第4話 みんなを守るために…… 12 ―俺のガチ本気モード―

 12



 そこからの出来事は電光石火だった。



 セイギが"邪魔をしたデカギライ"を倒したのは一瞬の内。だからセイギが歩き始めた時は、他のデカギライ達が漸く立ち上がる素振りを見せたところだった。


 ………その姿を見たセイギは


「ハァッ!!!」


 一気に動く。

 セイギは方々に散ったデカギライ達に向かって走り、全てのデカギライに斬撃をくらわせた。その素早さは残像を残す程の速さで、


「「「グワァッ!!!」」」


 デカギライ達はほぼ同時にセイギの斬撃をくらった。

 攻撃を受けたデカギライ達は、更に方々の場所に飛ばされる。


「フゥーーッ……フゥーーッ……」


 だけど、セイギは優勢に見えて優勢じゃない。ギリギリの所で踏ん張っているだけだった。体の痛みや疲れからの体力の消耗が激しく、荒れた呼吸は更に荒れて、気を抜いてしまえばすぐに倒れ込んでしまってもおかしくないくらいだった。

 デカギライはゴキブリ並みに素早く、姑息な奴だ。もし、一瞬でも隙を見せたら再びリンチにされるだろう。

 だからセイギは止まれない。短期決戦を挑むしかなかった。


「ボッズーッ!! 頼むッ!!」


「OKボッズー!!」


 何が『頼む』なのか、そんな事はいちいち聞かなくてもボッズーは分かっている。『セイギは再びやるつもりだ!!』と。


「テメェ……このぉ!!」


 しかし、一体のデカギライが素早く反応した。このデカギライは顔面にギタギタと亀裂が走っている。コイツのこの傷を見れば分かるだろう。コイツは"セイギの正面に立つデカギライ"だった奴……セイギに"顔面を殴られたデカギライ"に違いない。このデカギライは亀裂の走った顔を怒りで歪ませながら、ボッズーに銃を向けた。


「ぺゅぅ! 二度も邪魔されて堪るかボッズー!!」


 でも、素早いのはボッズーも同じだ。いやボッズーの方が早い。ボッズーはデカギライ達が動き出すのを先読みして、既に羽根の爆弾を飛ばしていたのだから。

 だからボッズーを狙った"顔面を殴られたデカギライ"も、その他のデカギライも、立ち上がる事なく三度みたび地に伏せた。


 そして、ボッズーは飛んだ。"最初に現れたデカギライ"に向かって。


「今度こそ見てろよ! 《俺のガチ本気モード》だボッズー!!!」


 ボッズーが叫ぶと、その体はキラキラと金色こんじきに輝き出し、徐々に半透明になっていった。でも、ここまでは序の口だ。ボッズーの変化はまだまだこれからだ。

 半透明になった金色のボッズーの体は目映くカッと光を放った。その光は人の目を眩ますとても強い光だ。セイギもデカギライも一瞬目を瞑った。

 その一瞬の中でボッズーは更に変化する。頭と尻を覆ったタマゴの殻は体から離れ、そして更にボッズーはキラキラと光ったまま姿を消した。


 何処へ? それは分からない。神のみぞ知るだ。それよりも、ここからだ。ボッズーの姿が消えても、ボッズーの殻は"最初に現れたデカギライ"に向かって飛び続けたのだ。


 この時、目映い光は消えた。"最初に現れたデカギライ"は瞼をしばたたかせながら目を開いた。


「な……なんだ!!」


 "最初に現れたデカギライ"は驚いた。無理もない。何故なら、己に向かって飛んで来るのは、不思議なタマゴの殻なのだから。しかもその殻は飛んでいくうちにズンズンと大きくなっていく。丁度デカギライの体をすっぽりと収められる位の大きさに。


 大きくなったタマゴの殻は左右に分かれ飛んでいく。頭の方が右に、尻の方が左に。そのスピードも早い、ビュビューンモードの加速に近い。そして、一気に"最初に現れたデカギライ"を囲んだ殻は再びカッと光って、誰にも邪魔出来ない程の素早さで"最初に現れたデカギライ"を左右から挟み込んだ。


「「なにッ!!!」」


 ヘリポートに誕生した"黄金に輝く半透明のタマゴ"に驚き叫んだのは、残されたデカギライ二体だ。二体は今度は何も出来なかった。ボッズーの邪魔を出来なかった。


 先ずはボッズーの羽根の爆弾で牽制されて、続いてはボッズーの目映い光に視界を封じられた。そして、邪魔を出来なかった一番の理由は、驚愕だ。


 デカギライも《王に選ばれし民》の力を与えられているだけで、人間は人間なんだ。驚きという感情は捨てられない。目映い光が消えて目を開いた時、そこに見えた光景に、デカギライは驚愕し思考停止した。しかも殻のスピードは速いのだ。残されたデカギライ二体は成す術もなかった。


