第2話 バケモノッッッッッ!!!!! 19 ―認めたくないが、認めるしかない―

 19


「多分……この人たちはバケモノにやられたんだよ」


「やられた?」


「あぁ、だってそうだろ? この状態はあまりにもおかし過ぎる。それに拳銃を使ったって事は、それ相応の相手とこの人たちは出会ったって事になる。俺はもう、そうとしか思えないよ」


 セイギはゆっくりと立ち上がった。


「クソ……」


 セイギは悔しそうに呟いた。パトカーを発見した時、セイギは車内に人がいない事に安堵した。だけど、その考えは甘かったんだ。セイギはもう間に合っていなかったんだ。


「でも、死体……が無いぞボズ」


 セイギはボッズーの顔を見た。その顔は唇を……クチバシを噛み締めている。その表情を見たセイギは思った。『どうやらボッズーも、さっきまでの自分と同じ状態にいる』と、『ボッズーも認める事を躊躇っている』……と。


「それはボッズーの方が俺よりもバケモノに関しての知識は豊富だろ。どういうやり方かは分からないけど、死体も無く人を消す……そういう事が出来るのがバケモノなんじゃないのか?」


「………」


 ボッズーは黙った。ボッズーは眉間に深い皺を寄せてセイギの顔を見ている。『認めたくない事、認めざるを得ない事……その狭間でボッズーは葛藤している』セイギはそう思って、ただボッズーが喋り出すのを待った。

 セイギは知っているから、『ボッズーは聡明だ』と。『愚かではない』と。『出したくない答えが、出さなければならない答えだったとしても、「認めたくない」そんな意地を張らない奴だ』と。


 このセイギのボッズーへの評価は正しかった。ボッズーはゴクリと生唾を飲み込むと、たった一、二秒考えただけですぐに答えを出した。


「そう……だな。出来るだろうな。バケモノなら人を消すなんて簡単だボズ」


「やっぱりそうか……」


 その言葉を受けて、セイギは再び腕時計から素早い所作で大剣を取り出した。


「なら、もうここで悠長にしてる場合じゃないな。これ以上被害者を出さない為にも捜索に戻ろう」


「あぁ、そうだなボッズー」


「とりあえず俺はこの近くを捜すよ。バケモノはまだこの近くにいるかも知れないし、もし勇気の奴がバケモノを見て俺に通信を送ってきたんなら、アイツもこの近くに要る可能性が高いと思うんだ。今は一番勇気の奴が危ないかも知れない……」


「そうだな……」


「ボッズーはまたミルミルミルネで頼む……」


「うん! じゃあ俺はまた空から……」


「あぁ……あっ! いや、ちょっと待ってくれ! その前にもう一人危ない人がいるんだった。ボッズーは先にその人を病院に連れてってくれないか」


「危ない人?」


「あぁ、勇気の母ちゃんだ。さっき俺が進んだ道あるだろ? その道を進んでくと急カーブがあるんだ。そこに車がある。その中に勇気の母ちゃんがいる。怪我してるし、気を失ってる。バケモノに狙われたらヤバイし、早く避難させてくれ」


「勇気の母ちゃん……いつの間に見付けたんだボズ? まぁ良いや。OK、分かったボッズーよ! けど、病院に連れてくならちょっと愛の手を借りるだボズよ。俺みたいのが病院に直接連れてくのは無理だボズ」


「うん、分かった。やり方はボッズーに任せるよ。じゃあ、頼んだ」


「うん! なるべくすぐ戻る! 何かあったら連絡してくれボッズー!」


 そう言うとボッズーは体を翻し空に向かって飛んでいった。


「頼んだぜ……ボッズー」


 セイギは飛んでいくボッズーを見守ると、大剣を握り直した。でも……


「………」


 セイギは足下にある制服を見た。


「ボッズー、ごめん。急かしたくせに、ちょっと俺、やる事がある」


 そう言うとセイギは、握り直した大剣を地面に突き立て、跪き………制服に向かって手を合わせた。


「ごめんなさい……助けられなくて」


 そして、立ち上がると、また別の制服の所へ歩いていく。


 それは一つ一つの制服に向かって行われた。


 急がなければならない、だけどどうしてもセイギはこの場を立ち去る前に、ここにあった命を弔いたかった。セイギは分かっている。『自己満足かも知れない』と。"救えなかった"その事実は変えられないのだから。


 だけどセイギは……


「あなた達の仇は必ず俺が取ります……」


 全ての命に手を合わせたかった。


「………」


 手を合わせ終えると、セイギは大剣を手に取った。


「絶対許さねぇ……バケモノの野郎! 絶対に!!」


《正義の心》を燃やし、セイギは走り出す。

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