第4話 みんなを守るために…… 5 ―声援が英雄に力を与える―

 5


「ありがとう! がんばれーー!!!」


 無垢な子供の声援が、セイギとボッズーにより力を与える。


「セイギ、聞こえたかボッズー?」


「あぁ、勿論だぜ!!」


 デカギライを捕らえ、高く高く空へと飛ぶボッズーのスピードはより速くなり、そしてセイギにはデカギライを倒す覚悟をより倍増させた。


「ボッズー、あそこにヘリポートのあるビルが見えるか! あそこにコイツを連れていくんだ!! あそこなら人も居ないし、障害物も少なそうだ! コイツと存分に戦える!!」


「おうよ!!」

 ボッズーは上昇を止め、セイギが指定したビルに軌道を変えた。


「クッソガキがぁ!! 何が存分に戦えるだコラァ!! 離せぇぇぇ!!」


 デカギライも抵抗していない訳ではない。しかし、セイギの力は強い。正義は今、大剣を仕舞っている。からになった両手でデカギライの両腕を取り、デカギライの体の裏側に捻り上げているからだ。

両腕を強い力で捻り上げられたデカギライは、激しくもがいても逃れる事は出来ない。


「ボッズー、ちょっと聞きたい事がある!」

 セイギはデカギライの言葉を無視してボッズーとの会話を続けた。

「《王に選ばれし民》の力を浄化するには敵を確実に仕留められるくらいの強い技が必要って言ってたよな!」


「あぁ、そうだぞボッズー!!」


「それって、どんな状況でもいつも一定の力が必要なのか? 例えば、万全の状態の敵と怪我をしている敵とじゃ、必要な力は変わってこないのか?」


 この質問にボッズーはコクリと頷く。


「変わってくるだろうなボッズー! 《王に選ばれし民》の力とバケモノは一体化してるボズ、バケモノが弱まれば《王に選ばれし民》の力も同じく弱まる!! そうなれば浄化に必要な力も少なくなるボッズーよ!!」


「そうか! それならもっと早く言ってほしかったぜ!!」

 そう言いながらも仮面の奥のセイギの瞳は輝く。

「だったら今からやるべき事は決まった!!」


 ボッズーのビュビューンモードのお陰でセイギが指定したビルはもうすぐそこだ。


「何がやるべき事だ! ふざけるな!! お前に何が出来るッ!!」


「いや、出来るぜ!! 俺は斬る!! 俺はお前を斬るッ!!!」


 セイギはデカギライの腕を捻り上げたまま、その体を自分の頭の上にまで持ち上げた。そして、


「お前の心の中の悪をなッ!!!」


 ヘリポートに向かってデカギライを思いっ切り投げた。


「何故なら俺はッッ!!!!」


 ボッズーは再び"上の翼"に空気を吸い込み、"下の翼"から一気に噴射する。

 ここでセイギはボッズーに指示は出さなかった。しかし、ボッズーはセイギが言葉にしなくてもセイギの求めている事が分かった。

 ボッズーは投げ飛ばされたデカギライに向かって猛スピードで飛んだ。その間にセイギは再び大剣を取り出す。


 ボッズーのジェット噴射は素晴らしい速さだ。勢い良く投げ落とされたデカギライにすぐに追い付いた。


「正義の心でッ!!!」


 そして、セイギは大剣を振り上げた。


ぁくを斬るッッッ!!!」


 セイギは言葉を……いや、その決心を表す様に、デカギライに向かって思いっ切り大剣を振り下ろした。


「グワァァァァッッ!!!!」


 ジェット噴射の勢いを乗せたセイギの斬撃は凄まじい程に強烈で、デカギライのキュビズムの顔は激しく歪んだ。

 更に、斬撃はデカギライの落下するスピードを加速させ、まるで隕石の様にヘリポートに叩き落とした。


「赤い正義ッッッ!!!」


 それでもセイギは攻撃の手を緩めようとはしない。ボッズーのスピードも緩まない。ボッズーは超速のままヘリポートに向かった。セイギがそう望んでいるのが分かるから。ドンドン、ドンドンと二人はヘリポートに近付いていく。

