第4話 みんなを守るために…… 14 ―路地裏の芸術家― 

 14


 雑居ビルに挟まれた暗い路地裏で、男は身を隠していた。傷付いた体を休める為だ。

「ふざけやがって……クソガキがぁ」

 顔面から血を流した男。デカギライの力を与えられた男だ。

「もし俺が、あの技をくらっていたら……俺はあの時死んでたのか? ハハッ……ふざけやがってぇ!!!」

 男は目の前にある水色をした薄汚れたゴミ箱を蹴り上げた。


 ボゴンッ……と軽い音が鳴った。蹴った感触も中身は空という感じだった。だが、左右に動いたゴミ箱の揺れが収まると


「ホホホホホぉ~~♪」


 ゴミ箱の中から笑い声が聞こえた。歌を歌っているかの様な陽気な笑い声が。


「ナぁ~イスキックですねぇ~~~♪」


「え……な……なんだ」

 男はその声に驚いて目を見張った。すると、再びボゴンッ……と音が鳴って、ゴミ箱の蓋が開いた。いや、開いたというよりも、弾け飛んだ。


 そして、その中からは黒ひげ危機一発の様に、男が飛び出した。それは"身体中に三角形を散りばめた男"……


「ホホホホホぉ~~♪ 驚かないでデカギライぃ~~♪ 貴方に会うためここに来たのだからぁ~~~♪」


「な……なんだお前は……」


「ホホホホホぉ~~♪ 私の名前は芸術家ぁ~~♪ 貴方をえがいた男ですぅ~♪」


 そう歌いながら《芸術家》はゴミ箱を跨ぐ様に出てきて、男の目の前に立った。


「え……描いた?」


「そぅ♪ 貴方のデカギライは私の芸術ぅ~~♪ 良い作品が出来ましたぁ~~♪ うぅ天才ぃ♪ うぅ言わないで♪ しぃ~~~♪」


 芸術家は何処からか取り出した筆を、何も言おうとしていない男の唇に当てた。


「でも……負けたぁ~~♪ 敗北、それもまた芸術ぅ~~♪」


 芸術家は筆を男から離し、空に歌う様に顔を上げて両手を広げた。


「何なんだ、お前……俺をからかっているのか」

 男は激怒寸前だ。顔面から流れる血がより男の血の気を荒立てる。


「ホホホホホぉ~♪ からかってなどいないぃ~♪♪ 私は貴方を強くしに来たぁ~♪ ほんのちょっとのアレンジで♪ 貴方はもっと強くなるぅ♪ あなたはきっとこれで勝てるぅぅぅう♪♪」


 芸術家は空に向かって広げた手を下ろし、男へ向けた。


「サササッ♪ サッ♪」


 芸術家はそう言うと、男の顔を筆でサッと撫でた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る