第3話 慟哭

第3話 慟哭 1 ―因縁の男―

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「BANGッ!! BANGッ!!」


「なんだそれは! 馬鹿にしてんのか!!」


 こちらに銃を向けた敵が口にしたその言葉、セイギは敵がふざけているのだと思った。だけど、それは違かった。敵が『BANGッ!』そう口にすると、セイギに向けた銃口から……"ラッパの様に口を開いた銃口"から……さっきセイギを襲った火球が発射されたんだ。


「そういう事かよ!! オリャーーッ!!!」


 セイギは大剣を振り下ろし、火球を斬った。


 発射されたのは言葉の数と同じく二発。


「デャアッ!!!」


 二発目を斬った時、セイギは気付いた。敵が発射したのは火球じゃない事に。それは、ラグビーボールくらいの大きさの"巨大な弾丸"だった事に。


「BANGッ! BANGッ! BANGッ!」


「今度は三発かよ! 分かりやすいな!!」


 セイギは弾丸に向かって走り出した。防戦一方では勝ちは無い。『相手が飛び道具を使う者でも、こちらから向かっていく』……それがセイギの戦い方だ。


「的はデカイ! 狙いやすいぜ!!」


 セイギは己に目掛けて飛んでくる弾丸をバッタバッタと斬っていった。敵はセイギに攻撃を仕掛けるだけで、その場に立ったままだ。セイギは敵との距離を一気に詰めていく。


「ドリャ!!!」


 合計五発の弾丸をセイギは斬った。


 ― もう足りるか? いや、まだ足りねぇか? いや、まだ仕留めようとは思うな! まずはこっちの力も見せつけてやるんだッ!!


 セイギは自問自答で答えを出すと、足をダンッと一歩踏み出し、敵に向かって横一線に大剣を振り切った。


「くらえ!! ジャスティススラッシャーー!!!」


 セイギの大剣からは、"弧を描いた光輝く黄金のオーラ"が発射された。これは、光体との戦いで光体の群れを一気に破壊した"敵の力を己の力へと変えて撃ち出す"ガキセイギの必殺技と呼ぶべき技。今回は攻撃を斬った数がまだ五発、敵の攻撃も光体の攻撃と比べると弱い、敵を倒すにはまだまだ足りない。だが、敵にダメージを喰らわすにはめちゃめちゃ十分だ。


 しかし、


「フンッ!!」


 ジャスティススラッシャーが敵へと届く寸前、敵が跳び上がった。


「なにッ!!」


 敵は人間の常識を超えたバケモノ、跳び上がる高さも人間の常識を超えて、セイギの身長を軽々と超えた。


 ガサガサ……


「………ッ!!」


 セイギがジャスティススラッシャーを撃ち出した場所のすぐ横に立つ木が音を立てて揺れた。


 そして、


「BANGッ!!」


 セイギが急いで振り返ると、木の上には既にこちらに向かって銃を構えた敵の姿が………敵の銃口からは弾丸が放たれる。


「………ッ!!」


 セイギは弾丸を斬ろうとしたが、間に合わない。咄嗟に大剣を横に構え、撃たれた弾丸を刃で受ける。


 ドガンッ!!!


「うッ!!」


 刃にぶつかった弾丸は爆発した。セイギは弾丸の直撃は避けられたものの、その爆風がセイギを吹き飛ばす。


「うわッ……!!」


 木の密集したこの場所、先にやられた時と同じく、セイギは木によって受け止められた。


「あぁッ!! ちきしょう!! 馬鹿だな俺は、早まっちまった……」


 セイギは自分に対しての苛つきを見せた。でも、ダメージはそう無い、すぐにセイギは立ち上がる。


 だが、


「フハハハハハハハッ!!!」


 突然、敵が笑った。


「無様、無様、無様!!」


 敵はドサリと音を立て、木から降りてきた。


「お前、もう少し歯応えのある奴だと思っていたが、そうでもないな! フハハハハハハハッ!!!」


 敵はセイギを馬鹿にする様に高笑いを上げると、セイギに向かって歩き始めた。勿論、銃口を向けたままだ。


「なに?!!」


「フハハハハハハハッ!!!」


 そして敵がまた笑う。


「『なにっ?!』ハハッ! 良いねぇ、ソレ! 格好良いねぇ! さぞかし楽しいんだろうな"ヒーローごっこ"は!」


 敵の口から発せられるその声は、やはりあの時の男の声だった。希望を誘拐した、あの『リーダー格の男』の声……


「お前……やっぱりあの時の奴か!」


「ん? あの時の? ハハッ!! それはこっちの台詞だよ! お前もだろ? "あの時の"……クソガキが!!」


 敵も気付いていた。セイギが『あの時の少年』だという事を。


「嗚呼……俺は、ヒーロー気取りのお前のせいで捕まっちまったよ……俺の大嫌いで大嫌いで仕方のねぇ奴等によぉ!! BANGッ!!」


 敵は銃を発砲した。敵との距離は一間も無い。電光石火で飛んでくる弾丸はすぐにセイギの目の前に………だが、今度はセイギの番だ。


「オリャッ!! なめんな!!」


 今度はセイギが跳び上がった。こちらに向かって飛んでくる弾丸を、意気揚々と歩いてくる敵の頭上を、くるりと跳び越え、そして、空中で体を翻し、セイギは大剣を敵に向かって


「デャアッ!!」


 勢い良く振り下ろした。


「ぐわっ!!!」


 遂にセイギの攻撃が敵に命中した。そして、それと同時に……


 ドガンッ!!!


 敵の弾丸がさっきまでセイギの背後にあった木にぶつかり、爆発した。爆発した木はメラメラと燃え出す。


「ぐぐぐぐ………!!!」


 敵は背中の痛みに身悶え、それでも尚、腕を振り回しながらセイギの方を振り返った。銃口が執拗にセイギに向けられる。


「テメェ……やりやがったな!!」


 燃え上がる炎の灯りが、振り返ったその姿を照らす。


「………ッ!!」


 地面に着地したセイギはその姿を見た。


「こ……これは……!!」

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