 このままじゃセイギもボッズーもヘリポートに激突してしまう……そんな距離まで。でも、ここで良いんだ。

 激突するかしないかのギリギリの所まで行くと、ボッズーとセイギは一気に方向転換。一気に90°曲がるとデカギライに向かって飛んだ。


 丁度良い。ジャストタイミングだ。ヘリポートに激突したデカギライがフラつきながら立ち上がったタイミングだ。


 超速で飛びながら再びセイギは大剣を構える。そしてデカギライに接近すると、大剣を横一線に振った。


「ガキセイギッッッッ!!!!」


「…………ッ!!!」


 啖呵を切ったセイギの斬撃をくらったデカギライは、ヘリポートの上を跳ねて、水切りの石の様に飛んでいく。


「うぅ………うッ………うッ!!!」


 柵の無いヘリポートの縁でデカギライは止まった。その姿はもうボロボロだ。その体を纏う禍々しくも白い衣服は大剣によって原型を留めない程に斬り裂かれ、キュビズムの絵画の様にバラバラになった顔のパーツも一つ一つが痛みに歪んでいる。


「ボッズーもう飛ぶのはいい、ビュビューンモードを解除してくれ!! お前のいつもの翼なら《羽根の爆弾》が使えるだろ。アレをアイツにぶちこめ!!」


 セイギはまだ攻めるつもりだ。


「これ以上コイツに誰も殺させない!! もう誰にも恐怖を味合わせたくない!! 今ここで、絶対にコイツを倒す!!」


 このセイギの気持ちはボッズーも同じだった。


「分かったボズ!!」


 セイギの指示にボッズーは素早く対応する。ボッズーはセイギをヘリポートに着地させると、翼をビュビューンモードから通常時の二本の翼へと戻した。


「いくボズよ!!!」


 そう言うとボッズーは翼を大きく広げた。そして、広げた翼を立ち上がろうとするデカギライに向かってバサリと一振り。すると、左右の翼からボッズーの羽根が飛ぶ。それは左右5本ずつ、合計10本だ。


 ザザザッと音を立て、その羽根はデカギライの体に突き刺さった。


 そして再び、ボッズーは翼を大きく広げた。これが合図だ。デカギライに突き刺さった羽根はドカンッ!! と大きな音を立てて爆発した。


「グワァーーーーッ!!!」


 セイギが命じた《羽根の爆弾》、それはビュビューンモードやミルミルミルネモード等の変形状態では発動出来ないボッズーの技。両翼を羽ばたかせる事で羽根を突き刺し、突き刺した羽根はボッズーの意思によって爆弾へと変わる。

 一つ一つの羽根の威力は大きくはないが、10本もあればセイギの一太刀の斬撃よりも強いダメージを負わせる事が出来る。


「う………うぅ……」


 爆撃をくらったデカギライは痛みに身悶え、煙幕の中で膝をついた。


 ― 今だッ!!!


 その姿を見たセイギは確信を持った。セイギはやるつもりだ。

「ボッズー!! 昨日言ってたヤツ、今すぐ出来るか!!!」


「勿論ボズ!!」


 確信を持っていたのはボッズーも同じだ。『今のデカギライならば、セイギの大剣に溜まった力で倒す事が出来る』と。


「行くぞボッズーッッ!!!」


 そして、ボッズーはセイギの背中から離れ、デカギライに向かって飛んだ。


「見てろよ!! これが《俺のガチ本気モード》だボッズーッッッ!!!」


 デカギライに向かって飛ぶボッズーの体はキラキラと金色こんじきに輝き出す…………








 



「BANGッ!!!」









 セイギの背後から飛んできた弾丸が、ボッズーを撃ち落とした。

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