第5話 俺とお前のオムライス 17 ―山田は睨む、怒りを持って―
17
今まで同級生との勝負に負けた事の無かった山田は、身悶えたくなる程の怒りを感じていた。
嬉しそうに内野へと戻る正義を睨み、勇気を含めた同級生達を見回した。皆、拍手を送る様な賛美の眼差しで正義を見ている。それは仲間である筈のBチームのメンバーでさえそうだった。
『馬鹿にされてる……』
山田はそう感じた。でも、山田は自分の事だから分からなかっただけだ。今まで誰も山田をドッヂボールで倒す者はいなかったのだから、今起きた出来事に同級生達は逆転満塁ホームランを見た時の様な衝撃と、衝撃を間近で見れた事の喜びを感じていただけで、誰も山田を馬鹿になどしていなかったんだ。
でも、山田は勘違いしてしまった。
山田はギリギリと歯軋りをしながら立ち上がると、恨みと怒りを込めた瞳で勇気と正義を睨み付けた。
「赤井! 青木! お前ら卑怯だぞ!!」
でも、ここに制止が入る。
「おいおい山田君、卑怯な事なんて無かったぞぉ! 正々堂々とした良い勝負だったじゃないか! 先生、君と青木君の戦いに凄く熱中しちゃったよ!凄いね!」
審判の先生の言葉だ。しかし、山田は先生のその言葉を受けても、まだ納得していない様子だった。
「うるせぇなぁ……」
誰にも聞こえない様な小さな声でボソッと呟くと、先生に向けた視線を再び勇気と正義に向けた。
「赤井、青木、お前ら覚えてろよ!!」
最後の捨て台詞。山田は勇気と正義に向かって一言だけ残すと内野を出ていった。
―――――
それから、正義が内野に復帰したが、結局第一試合はAチームの負けに終わった。残りの二試合はまずはAチームが勝ち、次にBチームが勝った。結果としてBチームの勝利。だが、その二試合に山田は参加をしなかった。『足が痛い』と先生に申し出た山田は、校庭の隅に座り込み、ただ男子の試合を見ていただけだった。
怒りと恨みに暗く沈んだ瞳で、勇気と正義を睨みながら。
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