第5話 俺とお前のオムライス 22 ―青木くんはどこ?―

 22


「あれ? せっちゃん、青木くんは?」


 友達と一緒にパンダ公園の前を通った桃井愛は、公園の水をガブガブと飲む正義を見掛けると声を掛けた。因みに正義曰く『パンダ公園の水が輝ヶ丘で一番旨い!』らしい。


「勇気? 勇気なら今日はいないぜ」

 水でたっぷりと濡れた口元を拭いながら正義は答えた。


 その答えに愛は首を傾げる。

「え? でも、今日は青木くんも一緒に遊ぶんだってせっちゃん言ってたじゃん」


「うん。そうなんだけど、今日はやっぱりダメなんだって」


 口を拭ったのに正義はまた水を飲み始めた。『やめられないとまらない』という事なのだろう。


「ダメ?」


 愛が質問をすると、正義はまた瓢箪ひょうたんの様な形をした蛇口から顔を上げて口を拭った。


「うん、なんかさ、急に塾に行かなきゃいけなくなったんだって」


「だから遊ぶのは明日になったんだ!」


 一言情報を添えたのは、正義の後ろに並ぶ隆だ。隆も『パンダ公園の水が一番!』とよく言っている。


「そっか、そうなんだ。塾なら仕方ないね」

 そう言って愛は納得した。……………だけど、公園を出てから暫くして、愛の足は止まった。


『急に塾に行かなきゃいけなくなったんだって』


 正義の言葉が愛の頭に甦る。


「…………」


 その正義の言葉に、愛は引っ掛かりを感じた。


 ― 急………に??


「愛、どうかしたの?」


 愛の友達が問い掛ける。

 すると、

「果穂ちゃん……ごめんね、ちょっと待てて。私、戻る……」

 愛は踵を返し、公園へと戻った。


 正義はまだ公園に居た。四つ足で立ったパンダの遊具に跨がり、カウボーイの様に腕をグルグルと回し「行け! ボヘミアン!!」謎の奇声をあげている。

 そんな正義に近付くと愛は……


「あのね、せっちゃん!」

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