第4話 みんなを守るために…… 15 ―正義は空を見詰める―
15
ここは秘密基地の中。
正義は切り株の椅子に座って、茫然とした感じで夜空を見上げていた。
「せっちゃん、リンゴ食べる?」
そんな正義に話し掛けたのは愛だ。愛は正義の向かい側に座って、ニコッと正義に笑い掛けた。
その手に握られているのは真っ赤なリンゴ。これは、勇気の母のお見舞いに行く時に寄った青果店のリンゴがあまりにも美味しそうだったから、秘密基地に行く前に『皆で食べよう』と愛が買ってきた物だ。
「ん? あぁ、後で……で良いや。さっき《魔法の果物》いっぱい食べたし。いま、腹いっぱいなんだ」
正義はチラリと愛の顔を見ると、小さな声で断った。そして、再び空を見詰める。
「そっか。美味しそうなのになぁ」
残念そうに返す愛。
愛はボッズーから正義がデカギライを取り逃してしまった事を聞いていた。だから『リンゴを食べよう』と誘ったのも、『元気付けたい』という気持ちからだった。
「ねぇ、せっちゃん……」
愛は手のひらの中でリンゴをコロコロと転がしながら正義の顔を見詰めた。
「なんだよ?」
正義は空を見詰めたままだ。ボーッと見詰めたまま。
「なんだよって、ねぇ……元気出してよ」
愛は正義が落ち込んでいる様に見えて悲しかった。愛にとっては元気こそが正義で、元気の無い正義は見ているだけで心苦しかったんだ。
でも、
「元気出せ?」
正義は空を見詰めたまま首を傾げた。
「元気出せ……って、俺は元気だぜ」
「え?」
愛が『?』を顔に浮かべると、正義はやっと顔を下ろした。
「だから、俺は元気だって。へへっ!」
正義はニカッと笑った。
「え……だって、さっきからずっと静かだし……」
愛は戸惑った。元気の無い正義が悲しかった筈なのに、当の正義がニカッと笑ったら予想外の反応過ぎて困惑した。
「へへっ! 静かか、ちょっとなぁ~考え事してたんだよ。あっ、そっか! 愛は、俺がデカギライの事で落ち込んでると思ったんだろ? へへっ! 大丈夫、大丈夫。落ち込んでる暇なんか無ぇからさ!!」
………そうなんだ。正義はもう前を向いていた。茫然としている様な"感じ"でいただけで、茫然とはしていなかった。正義は考え事をしていたんだ。
「考え事? 何を??」
「へへっ! そりゃあデカギライをどう倒すかだよ!」
「どう、倒すか?」
「そう! 俺さ、もうちょっとであの野郎を倒せる所だったんだよ。でも、騙された。でも……」
正義は人差し指をピンっと立てた。
「……あの時、英雄がもう一人いたら勝ててたんだ。その事に今考えてて気が付いた!」
「もう……一人?」
「そう! だってさ、英雄は俺一人じゃない。そうだろ愛? だからさ、あの時にもう一人誰かがいれば勝ててたんだよ!」
「でも、いなかっただろボッズー。ずっと考えてて『もしも』の話しか思い付かなかったのかボッズー?」
今まで正義を放っておいて愛から貰ったリンゴに噛り付いていたボッズーがリンゴを嘴で咥えたままパタパタと飛んできた。そして、正義の肩に止まる。
「いやいやだから、もう一度アイツをあんな状況にまで追い詰めて、その時にもう一人がいれば良いんだろ?」
「もう一人って……実際のところ今はお前一人なんだから、それは非現実的な考えだろボッズー。作戦を立てるなら、今目の前にある材料から考えろボズぅ」
ボッズーはまるで教師の様に言った。
「何が非現実的なの?」
このボッズーの反応に対して愛はちょっとムッとした顔を見せた。
「だったら、私が変身出来る様になれば良いんじゃん! そうだよね、せっちゃん?」
愛は前のめりになって正義に問い掛けた。
「あぁ! その通りだぜ!! へへっ、やる気満々だなぁ、愛!!」
正義はまたニカッと笑った。
―――――
この時、正義はジーンズの後ろのポケットに手を突っ込んで"腕時計"に触れていた。
これは正義が無意識に取った行動。でも、正義の心の内が表れた行動だった。
この腕時計の持ち主に『俺は待っているぞ』と気持ちを送る、無意識の行動だった。
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