第2話 バケモノッッッッッ!!!!! 18 ―ボッズーが見付けた奇妙な物……―

 18


 パトカーのすぐ傍にはボッズーが居た。


「ボッズー、何を見付けたんだ?」


「こっちボズ! ついてきてボッズー!」


 セイギを待っている間にボッズーはある程度落ち着きを取り戻していた様だ。まだその顔には興奮が見て取れるが、混乱は無い。


「ミルミルミルネで林の中を見てたら、何枚も布みたいな物が落ちてる場所を見付けたんだボズ……」


「布……?」


「そうボズ。でも、そこに降りてみたらそれは布じゃなくて、服だったんだボズよ!」


 ボッズーはさっき言った『おかしな物』を見付けた時の状況をセイギに説明しているみたいだが、セイギは首を傾げる事しか出来なかった。


「服……?」


「そうボズ。服ボズ……さぁこっちボズよ!」


 ボッズーはそう言うと、カラーコーンが倒れる下り道を途中で逸れて、林の中へと入っていった。


「傾斜になってるから、滑らない様に気を付けてなボズ!」


「おう、分かったよ……うわっ!」


 セイギは軽く返事を返したが、すぐにボッズーの注意が本当だった事を知った。林道を外れるとすぐにそこは、斜め45°に近いくらいの急傾斜だったんだ。


「おっととと……」


 セイギは先に『気を付けて』と言われていたから何とか踏み止まれたが、一瞬足が滑って危うく尻から転びそうになってしまった。


「何やってんだボズ……気を付けろって言ったろ!」


「あ……あぁ、ごめん」


 白い目を向けられたセイギは、それからは慎重に周りの木を伝え伝えに掴まって、何とか転ばずに傾斜を降り切った。


「ふぅ……ん?」


 傾斜を降りたセイギのすぐ傍にはカラーコーンが一つ。


「これか? さっきボッズーが見付けたの?」


「そうボズよ。一個だけ転げ落ちたんだなボズ。良い目印になってくれたボズよ」


 ボッズーはセイギが指差すカラーコーンをチラリと見ただけ。興味は無さそう。目印にはなってくれたが、もうカラーコーン自体は用済みって事なのだろう。カラーコーンからすぐに視線を外すと、ボッズーは林の中を進み出した。


「それよりもこっちボズ。もう少しだけ歩くからなボズ」


「おう……」


『少し』と言うには少し長かった。セイギが傾斜を降りた場所から50mくらい進むと、ボッズーは止まった。

 その場所は、周りには木ばかりで、他には何も無い。完全に林の中だ。しかし木々は、密集しているのではなく、一定の距離をもって点々と生えていた。その場に立ったセイギは『もしかしたら、ここは人によって植樹された場所なのかもしれない』と思った。


 そして、空中にフワフワと浮かぶボッズーは、その内の一本の前で止まっている。


 足下を見ると、青い服が……


「これか……ボッズーが言ってたの?」


 セイギはボッズーに近付くと、落ちている服を見下ろした。その服は、まるで脱ぎ捨てられたかの様に地面に落ちていた。


「そうボズ……」


「う~ん……これって、どう見てもアレだよな?」


 セイギは少し含みを持たせた言い方をすると、大剣を腕時計の中に仕舞い、両手を空にすると、地面にしゃがみ込んでその服を手に取った。


「そうだボズね、アレだボズ。制服ボズね……」


「警察の……」


「制服ボズ」


 二人は一つの言葉を二つに分けた。そしてよく見れば、近くには制帽や拳銃も、靴さえも落ちている。


「場所的に考えると……」


 セイギは服を置いて立ち上がった。


「……あのパトカーの所で検問をしていた警官の制服って事かな? それにしても、何でこんな事に?」


「分からんボズ。それが分からないから気持ち悪いだボズ……」


「う~ん……そりゃそうか。で、さっき何枚もあるって言ったよな? 他にもあるのか?」


「うん。こっちボズ……」


 ボッズーはセイギを手招きしながらまた別の場所へと移動した。


「ほら、アレだボズよ……」


 ボッズーが指差した場所にはさっきと同じく脱ぎ捨てられた様に服が落ちていた。それもまた警察の制服。そして、


「これだけじゃないボズ。ほら、あそこにも、そこにも、あっちにも……」


 ボッズーが指差す場所には、どこにも……


「変だな……」


「変だろ?気持ち悪いだろボッズー?」


「あぁ……」


 セイギは人差し指で頭をかきながら、いや仮面を被っているから本当にはかけてはいないが、それでもセイギは頭をかきながら、すぐ近くの制服に近付いていった。


「う~ん……」


 唸りながらしゃがみ込むと、セイギはその制服を手に取ってポケットを探り出した。


「あ……あった」


「何がだボズ?」


「ほら、財布だよ」


 セイギは制服のズボンのポケットから紺色の財布を取り出し、ボッズーに見せた。


「制服を置いて、靴も履き替えて、何処かに行った……いや、まぁ、まずそんな事がある訳ないんだけど、そうだと考えても、流石に財布くらいは持っていくと思うんだよね」


「まぁ、そうだろうなボズ」


「それにコイツがあるのが一番不自然だ」


 セイギは拳銃を手に取った。


「警察が拳銃を置いてどっかに行く訳ない。それにこれ、ホルスターから外されてるだろ。さっき見たのもそうだった。もしかしたら、他のもそうかも」


「あ……本当だ。さっきはそこまで見てなかったボズ。でも、ホルスターから外されてるって事は、使ったって事ボズな?」


「あぁ、それか使おうとしたか。まぁそれはどっちでも良いか。はぁ……」


 セイギは大きなため息をついた。


「どうしたんたボズ?」


「ん?う~ん、なぁ……」


 セイギはボッズーに問い掛ける言葉を発すると、一拍の間を置いた。指先では拳銃に付いたコイル式のストラップを弄っている。視線もボッズーから外してストラップを弄る指を見詰め始めた。


「……近くにさ、黒いコートは落ちてなかったか?」


「黒いコート? そんなのは見てないぞボッズー」


「そうか……」


 またセイギは一拍置いた。拳銃をそっと制服の上に置く。

 さっきの一拍も、この一拍も、セイギは何かを言うべきか言わざるべきか迷っているのだ。だけど、その言葉を口にした。


「なら……勇気はまだ無事って事だな」


「勇気は……?」


「あぁ……」


 セイギが何故、言おうか言わざるべきか迷っていたのか、それは頭に出てきたこの状況への回答を、認めるのが嫌だったからだ。でも、この答えしか出せないし、認めないと次に進まないと思った。


「多分……この人たちはバケモノにやられたんだよ」


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