第4話 みんなを守るために…… 6 ―ゴングが鳴った!―

 6


「うわぁっ!!!!」


 不意打ちをくらったボッズーは二つの翼をバタつかせながらヘリポートの上へと墜ちた。そして、その体は金色こんじきから元の白い体へと戻ってしまう……


「ボッズーッ!!!」

 セイギはボッズーに駆け寄った。

「大丈夫かッ!!」


「う、うん。だ……大丈夫だボズよ。殻が守ってくれたボズ、そんなにダメージは無いボズよ。それよりも……」


 ボッズーは嘘をついていなかった。その証拠にボッズーはすぐに立ち上がった。でも、それよりも、そうなんだ。『それよりも……』なんだ。


「あぁ……」

 セイギはボッズーが言わんとする事が分かっていた。後方から飛んできた弾丸。それは明らかに敵の増援が現れた証……


「フハハハハッ!! 分身しておいて良かったぜ!!」


 セイギが後ろを振り返ると、同時に奴が喋った。それはセイギの後方に現れた一体のデカギライ。ソイツは、"ビルをよじ登る途中"といった格好でヘリポートの縁に肘をかけていた。


「フハッ!! お前が何をしようとしていたのかは分からないが、ギリギリ間に合ったぜ!! 一体何をしようとしてたんだ? 何かヤバイ感じがしたぜ? フハハッ!! やっと面白くなってきたじゃないか! フハハハハッ!!」


 ヘリポートによじ登りながら、ソイツは余裕綽々にセイギを挑発する様な言葉を吐いた。


 しかし、セイギはこの"新たに現れたデカギライ"を見た瞬間、『相手にしてはいけない』と考えを変えていた。


 ― たったの一体か……多分、あんなボロボロの体じゃ分身を生み出す力はそんなに残ってなかったんだな。でも……いつの間に? まぁ良い、そんな事を考えてる暇は無ぇ!! 本体の方はもうボロボロになってる!! あと一歩なんだ!! あと一歩……分身に邪魔される前に絶対に倒してやる!!


 そして、セイギはボッズーに聞いた。


「ボッズー!! ダメージは少ないってのは本当だな? それに、さっきのは本意気か? 違うよな?まだ出来るよな!!」

 セイギが聞いた『さっきのは』……これは《俺のガチ本気モード》とボッズーが叫んだ"モード"の事だ。

 ボッズーは黄金に体の色を変えはしたが、セイギにはまだ本意気で発動させた様には見えなかった。『ジャスティススラッシャーで言えば、大剣を振り上げただけ……』にセイギには思えた。


「あぁ、よく分かったな!! まだ完全に発動させる前だった!! まだ行けるぜボッズー!!」


 セイギの予想は当たった。


「さっきのは《俺のガチ本気モード》の初っぱなも初っぱな、ジャスティススラッシャーで言えばまだまだ大剣に力を溜めてるくらいの所だったボッズー!!」


 この返答にセイギは笑う。


「へへっ! だったらもう一度やるぞ!! バニラアイスは買ってやる!!」


 セイギはそう言ったが、ボッズーは首を振って笑う。

 だって、セイギとボッズーの考えは同じだから。


「いいや、バニラアイスはいらないボッズー!! こっちもやる気満々なんだからなボッズー!! 本体さえ倒せれば終わるんだ! 分身に邪魔される前にやってやる!! サッサと倒して全てを終わらせるんだボッズー!!」


 ボッズーの威勢もセイギ同様良い。


「あぁ!!!」


 セイギとボッズーはお互いの意思を確認し合うと、"先に現れたデカギライ"に向き直った。


 だけど、


「フハハハハッ!!」


 そう簡単にはいかないのが戦いだ。


「ダメだなお前……頭が悪過ぎる」


「何ッ!!!」


 向き直った時、セイギは驚いた。何故なら、膝をついて俯いたままの"最初に現れたデカギライ"の背後には、もう一体のデカギライが立っていたからだ。分身は一体じゃなかったんだ。セイギの読みは甘かった。


「クッソ………まだいたのか」


「クソ? ハハッ! それはお前だろ? クソガキが……」


 そして、その"背後に現れたデカギライ"は満身創痍にまで陥った"最初に現れたデカギライ"の肩に手を置くと、体から光の粒子を放った。

 そして、その粒子は"最初に現れたデカギライ"の体へと吸収されていき、粒子が体内へと入った"最初に現れたデカギライ"の体の傷は見る見るうちに消えていく。


「服までは良いだろ? あまり力をあげ過ぎると俺の方が消えてしまう。なぁ、もう動けるだろ?」


「あぁ……助かったぜ」


 "最初に現れたデカギライ"はゆらりゆらりと立ち上がった。その体に纏ったコートはまだズタボロだ。だが、虚ろだった瞳は変わり、今ではセイギとボッズーへ向けた殺意がしっかりと見て取れる。


「嗚呼、気持ち悪ぃなぁ……」


 そして、もう一体。


「俺と俺が会話してるよ……」


 三体目に現れた分身は、"ボッズーを撃ったデカギライ"のすぐ側で、ヘリポートの縁に座りながら気だるそうに"最初に現れたデカギライ"と"背後に現れたデカギライ"の二体を睨んでいた。


「俺もクソガキみたいに頭が弱くなったかなぁ? フハハハハッ!!」


 セイギの前に現れたのは結局三体の分身……


「いつの間にこんなに……」


 そんな事を考えている暇は無いと分かっていても、セイギは考えてしまった。だけど、やはり暇は無い。四体のデカギライは相変わらずの素早さだ……



 ダダダダダダッ



 まばたきの間に一気に拡散し、ヘリポートの中央に立つセイギを四方から囲んだ。


「「「「フハハッ!! お前、正に四面楚歌だなぁ!!!」」」」


 四体のデカギライは高笑いを上げながら銃を構えた。


「ちきしょう……」

 セイギは呟いた。折角のチャンスだったのに、このままじゃ形勢逆転を起こされてしまう。

「ボッズー……」

 セイギはボッズーを呼んだ。


「うん……」


 やはりボッズーはセイギが言葉にしなくても何を言おうとしているのか理解出来た。ボッズーは羽ばたき、セイギの背後に回った。


「……もういっちょ、やるしかないなボッズー!!」


「あぁ、俺達もうちょっと頑張んないといけないみたいだな。二人、分かれていくぞ!! ボッズーも羽根の爆弾で戦ってくれ!!」


「勿論ボッズー!!」


 ボッズーは翼を大きく広げた。逆転に持っていかれる訳にはいかない。


「「「「BANGッ!!!!」」」」


 さぁ、ゴングが鳴った。

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