第5話 俺とお前のオムライス 9 ―彼となら、何かを変えられるかも―
9
「お邪魔します」
「へへっ! そんなんしなくて良いって! 汚い部屋だし!」
オムライスを食べ終えると、勇気は正義の部屋へと連れていかれた。そして、ここもまた勇気にとっては新鮮な空間だった。
何故なら、正義の部屋は畳敷きで洋室の勇気の部屋とは全然真逆だったからだ。だから勇気はまた自分の世界へと入ってしまって、部屋の中をフワフワと漂い始めてしまった。
「へへっ! そんなに珍しい? 俺の部屋?」
「えっ……」
勇気はまた正義に呼び掛けられて我に返った。
「う……うん。スゴく良い……この部屋スゴく良いね!」
勇気は瞳を輝かせて答えた。
その反応に正義は笑う。
「すごく? へへっ! そんなにぃ? ただの部屋だぜ?」
正義からしたらそうだろう。
でも、勇気からしたら違った。
部屋の隅には漫画しか入ってない本棚、窓際には玩具やゲーム機だけが置いてあって勉強した欠片も無い勉強机、畳の上には雑に置かれたランドセル………勇気は正義の部屋に入った瞬間にあるものを思い浮かべていた。それは『猫型ロボットが出てくるアニメの主人公の部屋』だ。
だから勇気の瞳は輝く。アニメでしか見た事の無い世界が目の前にあったから。
「うん、スゴいよ!」
「そう?」
「うん!」
―――――
…………それから約一時間くらいは、正義の母が用意してくれたポテトチップスとジュースをつまみに、二人は漫画やゲームの話に興じた。
今まで別々の町に暮らしていた正義と勇気でも、やはり同い年というのは強い。ハマっている物は同じだった。
そして、その話題が落ち着き始めた頃、正義はある話題を切り出した。それは何の気なしに。
「なぁ、勇気。なんで山田と喧嘩してるんだ?」
それは山田との諍いについて。『今日、この話題を出そう』とは正義は一切思っていなかった。けれど、気が付いたら正義は山田の事を口にしていた。『アイツと仲が悪くても、勇気は俺の友達!関係ないね!』と思っていたのに。
「…………」
その問いに勇気は一瞬答えるのを躊躇った。
「あっ! やっぱダメだった? 聞いたらダメだった?」
勇気の躊躇いに、流石の正義も気が付いた。
「ダメ……と言うか」
山田との間に何があったのか、それは勇気にとってはとても陰鬱な話だった。だから母にも話していない。
「…………」
でも、何故だろう。勇気は正義の顔を見ると『この友達には打ち明けても良いのではないか?』と思えた。
勇気は父を失ってから喜怒哀楽の喜と楽を失くした様な日々を過ごしていた。それが、正義と出会ってから『楽しい』と思える気持ちが戻ってきていたんだ。毎日見ていた"死に追われる悪夢"も昨日は見なかった。だから勇気は思った。
― 彼と一緒なら……何かを変えられるかも知れない
だから勇気は打ち明ける。山田との間に何があったのかを。
「良いよ。話すね……あのね、まずは俺の父さんに何があったのか、から……」
「勇気の父ちゃん??」
「うん……俺の死んだ父さんの話だよ」
「………」
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