第6話 勇気の心を武器にして 8 ―勇気の心が彼を叫ばせるのだ―

 8


 デカギライの声を聞いた愛が店を出ると、店の前の大通りを走る人達の姿が見えた。それは歩道も車道も関係なくだ。皆、逃げているんだ。

 その人波を愛は逆走していく。その先にデカギライがいるのは明らかだったから。

 そして、その後ろには勇気も。

 勇気は何故自分が走っているのか自分でも分かっていなかった。ただ衝動的に『デカギライが現れた場所へ行かねばならない……』と思った。ただそれだけだ。


 デカギライが現れた場所は勇気と愛が居たカフェからそう遠くはない場所だった。

 その場所は警察署。輝ヶ丘警察署だ。しかし、近いと言っても人波に逆らって向かうのだ。そう簡単には辿り着けない。


「フハハハハハッ!!」


 再び、デカギライの高笑いが聞こえてきた。


 ―――――


「フハハハハハハッ!! 雑魚雑魚雑魚雑魚!!!」


 警察署の前に立つデカギライは、警官に囲まれながらも余裕綽々に高笑いをあげていた。


「次は誰にしようかなぁ?」


 そう言うとデカギライは、手に持った警官の制服を放り投げた……既に被害者が出ているのだ。

 デカギライの周りには他にも消された人々の物だと思われる制服や衣服がいくつも落ちている。デカギライが余裕綽々に笑えるのも、自分を取り囲んだ警官達が自分に成す術もなくやられていく様が滑稽だったからだ。


「ハハッ……お前にしようか」


 そして、デカギライは新たな標的を定めた。


「BANGッ!!!」


 デカギライはパトカーの影に隠れた警官に向かって弾丸を発砲した。その狙いは正確だ。パトカーのボンネットの向こう側から少し顔を出していただけの警官を、一瞬にして消し去ってしまった。撃たれた警官が悲鳴をあげる暇すら無く……


「フハハハハハッ!!」


 その光景を見たデカギライは再び高笑いをあげた。


「どうした! どうした! 刑事デカ共ッ! 隠れていたって無駄だ! さっきまでの威勢はどこにいった! 隠れていようが今の奴みたいに死ぬのは同じ!! ビビってないで堂々と戦えッ!!!」


 デカギライは警官を煽る。嘲笑う。だが、警官達は決して怯えてなどいなかった。輝ヶ丘の住民を守る為、果敢に戦っていた。だが、彼らにとってデカギライはあまりにも強過ぎたのだ。


 デカギライが現れた直後、警官達は一斉にデカギライを取り囲んだ。デカギライを逃がさぬ様に警察署の前にはパトカーを使ったバリケードを作って。その素早さは素晴らしいものだった。しかし、取り囲んだものの警官たちの銃撃は何の意味も成さなかった。彼らが持つ銃では、デカギライに蚊に刺された痒みすらも与える事が出来なかったのだ。

 だから今は待機だ。デカギライを取り囲んだ警官達は待っていた。応援要請をかけた、SITの到着を。今か今かと……


「チッ……ダメか。俺がどんなに煽ろうが、誰も出てきやしないか。そうか、そうか……俺が今まで忌み嫌っていたお前らは、そんなに根性の無い奴等だったんだなぁ。見損なったよ。じゃあ仕方ない。面白味はないが、サッサと殺してやるよ。いや、それとも、この中の……」

 デカギライは警察署を指差した。

「……奴等を殺して、お前らに死ぬ程の後悔を与えてやろうかッ!! ハハハッ! いやいや、やっぱりダメだ。どうせなら皆仲良く死んだ方が良い! その方が、地獄で仲間と楽しく過ごせる!! そうだよなぁ!!」

 そう言うとデカギライは、一人の警官に銃口を向けた。


 その時だ、


「やめろッ!!!」


 叫び声が聞こえた。


「何……? 誰だ」


 デカギライは声が聞こえた方向を見た。

 それは警察署の前に設置されたパトカーのバリケードの向こう側。その向こう側に男は居た。


「ん? お前……確か」


「やめろッ!!!」


 再び男は叫んだ。声の限り……


「これ以上、人を殺すなッ!!! この世の命は貴様ら《王に選ばれし民》に奪われる為の物ではないッ!!! 生きるべき素晴らしき命を蹂躙するのはもうやめろッ!!!」


 叫んだ。青木勇気は声の限り………

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