第5話 俺とお前のオムライス 6 ―山田の待ち伏せ―

 6


「おい青木! お前、何か楽しそうだったなぁ!」


「はぁ……また君か」


「あぁ! 何が君かだ! 気取りやがって!!」


 ここは勇気の通学路。学校から勇気の家までの道中には、小さな川が流れている所があって、その場所には横幅3mくらいの短い橋がかかっているのだが、その橋で山田は勇気を待ち伏せしていた。


「気取ってる……そう取られたのなら申し訳ない。俺は普通に話してるつもりだ。それよりも退いてくれる? 俺は急いでいるんだ……」

 勇気は家路を急いでいた。勿論その理由は、正義との約束があるからだ。


「急いでる? ははぁん、赤井と何か話してたもんなぁ! アイツと約束でもあるのか?」


「だったら何? 君には関係ないだろ。君が退かないなら無理矢理通らせてもらうよ……」

 そう言うと勇気は、橋の真ん中で立つ山田の脇を通ろうとした。でも、


「待てよ!!」


 その胸倉を山田が掴んだ。山田と勇気の身長差は殆ど無く、胸倉を掴まれた勇気は山田と顔を突き合わせる形になった。

「何だよ……やめてくれ」

 凶暴な目で睨む山田を、勇気は冷静な目で見詰め返した。表情も変えない。いたって無表情だ。

「その手を放してくれ。俺は君とは話したくない。俺が嫌いなら関わらなきゃ良いだろ……」


「嫌いじゃない、ムカつくんだよ……」


「同じ意味だろ。放してくれ……」


「フッ……じゃあ放す代わりに赤井をボコろうかなぁ?」


「何だと……」

 その言葉に勇気の表情は変わる。怒りに満ちた顔へと。


「おぉっ! 怒った! へぇ……やっぱり刑事の子供も勇敢なんだなぁ……」


「やめろ……」

 次に山田が言う言葉は、勇気には聞かなくても分かった。

「それ以上言うな……」


「そんな怖い顔、刑事の子供がするもんじゃねぇよ……英雄の子供がさぁ」


「やめろ……やめろって!」

 何故勇気は、山田が言う言葉が分かるのか……それは、一週間前にも浴びせられた罵倒だからだ。


「あっ……そうだった。"英雄の"じゃないか。"英雄気取りで死んでいった負け犬の"だったなぁ!!」


「やめろッ!!」

 勇気は我を忘れてしまった。山田を殴ろうと右手を振り上げる。

 しかし、


「馬ぁ鹿ッ!!」


 山田はデカイ図体のわりに素早い。勇気が手を振り上げると、山田はすぐに勇気の胸倉から手を放し、勇気と距離を取った。


「負け犬の子供は負け犬の子供らしく大人しくしてろ! 気取ってんじゃねぇよ!!」


 そう言うと山田は去っていった。嫌な気持ちを勇気の心に残して……

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