第5話 俺とお前のオムライス 14 ―ジャンプボール―
14
今日もいつも通りのルールだった。
ドッヂボールは男子女子に分かれて行われる。正義の学年は全部で42人。男が20人、女が22人、どちらも2で割り切れる。だから男子も女子も2チームに分けられる。
チーム決めは単純だ。『仲の良い者同士で分かれて!』という両クラスの先生の号令で、生徒達は大雑把に2チームに分かれる。そして、そこからチームの体格差を均等にする為に、先生二人の判断で『A君はAチームへ、B君はBチームへ』と移動させられチームバランスが整えられる。
試合数は3試合、最終的に勝ち数の多かったチームの勝ちだ。
………という事で、約束通り正義と勇気は同じチームになった。他にも、隆も紋土も拓海も一緒だ。
そして対するのは、勿論、山田と篠原の居るチームだ。
いや、『居る』というよりも『率いる』チームだ。山田はチーム分けが始まると、運動神経が良くて同じチームに居れば優位になれる男子を次々に仲間にしていった。それも強引に。
相手の腹に拳を押し当てて『殺すぞ!』……これが山田のいつものやり口だった。同級生の中で誰よりも巨漢の山田にこれをやられれば、大体の者は山田の言う事を聞いてしまうんだ。
山田が強引に仲間を集めても先生の判断である程度は両チームのバランスは整えられたが、"完全に"とまではいかなかった。
「さぁ、始めるぞー!」
男子の方の審判となった正義のクラスの先生の号令がかかった。号令を聞いた生徒達は、内野外野に分かれて各々の好きな場所に立つ。
さぁ、試合開始だ。
まずはボールの最初の支配権をどちらのチームが握るか。それを決めるのもいつもの通り。 バスケの様にジャンプボールで行われる。
ジャンパーはチームの中で一番背の高い生徒が審判から指名される。
正義達のチームは勇気、山田率いるチームは山田が指名された。二人の背の高さは同じくらい、後はジャンプ力と瞬発力が物を言う。
「勇気、絶対勝てよ!」
「うん、勿論!」
「へへっ! がんばれ!」
正義はセンターラインとして校庭に引かれた白い線に向かって歩く勇気に声援を送った。
「…………」
「…………」
「二人とも準備は良いな……」
センターラインの前に立つと、両者は睨み合った。山田は歯軋りをする様に顎を左右に動かしながら鋭い眼光で、勇気は毅然とした態度でいながらもその瞳は力強い。
「それでは……よーい! スタート!」
二人の頭上にボールが上がった。
このボールをジャンパーが叩いて、自分達の陣地に落とせた方が勝ち。勝ったジャンパーのチームがボールの最初の支配権を握る。
「エイっ!」
勇気はボールが上がると素早くジャンプした。
「おりゃ!」
山田の方はそれにほんの僅か遅れた。
― 勝った!
勇気は直感的にそう思った。
だが、違う。これは山田の作戦だ。山田はボールに向かってジャンプする様に見せかけてデカイ腹で勇気の体を押したんだ。
「うわっ!」
勇気は重い衝撃で弾かれてしまい、ボールを触る事すら出来ずに着地してしまった。ボールの最初の支配権を握ったのは山田のチームだ……
「ちくしょう……」
山田の行為は故意ではないと判断されたのか、特に咎められる事もなく試合は開始された。
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