第3話 慟哭 23 ―《王に選ばれし民》の力を浄化させる力―

 23


「フハハハハ!! そうか、もうお前にはこの手は使えないか!」


「うるせぇ! 舐めるな!!」


「フハハッ! それは俺の台詞だよ。一度やられたくせに懲りずにまた邪魔しに来やがったのか? だったら今度こそ殺してやるぜ!」


 デカギライは火のついたコートを翻し、一瞬にしてその火を消し去った。そして、ラッパの様に拡がった銃口をガキセイギに向け、


「BANGッ!!」


 発砲した……


「……ボッズー、周りを警戒しててくれ。他にも奴がいるかもしれない」


 セイギか言う『奴がいるかも』それは、デカギライの分身の事。


 セイギはボッズーに指示を与えると、大剣を強く握り、そして、向かい来る弾丸を大剣で斬り落としながら、デカギライに向かって歩み進む。


「BANGッ!! BANGッ!! BANGッ!!」


 デカギライは続々と弾丸を発射した。でも、これはセイギにとっては計算通りであり、喜ぶべき事だ。弾丸を斬れば斬る程に、大剣には力が溜まっていくのだから。


「チッ! クソガキめッ!!」


 確実に弾丸を斬るガキセイギにデカギライは苛つきを見せ始めた。


「BANGッ!! BANGッ!!」


「もっとくれよ。お前を倒す為には、もっと力が必要なんだよ」


「アァァァア!!! クッソ……ムカつくガキだなッ!! そんなに死に急ぎたいのかよ!! BANGッ!! BANGッ!!」


「………」


 セイギは今日でデカギライとの戦いを終わらせるつもりだった。でも、デカギライの命を奪うつもりも無い。では、どうするつもりなのか、それは先にセイギが言った『ボッズーも"昨日言ってたの"頼むぜ!!』この言葉の意味が関わってくる。


 その意味は………



 時を前日の夜にまで戻そう。


 ―――――


 それは、まだ勇気の事で正義とボッズーが言い争いを起こす前だった。


 昨夜、正義はボッズーに語ったのだ。『自分は迷ってしまった』……と。


「ごめん……マジで覚悟が足りなかった。俺は甘かった……」


 しかし、正義の話を聞いたボッズーはそんな正義に首を横に振って見せた。


「いや……それは違うボズよ」


「え……?」


「それは俺のミスだボズ。バケモノに変えられた人間との戦い方をちゃんと教えていなかった俺のなボズ……」


 ボッズーは慰める様に、切り株の椅子に座る正義の膝の上に座った。


「戦い……方?」


「うん……あのね。人間を元にしたバケモノは、《王に選ばれし民》から力を分け与えられて、人間の体をバケモノへと変化させられているんだボズ。ある意味、正義と一緒ボズ。変身しているんだボズよ……その力を取り除けば良いんだボズ」


「と……取り除く? 取り除くって、もしかして人間に戻す事が出来るって事か?」


「そうボズ。俺がお前達に人殺しをさせる訳ないでしょボズ。ちゃんとした倒し方があるボズよ……はぁ……それにしても俺は馬鹿ボズ。人間を元にするって事は《王に選ばれし民》がこの世界に侵入を成功しない限りは現れない筈だったから、正義には"そういうのがいる"って事だけしか話してなかったボズね。伝えるべき事を伝えてなかった俺のミスだボズ……ごめんな……」


 ボッズーは肩を落とした。でも、今度は正義が首を振る。


「いや……良いよ。それよりも、どうやれば良いんだよ、それ?」


「ん? あぁ、そっか、それはな……あっ……だけど、簡単な方法ではないって事は頭に入れといてくれな」


「あぁ、分かった! で、どうすりゃ良いの?」


 正義の瞳には再び光が戻っていた。ニカッとした笑顔もまだ全開じゃないが戻ってきている。だから、ボッズーは自分の役目を全うしようと話を始めた。


「あのね、まずその方法を使う時は絶対に俺が居ないとダメなんだボズ。何故ならな、《王に選ばれし民》の力を取り除くには、俺のまだお前にも見せていない"モード"を使うからだボズ」


「モード? ビュビューンとかミルミルミルネみたいなヤツか?」


「そうボズ。それでな、簡単じゃないってのは、そのモードを使う時には俺が動けなくなっちゃうからなんだボズ。だから、モードを発動してる間は俺はめちゃめちゃ隙だらけになっちゃうし、戦闘にも参加出来ない。もし発動してる間に俺が別の敵からの攻撃をくらえば、即失敗になっちゃうボズ。それに、そのモードは一発勝負だから、失敗した時は絶対に連続して使えないんだボズ……」


