第6話 勇気の心を武器にして 2 ―臆病者か……卑怯者か……―
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― 俺は呆けた奴だな……
勇気は自分自身の事をそう思った。
― 今更あの頃の夢を見るなんて、馬鹿にも程がある……
勇気はベッドから起き上がると時計を見た。
― 呆れる……呆れ果てるな……
時刻は14時を回っていた。勇気は早朝には家を出るつもりだった。時刻は大幅に過ぎている……
だが、昨日の夜まで約二日の間、勇気は一睡もしていなかったのだから仕方がない。
しかし、勇気は自分自身を責めた。
「町を出ると口にしたくせに、現状に甘えて
荷物は昨晩の内に纏めてある。勇気はすぐに家を出る事にした。風呂も入っていない、飯も食べていない。でも『それは町を出てからにしよう……』と勇気は考えた。
勇気はもう堪えられなくなっていたんだ。『輝ヶ丘を出る』と決意しながらも、いつまでも居座り続ける自分に。
― せめて母さんには、町を出ていくと告げたかった……だが
『だが、会わずに出る……その方が良いのかも知れない』
勇気そう考えた。
その理由は『母さんは俺が別れを告げれば、きっと悲しむだろう。ならば、何も告げずに出ていった方が、いつか戻ってくるのではないか?と希望を持てるのではないだろうか。それは、馬鹿な息子が最後に出来る親孝行になるのでは……』そう考えたからだ。
でも、
― いや………違うな
勇気はすぐに気付いた。
『この考えは嘘だ……』と。
自分自身の事だ。勇気は自分を騙せなかった。
― ……何を嘘をついている。卑怯者が……。俺は、母さんに会うのが怖いだけだろ……。母さんに輝ヶ丘を出ると言えば、母さんは絶対に引き留めてくる。そして、俺が話せる限りの事情を話しても、母さんは俺を励ますだろう。そうなれば又、俺の決断は揺らぐ。昨日の夜の様に……。俺は弱い人間だから……必ずそうなる。それが分かっているから、会いたくないだけ………何が親孝行だ。嘘をつくな、馬鹿が……。頭でごちゃごちゃと言い訳を考えて、本当の自分を見ないようにするのはもう止めろ。自分の都合の良い世界を作って、自分の愚かさから目を背けるな……俺は親友を見捨てて逃げ出した臆病者なんだ。さっさとこの町を出ろ。もう正義の邪魔になる様な生き方をするな……
勇気は自分を責め続けた。『臆病者』『卑怯者』と。
玄関に座って靴紐を結ぶその手は、責めれば責める程に震えてきた。
― また震えるのか……その震えは何の意味がある?震えれば俺の愚かさは消えていくのか? いいや……そうじゃない。俺は震える事で自分を"可哀想な存在"にしたいだけだ……どこまでも……どこまでも俺は……
ピーーンポーーーーン
その時、間延びしたインターフォンの呼び鈴が鳴った。
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