第5話 俺とお前のオムライス 27 ―友情の証―

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「はぁ~~あ! 本当嫌になっちゃうよなぁ~~、俺の母ちゃん怒ると長ぇからさ、あの後ずっと怒られてたんだぜぇ」


「はははっ! そうなの?」


「うん! 罰として夕飯はサラダだけにされちゃうし、もう腹ペコだよぉ」


 正義と勇気は校庭の隅に居た。深緑色した平均台を椅子代わりにして。勇気は長い足を組んで優雅な感じに、正義は器用に胡座をかいて座ってる。

 まだ休み時間はきていない。放課後でもない。現在は体育の授業中。でも、今日の二人は二日前と違ってボールに触る事は出来ない。何故なら、見学をさせられているからだ。


「はぁ……それにしてもつまんないなぁ。俺もサッカーやりたかったなぁ」


「仕方ないじゃない。先生が決めた事なんだからさ」


「だって、出来ると思うんだけどなぁ」


 正義は自分の足をチラッと見た。


 二人は先生の判断で見学へと回された。勇気は額の辺りに痣が出来ているから、正義は川へと落ちた時に捻ったのか少し足に痛みがあったから。


「山田の奴は普通にやってんのに俺達だけ……不公平だ!」


「ははっ! 多分、山田は体が頑丈に出来てるんだろうね。ま、良いじゃないの。俺はこうやって皆が楽しそうに体育をしてるのを見るのも嫌いじゃないよ」


「えぇ!! 何それ、勇気は心が広いんだな」


 正義は勇気の言葉に目を見張った。


「ははっ! 心が広いんだなんて、そんなんじゃないよ。ただ……」


 ただ、勇気は気分が良かった。

 何故なら『正義と一緒なら、何かを変えられるかも知れない』そう思った自分の予感が当たったからだ。


 勇気は正義と友達になってからは、悪夢を全く見なくなっていたし、それに一番大きい変化は昨日だ。勇気は昨日、正義と"革命"を起こした気がした。嫌な気持ちで溢れていた毎日が変わっただけじゃない、その原因とも言える山田との関係も悪くなくなったのだ。それは勇気からすると正に"革命"だった。


 因みに今日だって山田は、勇気と正義が体育を見学する事になったと知ると『お前ら見学になっちゃったのか……何か、ごめんな』そうぶっきらぼうに謝ってきた。そして、体育を受ける山田を見ても、この前までの横暴さは見えない。皆と一緒に楽しんでいる様に見える………たまに、シュートが決まらなくて一人で悪態をついてはいるが。


「ただぁ??」


『ただ……』と言い残して黙った勇気に、正義が聞いてきた。


「あっ……うん、ただ俺さ、これからは良い事ばかりが起きそうな気がするんだ!」


「良い事ばっかぁ?」


「うん!」


 勇気は力強く頷いた。そして、


「ありがとね! 正義くん!」


 勇気は正義に感謝の言葉を伝えた。


「へ?? ありがとう??」


 でも正義からしたら、それは突然。勇気の言葉の意味を理解出来なかった。何故なら、正義はごく自然にしているだけだから。『お礼を言われる事はしていない』と思っていた。

 でも、勇気からしたら違う。勇気は正義に感謝しかなかった。


「ははっ! 良いじゃん、受け取ってよ、俺のありがとうをさ!」


「う……うん」


「ははっ! ねぇ、正義くん。こういうの知ってる?」


 そう言うと勇気は、ジャンケンのグーの形を作って正義に向かって突き出した。


「グー? あぁ~~」


 そのグーを見た正義は『勿論知ってるぜ!』と言いたげに笑った。


「分かるぜぇ! ほい!!」


 でも、正義が勇気のグーに向かって出したのはチョキ。

 しかも、勇気が求めているのはソレじゃない。


「えぇ……何それ、違うし! しかも負けてるし!」


「あっ! そっか、じゃあこっち!」


 今度はパーだ。

 でも、これも違う。


「……違うよ。知らないの? 拳と拳を合わせるんだよ。友情のあかしさ!」


「友情の証??」


「そう、友情の証!」


「へへっ! そっか!! ソレ良いな!!」


『友情の証』この言葉に正義の笑顔はより大きくなって、ニカッと輝いた。


「へへっ!! じゃあこれだな!!」


 そして、正義はようやくグーを作った。


「行くぜ!!」


「うん!!」


「「オリャッ!!!」」


 二人の拳はガツンッと合わさった。固い友情を心に誓って。


 第二章、第5話「俺とお前のオムライス」 完


―――――


第二章、第5話「俺とお前のオムライス」をお読み頂き誠にありがとうございます。

次回、第6話「勇気の心を武器にして」は、「勇気の英雄の激誕 編」の最終回となります!

遂に、遂に、激しく誕生しますよ!!!!!

お楽しみに!!!!!

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