第6話 勇気の心を武器にして 6 ―アイツに分からせなければならない……俺は英雄ではないと―

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「卵焼きにチキンライスって、ねぇ勇気くん、これってオムライスの事だよね?」


「そう……だな……」


 勇気は静かに頷いた。


「ねぇ、何でオムライスなの? せっちゃんは今の言葉を聞けば、勇気くんなら意味が分かるって言ってたけど、どういう意味?」


 愛はメモ帳をテーブルの上に置くと、再びパフェを食べ始めた。


「意味? ………そうか、あの時は男女で分かれていたから桃井は見てないのか」


「あの時?」


「あぁ、昔話だよ……そうか、あんな昔の事、覚えているのは俺くらいだと思っていたが、正義もだったか……」


 勇気は独り言の様に呟いた。

 その呟きに愛は首を傾げる事しか出来ない。


「え? 何それ? 意味分からないよ」


「だろうな……これは俺と正義にしか分からない言葉だ」


 そう言うと勇気はパンを一つ手に取り、ちぎり始めた。


「あっ……食べるの?」


「あぁ、今の言葉を聞いて、俺は決めたよ。その為にはやはり少しは食べておかないとな……」


「決めた? 何を?? ………あっ!もしかして英雄に戻るって事?」


 勇気の言葉を聞いて愛の瞳は輝く。

 だが、その期待は勇気の冷たい言葉で簡単に否定されてしまった。


「いいや、そんな訳ないだろ。その逆だよ。俺は今日には必ず町を出る……そう決めた。どんなに桃井が邪魔をしようが関係ない。正義に分からせなければならないからな、俺は英雄ではないと……」


 そう言うと勇気はパンを一切れ口に放り込んだ。

 逆に、愛の手は止まる。


「え………ちょっと待ってよ、何で? ……せっちゃんの言葉の意味が分かったんでしょ? だったら何でそんな事言うの? せっちゃんが勇気くんに『出ていけ』って言ってるの? 違うでしょ?」


 愛は質問をしながらも『そんな訳はない』と分かっていた。でも、だからこそ、何故勇気が正義の言葉を聞いて、町を出る決意を新たにしたのかその理由が分からなかった。


「出ていけ……? いいや、その逆だよ。逆だからこそだよ。アイツにとって俺は邪魔者なのに、アイツはそれを分かっていない。俺に拘るなと分からせないといけないんだ。本当に英雄になるべき人間を探すべきだと。何故なら、そうしないとアイツは………」


「何よ……」


 愛は勇気を睨み付けた。愛は勇気が何を言おうとしているのか分かったんだ。

 そして、勇気は躊躇いを見せながらもこう言った。


「アイツは………このままじゃ、死ぬ」


「死ぬ………」


 その言葉に愛の声は荒ぶった。


「ちょっとさ、自分が何を言ってるか分かってんの!!」


 ドンッ……とテーブルを叩いて愛は立ち上がった。

 だけど、勇気は冷静だ。ただゆっくりとパンをちぎりながら淡々と喋るだけ。


「だってそうだろ。世界を救うには五人の英雄が必要なんだ。その一人が欠けているんだぞ。そんな状態でどうする………」


「だからそれは! 勇気くんが!!」


「他の客に迷惑だ。叫ぶなよ。桃井、もういい加減にしてくれないか。無理だと言っているだろ。俺には無理なんだ……」


「何で! 何でそんな!!」


「もう良いだろ、答えは決まっているんだ……」


「何よそれ……」


「これを食べたら俺は母さんに会いに行く。やはり最後の挨拶はしておきたい」


「ちょっと待ってよ………」

 愛は愕然とした気持ちだった。『何で……何でなの?やっぱり止められないの……』と。


 その時だ。


 何処かから、デカギライの高笑いが聞こえてきたのは………







「フハハハハハハハッ!!!」


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