第4話 みんなを守るために…… 10 ―真っ赤な鬼からは逃げられない―
10
「「と……止まれこのガキッ!!」」
セイギを羽交い締めにする"最初に現れたデカギライ"と"セイギの正面に立つデカギライ"、その二人が同時に叫んだ。
どんなに力を入れてもセイギは止まらない。どんなに弾丸を命中させてもセイギは止まらない。止まらないどころか、セイギの歩みはもう既に走りとなっていた。
「「止まれッ!! 止まれぇッ!!」」
デカギライからすれば、セイギは鬼に見えた。真っ赤な体の鬼。迫る鬼にデカギライは恐怖を覚え、そして一つのミスを犯した。それは分身の一体が"不意打ち"を受けた事に気が付かなかった事だ。
デカギライの分身の思考回路がどの様になっているのかは分からない。本体と分身が完全に独立して機能しているのか、それとも本体を軸にして分身が動いているのか、そのどちらかだろうがどちらかは分からない。しかし、二体のデカギライがセイギに恐怖している時、"不意打ちを受けたデカギライ"は完全に二体から蚊帳の外にあった。
不意打ちをくらわせたのは勿論ボッズーだ。ボッズーはビュビュンモードに変形し、背後を取ったデカギライの背中に思いっきり飛んだ。
"不意打ちを受けたデカギライ"は、やはりセイギに向かって弾丸を撃っていた内の一体だった。現在、"セイギの正面に立つデカギライ"はセイギが正面切って向かって行っているのだから、ソイツじゃない。もう一体だ。ソイツはセイギの正面じゃなく、セイギの向かって右側に居た。セイギが"最初に現れたデカギライ"に向き合って攻撃していた時、その場所は"セイギが北だとすれば東側"だ……ならばこのデカギライはきっと、デカギライが反撃を開始して一番最初にボッズーの《羽根の爆弾》をくらった奴だ。
その"不意打ちを受けたデカギライ"="東のデカギライ"はボッズーのビュビュンモードの体当たりをくらって激しくブッ飛んだ。
そして、猛スピードでブッ飛んだ"東のデカギライ"はある者にぶつかった。
それは……セイギの走りを止めようとする者。"最初に現れたデカギライ"だ。
"最初に現れたデカギライ"はセイギを止めようと重心を後ろにして踏ん張っていたものだから、セイギの加速が増していくにつれ、体が"くの字"に曲がり、羽交い締めにしていた腕も外れて、今では指先でセイギの腕の下を摘まむ程度しか出来ていなかった。
おそらく時間の問題だっただろう、"最初に現れたデカギライ"がセイギの走りに振り落とされてしまうのは。しかし、それをボッズーにブッ飛ばされた"東のデカギライ"が早めた。
「………ッ!!!」
"東のデカギライ"は"最初に現れたデカギライ"のくの字に曲がった体に全身で激突したのだ。
「………ッ!!!」
そして、"最初に現れたデカギライ"が何か言葉を作る前にその体は宙を舞っていた。
そして、そして、僅かながらも制止出来ていたセイギの加速は更に速まり、"セイギの正面に立つデカギライ"が『逃げる』という選択肢を思い浮かべる前に、真っ赤な鬼=ガキセイギがその前に立った。
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