第5話 俺とお前のオムライス 20 ―ごめんね、今日は遊べない―

 20


 20分休みに入ると、すぐに勇気は立ち上がった。正義と話す為だ。

 背の高い勇気の席は窓に一番近い列の一番後ろの席。そして背の小さい正義は、教室の入り口から数えて二列目の一番前の席。

 勇気は正義の所まで早足で向かうと、机の中を覗き込み二時間目で使った教科書やノートを不器用そうにしまおうとしている正義に話し掛けた。


「ねぇ正義くん……」


「なにぃ~?」


 正義は教科書とノートをしまう事は出来た。だが、まだ筆箱が残ってる。


「今日の遊びの事なんだけど……」


「おう! ランドセル置いたらパンダ公園に集合な!」


 正義は長方形の筆箱をガタガタとぶつけながら机の中にしまおうと奮闘している。正義の机の中には、教科書やノート以外にも別の何かが入っているのだろうか、全然筆箱をしまう事が出来ない。


「いや……それなんだけどさ」


「ん?」


 勇気の声は静かだ。その事に気付いたのか、正義は筆箱をしまうのを止めて、ようやく顔を上げた。


「今日さ……」


「なにぃ?」


「……今日」


 次に言おうとしている言葉を口にするのは、勇気は『怖い』と感じた。だけど、勇気は約束したんだ。桃井愛と。そして自分自身と。『正義くんには行かせない』と。だから勇気は口する。次の言葉を。


「……今日さ、塾の特別授業が入っちゃったんだ。だから、遊ぶのは明日にしよう!」


 そして、正義に向かって笑顔を見せる。


「え……そうなの?」


 戸惑う正義に、勇気は更に続けた。


「うん! だから今日は隆くん達と4人で遊んで! そうだ、皆にも正義くんのオムライス食べさせてあげたら? 正義くんの家で! きっと喜ぶよ! ね! 約束!」


 勇気は早口でそう言うと、小指を立てた手を正義に向かって差し出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る