第6話 勇気の心を武器にして 3 ―ブチッ!!バラバラバラバラ―
3
「あっ……居た!!」
「あ……」
突然鳴ったインターフォンに反応して、勇気は思わず玄関のドアを開けてしまった。その動作は極々自然に、当たり前の様に。
無視する事は出来た。開くにしても、誰が訪ねて来たのかを確認してからでも良かった。いや、開いた瞬間の勇気は『そうするべきだった……』と思った。
でもその
『あの時、もし桃井が訪ねて来てくれなかったら……俺は一生、臆病者であり続けただろう。桃井が俺を奮い立たせてくれたんだ。あの時のビンタは……とても強烈だった』
―――――
「嘘ぉ! 一か八かだったのに!! 居た!!」
「あ……」
ドアを開いた瞬間、愛の姿を目にした勇気は固まってしまった。『しくじった……』勇気はそう思ったんだ。だって、愛は今一番会いたくない人物の内の一人なのだから。
「…………」
だから、勇気は無言で扉を閉めようとした。
「ちょっ……ちょっと待ってよ!!」
だが、愛は素早い。そして力が強い。勇気がドアを閉めきる前に両手でドアノブを掴むと、強引にドアを開いてしまった。
「な……何をするんだ」
「何をするんだじゃないでしょ!! 勇気くん、家に居るならちゃんと教えてよ!」
愛の言葉や、言い方、表情、勇気はそれがどの感情なのか読み取れなかった。
喜びなのか、怒りなのか、そのどちらにも見える。
「私、何回勇気くんに電話したと思ってんの! 電話だけじゃない、メールもいっぱいしたし! 全部無視して! スッゴい心配したんだから!!」
だが、愛の感情が何なのか分析する時間は勇気にはなかった。
何故なら、愛がズカズカと家の中へと入ってきてしまったからだ。
「お……おい、入ってくるな。やめろ!」
勇気は困惑した。『最悪だ、こんな筈じゃなかった。最悪だ、何でこんな事になった……』この二つの言葉が頭の中で渦を巻く。
だが、最悪は更に続いた。
「あれ? ソレなに??」
愛に"ある物"を見付けられてしまったんだ。
「……もしかして、本当に出ていくつもりなの?!」
それは玄関に置いていたボストンバッグ。
「あぁ……その」
『つもりだ……』と勇気が言おうとした瞬間、その言葉を先読みしたのか、愛がボストンバッグを手に取った。
「ダメ!! 行かせない!!」
「あっ! 待て!!」
でも勇気だって負けてない。慌てて手を伸ばし、バッグからダラリと垂れたショルダーベルトを手に取った。
「絶対ダメだよ! 出ていくなんて!! 今すぐせっちゃんの所に行こう!!」
「良いんだ!! 桃井、放せ!!」
勇気は愛から強引にバックを奪い返そうと引っ張るが、愛の引っ張る力も強くて簡単にはいかない。
「桃井、放せッ!!」
「ダメッ!!」
どちらも譲らず、二人は綱引き状態になった。勇気がショルダーベルトを、愛が持ち手を持って、オーエス! オーエス! 君はどちらを応援する?…………なんて言ってられない。この時、事件は起きた。
ブチッ!! バラバラバラバラ………
「うわっ!!」
「キャッ!!」
二人の力が強過ぎたんだ。バッグの胴体がビリビリと裂けた。
「あぁ……」
「えぇ……」
広い玄関に尻餅をついた二人は呆然とした表情で同じ言葉を呟いた。
「嘘……だろ」
「嘘……でしょ」
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