「はぁ……なるほど。タイミングを見誤るとヤバイって事か」


「そうボズ」


「それで? 俺には? 俺も何かやる事があるんだろ?」


 この質問にボッズーはコクリと頷く。


「勿論ボズよ。俺のモードを発動しても、それはまだ準備段階でしかないからねボズ。一番は正義達の力が重要なんだボズ……良いか? 簡単に言うとね、俺のモードは"正義達英雄の力を人間に取り憑いた《王に選ばれし民》の力を取り除く力"……いやもっと正確に言うとボズね。"浄化する力"に変換する事が出来るモードなんだボズよ」


「浄化する力に……変換……」


「うん。そうボズよ! ん? 何だ? 分かり辛かったかボズ?」


 ボッズーは正義が難しい顔をしているからそう思ったのだろう。でも違う。


「え? いやいや、それは大丈夫だよ。ボッズーが俺達の力をバケモノを人間に戻す力に変えちゃうって事だろ? それは分かったんだけど……でも、それじゃあ俺達は具体的に何をしたら良いんだ?」


 この質問に、ボッズーはドヤッとした顔で答えた。『当たり前だろ』と言いたげに。


「そりゃ勿論! 敵をブッ倒すんだボズよ!」


「ブッ倒す……」


「そうボズ! 俺がモードを発動してる時に、めっちゃ強い技を使って敵をブッ倒すんだボズ! それも中途半端はダメ! 敵を確実に仕留められるくらい強い技でボズ! そうすれば、敵の体から《王に選ばれし民》の力は浄化されるんだボズ!」


「めっちゃ強い技で敵を……」


「そうボズよ!」


 正義はもう少し難しい事をしなければならないと思っていた。だが、ボッズーが言った答えはとてもシンプル。


「例えば、敵の攻撃を斬りまくって、斬りまくって、力を溜めまくっためっちゃ強いジャスティススラッシャーとかボッズー!!」


「この前、光体をブッ倒したヤツ……みたいなのか?」


「そうボズよ! どうした?自信無いかボズ?」


「いや…………へへっ!!!」


 正義はニカッとした全開の笑顔を見せた。


「そんな訳ねぇだろ? そうか! ヨシッ! 意外と…………シンプルだな! それなら俺に任せてくれ!!」


 正義はドンッと胸を叩いた。


「へへっ……そりゃ頼もしいボズね! で、こうやって俺のモードと、正義達英雄の技を組み合わせる事で、《王に選ばれし民》の力はバケモノから浄化する事が出来るんだけど……あぁ、そうだ……ただ……」


「ただ??」


 今度はボッズーが難しい顔をした。


「ただ、あのな……この方法を使う相手としてデカギライはかなり厄介な奴なんだボズよ」


「厄介?」


「うん。何でかって言うと、それはデカギライの特性だボズ。奴は分身するんだろ? それが厄介なんだボズ。《王に選ばれし民》の力を与えられたのは、人間の体を持っている本体だけボズ。その本体を見極めてから、俺のモードを使わないと意味が無いんだボズよ……」


「なるほど……本体を見極めてからか」


「うん……本体に使えば《王に選ばれし民》の力は浄化されて、分身も一緒にいなくなる。デカギライを完全に倒せるんだボズ。でも、分身に使ってしまったら、その分身は倒せても、本体は健在になっちゃうんだボッズー。とにかく見極めてから、見極めてから……使わないとなんだボズ」


「そうか……」


 一度戦った正義にはその難しさは分かっている。それに、本体を見極けるだけでは足りない事も。何故なら、この方法を取れるのは一発勝負だとボッズーは言う。分身体が多い状態では本体を見極められても邪魔が入る可能性は高い。成功の確率はかなり低くなってしまう。


 ― 分身をなるべく減らして……いや、絶対に成功させるには、本体だけに減らさないとダメだって事か……ムズいな……ムズい。でも、


「でも………やるしかないっしょ!!」


「そうボズ!そうボズよ!」


 ―――――


 だから、昨日までのセイギとは違うんだ。彼にはもう戦いへの迷いは無い。


「舐めるなよ……」


 後は、思う存分戦うだけだ。世界を守る為に。



第二章、第3話「慟哭」 完


―――――


第3話「慟哭」をお読み頂き誠にありがとうございます。

英雄を辞めると言い出した勇気……さて、どうなるのでしょうか。次回、第4話「みんなを守るために……」をお楽しみ。

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