「「クッ……クソォッ!!!!」」


 デカギライ二体はやっと動いた。未だ膝立ちの状態ではあったが、"黄金に輝く半透明のタマゴ"に向かって弾丸を発砲し始めた。でも、タマゴに包まれたのは己だ。デカギライは少し躊躇したのか、放たれたのは連発ではない、単発だ。


「させるかッ!!」


 しかし、この弾丸はセイギが斬った。現在のセイギはデカギライ達の丁度中間にいた。


 "中間"と言っても現在のデカギライ達の居場所がどうなっているのかを説明していないからよく分からないだろう。

 現在のデカギライ達の居場所を簡単に説明すると、それは三角形だ。

 各々の場所を線で結べば、二等辺三角形に近い形になるだろう。"最初に現れたデカギライ"を頂点として他二体が底辺の両端だ。


 この形は偶然であって偶然じゃない。何故なら、セイギが"邪魔をしたデカギライ"を倒した後に振るった斬撃は"最初に現れたデカギライ"から他二体を引き離す目的もあったからだ。この時のセイギは、"最初に現れたデカギライ"以外のデカギライに向かって"斬る"というよりも"打つ"という意識で大剣を振るっていた。『なるべく遠くへ行ってくれ』と願いながら。

 そして、デカギライ達は弾き飛ばされて、出来たのがこの三角形だ。この三角形は『三角形を作ろう』と狙って作った訳ではなく偶然だが、セイギがデカギライ達の中間に立っているのは偶然じゃない。

 セイギはボッズーを守る為にこの場所に立っているからだ。セイギにはこの場所からなら、ボッズーを邪魔しようとするデカギライの弾丸を捌ける自信があったのだ。

 結局、《俺のガチ本気モード》の摩訶不思議な変化のお陰でセイギの出番はなかったが、ここからがセイギにとっての本番だ。


「行くぜ……」


 セイギは小さく呟いた。


「……決めるぜッ!!!!」


 そして叫ぶ。


「ジャスティス! スラッシャァァーー!!!!」


 しかし、デカギライも黙って見ている訳がない。


「「クソがぁッッッ!!!」」


 抵抗する為にセイギに向かって弾丸を連発してきた。


 だがしかし、その行動をセイギは読んでいた。セイギは大剣をいつもの様に"線"では振るわなかった。セイギはターンをする様にくるりと回り、大剣を"円"で振るった。俗に言う回転斬り………くうを斬った大剣の刃からは残像の如く光輝く黄金のオーラが発射された。それは大剣に溜めた力を凝縮させたエネルギーの塊。

『残像の如く』なのだから、その塊はセイギの太刀筋と同じく円を描いてる。"最初に現れたデカギライ"だけじゃなく、その他のデカギライに向かっても飛んでいく。セイギの理想通り、デカギライが連発した弾丸を斬りながら。


「何なんだ……何なんだッ!! クソッ!!」


 一体のデカギライが発砲を止めた。それは顔面の割れた奴……"顔面を殴られたデカギライ"だ。

 "顔面を殴られたデカギライ"は己に向かって飛んでくるジャスティススラッシャーを恐れてか、体を翻して、一気に駆け出した。ヘリポートの外に向かって。


 ― 逃げても無駄だぜ。本体は仕留めた!!


 セイギがそう心の中で呟いた瞬間、ジャスティススラッシャーは黄金のタマゴに命中し、タマゴを爆発させた。


 そして、それとほぼ同時に、最後までセイギに発砲し続けていたデカギライにも命中、その体を真っ二つに斬り裂き……………だが、"顔面を殴られたデカギライ"はどうだっただろうか




 ………


 ……………。







 ………


 ……………。






 ………


 ……………。






「嗚呼……」










 何故だろう声が聞こえた……






 "最初に現れたデカギライ"="本体"を倒せば、《王に選ばれし民》の力は浄化されて、デカギライは消える筈なのに。

 デカギライの本体が消えれば、分身も消える筈なのに……何故だろう……



「危なかった……もう少しで殺られるところだったぜ」



「………なにッ!!」


 セイギが後ろを振り返ると、ソイツは……そこにいた。現れた時と同じ様に、ヘリポートの縁に肘を掛けて………

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