第4話 みんなを守るために…… 9 ―みんなを守るために……―

 9


 諦めない男はここにもいた。それはガキセイギ。そして、彼もまたボッズー同様に悔しさを抱いていた。


 セイギは誓ったんだ。デカギライに命を奪われた警官達に『仇を取る』と。しかし、現状はどうだろうか。セイギは仇を取るどころかデカギライに良い様にやられてばかりだ。だからセイギは悔しかった。


 ― 俺は口ばっかりだ! 結局何も出来てねぇ!!


 デカギライに羽交い締めにされて抵抗する事も出来ない自分。セイギは自分自身を情けないと感じ、自分自身を許せないと思った。弾丸を体に受ける度に体よりも心が痛んだ。


 ― コイツを……コイツを倒せる奴は……俺しかいないんだぞ!!!


「ウオォォォーーーーーー!!!!!」


 セイギは叫んだ。それは痛みに悶える叫びじゃない。反撃開始を誓う魂の咆哮だ。


「コイツに……このままバケモノの力を持たせてたら……コイツは人を襲い続ける!!」


 セイギの脳裏にあの親子の顔が浮かんだ。


「自分の子供を守ろうって……必死に頑張ってたお母さん………元気いっぱいに……応援を送ってくれたあの子…………そんな……そんな掛け替えの無い命を……コイツは奪おうとしたッッ!!!」


「な、なに!!!」


 セイギを羽交い締めにする"最初に現れたデカギライ"は驚いた。

 何故か、それは、自分の足がズル……ズル……と前に引き摺られる様に動いたからだ。前に、前に、勝手に。


「お前、何を……」


 デカギライは気付いた。何故自分の足が前に動くのか、その理由に。それは、セイギが進み始めたからだ。己に飛んでくる弾丸に向かって、セイギが歩み始めたからだ……


「な、何をしているんだ!!」


 セイギは羽交い締めされているにもかかわらず、無理矢理に、弾丸を発砲するデカギライに向かって前進していく。


「許せねぇ……俺はお前を許せねぇ!!! 俺は絶対にお前を倒すッ!!! だからこんな所で、こんな所で負けてたまるかってんだぁ!!! 根性ォォォォオ!!」


 ガキセイギのボディスーツはバチバチと火花を散らした。それでもセイギは歩みを止めない。勿論、セイギも気付いている。このまま弾丸を受け続ければスーツはエラーを起こし消えてしまうと。でも、セイギは弾丸を自ら受けに行く。痛みがない訳じゃない。それでも前に進む。目指すは正面にいるデカギライだ。


 セイギは思っていた。『コイツは本体のデカギライにとどめを刺すのを邪魔した奴だ!!』と。


 セイギが思う本体のデカギライとは、"最初に現れたデカギライ"の事だ。そして、"最初に現れたデカギライ"以外のデカギライの見分けをつける事は困難、いや不可能な筈だが、何故かセイギは正面にいるデカギライが『"最初に現れたデカギライ"にとどめを刺すのを邪魔したデカギライだ』と気付いた。それが何故かは分からない。ただ、『本能が教えてくれている』セイギはそう感じた。

 そして、向かって右側からももう一体のデカギライが弾丸を撃ってきているが、セイギはそっちは無視する事にした。それもまた本能だ。『目の前にいるコイツをブン殴らなきゃいけない!!』セイギはそう感じたから。


「オォォォーーーーーッッ!!!」


 セイギの歩むスピードは徐々に上がっていく。セイギを羽交い締めにする"最初に現れたデカギライ"も動きを止めようと踏ん張っているが、やはりセイギの方が力が強かった。いや、強かったというより"強くなった"のだ。


 セイギの『世界を守りたい』という気持ちは計り知れない程に強い。だから絶体絶命に陥った時、セイギは己の限界を超え、爆発的な能力を発揮する。《芸術家げいじゅつか》と戦った時が正にそうだった。ボッズーを助ける為にセイギは火事場の馬鹿力と言える怪力を見せた。そして、今が再びだ。

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