、お前を殺す楽しみが同等だとでも思ってるのか? お前が"ガキナントカ"だとか名乗ってるクソガキなら別だがなぁ!!」


「そうだと言ったら!!」


「はぁあ?」


「俺がそのガキセイギだとしたら!!」


 勇気は咄嗟にそう叫んだ。勇気はデカギライがガキセイギの正体を知っている事を知らないんだ。


「はぁあ?そんな訳ないだろ!! アイツの正体を俺が知らないとでも思っているのか!! 英雄気取りもいい加減にしろ!! ウゼェなぁ! 望み通り殺してやるよ!! バッ……」


『BANGッ!!!』とデカギライが叫ぼうとしたその瞬間、声が聞こえた。


「気取りじゃないぜッ!! 英雄だッ!!」


 その声は空から聞こえた。

 そしてもう一つ。


「そうだぜボッズー!! くらえッ!!!」


 ドゴンッ!!!


 デカギライの右腕が突然爆発した。

「グワァッ!!!」

 と叫び、デカギライの体は大きく反って、勇気に向けていた銃口も天を向く。


「勇気ッ!! こっからは俺に任せろッ!!!」

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