第4話 みんなを守るために…… 2 ―銃口がいつまでもお前に向いていると思うな!―

 2


「待て!」


「フハハッ! そう言われて待つ馬鹿がどこにいる!」


 デカギライの足の速さは並大抵ではなかった。しかし、ボッズーのビュビューンモードも負けてはいない。セイギ達はすぐにデカギライに接近する事が出来た。でも、近付けたは良いが、あと一歩だ。あと一歩の所で手が届かない。デカギライを止められない。


「この野郎……もう少し、もう少しなのに!!」

 ガキセイギはデカギライの動きを止めようと大剣を振った。しかし、届かない。

「ちきしょう……」

 セイギは先の自分の『もっと撃て』という願いを恨んだ。もし、デカギライの弾丸が一発でも少なければ、今この場でデカギライの足を止められた筈だから。


「フハハハッ! 惜しいなぁ! 届かないか!!」


 デカギライは追い掛けてくるセイギを嘲笑いながら一瞬後ろを振り返り、弾丸を三発発砲した。


「クソ……!!!」


 ガキセイギは空かさずその三発を斬る。


「フハハッ!! 流石だなぁ、飛びながらでも斬れるのか!!」


 再びデカギライは前を向く。セイギに攻撃を仕掛けてもその走るスピードは緩む事はない。


「だがなぁ……この銃口がいつまでもお前に向いていると思うなよ」


「なんだとッ!!」


「フハハッ!!」


 デカギライの首が動く。キョロキョロと辺りを見回している。


「ハハッ! 良いねぇ!! おい、お前も見てみろ!! お前が追い掛けてくるから、もう逃げていった奴等に追い付いているぞ!!」


「なに……!!」

 セイギはデカギライの言う通りに辺りを見た。確かに、さっきまで逃げていた人達が近くにいた。それも、もうその人達は走るのを止めている。隠れているんだ。高速で自分達の方に来るデカギライとセイギに気付いて、咄嗟に隠れる選択に切り替えた人が多いのだろう。その人達は車やビルの影に身を潜めてセイギ達の方を唖然とした表情で見ている。


「フハハハッ……結局人間も動物だな! あれは追い詰められた時の猫と一緒だよ! フハハッ! 頭が悪い! あれで隠れてるつもりだぜ! 可笑しいよな!!」


 デカギライは早口になっていく、それと同時により足も速まる。


「奴等、俺に見付かった事に気付いたらブルブル痙攣してるみたいに震え出すんだぜ! でもな、殺られる前の動きは人に寄って違いがあるのを知ってるか?」


「うるさい、黙れ!!」


「フハハッ!! 黙らねぇよ!! ハハッ!! 先ずはなぁ、いたぶられるのを防ごうとしてるのか、体を丸めたまま腕だけ上げて脇を見せてくる奴だ。お前等の臭ぇ脇の臭いなんて嗅ぎたく無ぇのになぁ!! ハハッ!! 次には、どうやって殺られるか見たくないのか、より体を丸めてボールみたいになる奴!! その次に………ん? おぉ、あそこに居る女、もう既にその形になってるなぁ!! 良いねぇ、良い獲物だ!!」


「…………!!」

 セイギは探した。デカギライが言うその人が何処に居るのか。


 ― あッ……!!


 すぐ見付かった。その人はセイギ達のすぐ前方に居た。その人は車を捨てて逃げてはいない。まだ車の中、セイギの斜め前方にある車の中だ。無人の車に囲まれた女性は逃げるチャンスを失ってしまったのか、ただ体を丸めて車内に居た。


「フハハッ!! 俺から隠れようとしたせいで逆に見付かるなんて、あの女も思っていなかっただろうな!」


 いや、違う。セイギにもボッズーにも、その女性がただ隠れているだけじゃないのが分かった。勿論、その理由もあるだろう。しかし、それよりもその女性は守っているんだ。体を丸めて自分の体を盾にする形で……助手席に座る子供を。


「さて、どう殺るか……」


 デカギライは女性が乗る車に体を向けた。


「やめッ………」


 セイギが叫ぼうとした時、ボッズーが耳元で囁いた。


「任せろボズ……」


 ボッズーはそう言うと、息を止めて翼に力を込めた。


「限界突破して飛ぶから、この後は暫くはビュビューンモードは無しなボッズー!!!!」


 そう言うとボッズーは、ビュビューンモードの上下に分かれた翼の"上の翼"に思いっ切り空気を吸い込んだ。


「セイギ……手を伸ばせ!! コイツを人のいない場所に連れていくんだボッズー!!!」

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