第2話 バケモノッッッッッ!!!!! 16 ―麗子を助けろ!―

 16


「勇気! 勇気、どこだ! おばちゃん!! いるなら返事してくれ!!」


 友の名を叫びながらセイギは走った。


 セイギの仮面の中の顔は汗でビッショリだった。友の身に何かが起こったのは確実、早く見付け出さなければ手遅れになるかもしれない。捜し始めてもう既に10分が経とうとしている。不安な気持ちがセイギを襲ってきていた。


 しかし、どんなに大きな声で呼び掛けても誰の声も聞こえてこない。


 ― 勇気……大丈夫なのかよ! おばちゃんも何処に行っちまったんだ……警察の人達も、何処へ? 逃げ切ってるならそれで良い……だけど……………ん?


 ギギッ……ギギギギッ……


 妙な音が聞こえてきた。


「……なんだ?」


 セイギは立ち止まった。セイギの目の前には、なだらかな登り道が多い風見の山へと向かう道では珍しい急カーブの登り道が始まろうとしていた。


「………」


 セイギは音の聞こえた方向に目を向けた。それは今立つ場所の少し左側、目線を上げるとカーブの終わりの場所が見える。


「………あッ!! あれはッ!!!」


 その場所に見えたのは、ガードレールに突っ込む一台の黒い車だった。その車はガードレールをぶち破り、林道の外へと半身を乗り出している。


 ギギッ……ギギギギッ……


 林道の外、カーブの始まりと終わりの間を見るとそこは深い谷、ゴツゴツとした岩が並ぶ深い渓谷だ。


 ギギッ……ギギギギッ……


 セイギが聞いたのは、その渓谷に向かって徐々に徐々に落ちていこうとする車を、ガードレールが擦る音だった。


「ヤ………ヤバい!」


 その車を見付けたセイギは再び走り出した。車は無人じゃなかったんだ。車の中には一人の女性の人影が見えた。そして、セイギはその女性に見覚えがあった。


「おばちゃん……」


 それは勇気の母だ。


 セイギは必死に走った。ガキセイギのスーツは変身した者の身体能力を向上させる。セイギは両足を車輪の様に回し、一気に急カーブを駆け抜けた。


「ヨシッ……」


 発見から一分もかからずに車の後ろに立ったセイギは、大剣を林道に投げ捨て、リアバンパーの下に両手を突っ込んだ。


「ちょっと待っててね、おばちゃん! 今助けるから!!」


 早くしないと、このままじゃ車は谷底へと落ちてしまう。セイギは車を林道へと引き戻しにかかった。


「ぐ……ぐぐぐ………!!」


 スーツが身体能力を向上させてくれるとは言え、車を持ち上げるのは流石に重い。しかも車は渓谷に向かって傾いているのだ。でも、セイギは諦めない。セイギの根性は人一倍だ。


「うぉぉぉぉ!!!」


 セイギは雄叫びをあげながら全身に目一杯力を込めた。すると、セイギはやはりスーパーマンだ。車の後輪が持ち上がった。


「ドウゥゥリャッッッ!!!!」


 そしてセイギは車を一気に引っ張った。


 ギギッ……ギギギギッ……


 再びガードレールが車体を擦る。今のセイギの場所からだとよく見えないが、ガードレールに擦られ続けた車体には、恐らくえげつない傷跡が残ってしまっているだろう。そして、セイギが引っ張る事で傷が重なり、より深くなる。だけど、セイギは気にしない。他人ひとの物だけど気にしない。それを気にしていたら勇気の母は助けられない。


「おばちゃん……後で謝っから、許してぇぇえ!!!」



 ドドンッ!!!



 ……セイギは成功した。腰がピキッと鳴りはしたが、車を林道へと引き戻す事に成功した。引き戻された車は大きく弾んだ。

 車が弾んだのは、車が林道へと戻った瞬間にセイギがリアバンパーから手を離したからなのだが、車内にいる勇気の母はきっとセイギを責める事はしないだろう。


「ふぅ……なんとか……かんとか…………はぁ……はぁ」


 荒れた息を整える時間は無い。セイギはふらつく足取りで車に近付くと、運転席のドアに手を掛けた。


「おばちゃん……」


 ドアを開けたセイギは、勇気の母に声を掛けながら車内に体を潜り込ませてその顔を覗き込んだ。


「あっ………」


 勇気の母の顔を見たセイギは、ゴクリと生唾を飲み込んだ。勇気の母は痛々しくも、頭から血を流し気を失っていたんだ。


「おばちゃん……」


 渓谷へと落ちようとしている車の中に居ながら、助けを求める声を出していない時点である程度の予想は着いていたが、よく知る顔の傷付いた姿を見るのは、心を刃物で刺される様な気持ちだった。


「よくも……おばちゃんにこんな酷い事を」


 セイギは拳を握った。

 だけど、その拳はすぐに開かれる。今は怒りにかまけている場合じゃない。勇気の母を早く病院に連れていかなくてはならない。


「どうするか……」


 セイギはシートベルトを外しながら考えた。


「……救急車……いや、バケモノが近くにいるかも知れない場所に呼ぶなんて、危険だ。ならボッズーに頼んで……」


 セイギは少し迷った。ボッズーに頼むという事は戦力を減らす事になる。一人で戦う自信が無い訳ではない。ただ、今回は昨日とは違って、周りに人がいる状況での戦いになる可能性が高いのだ。その人達を守りながら戦うには、ボッズーが欠けるのは痛かった。


「でも……やるしかないよな!」


 セイギの決断は早かった。言葉通り、『やるしかない』。出せる答えは一つしか無かった。

 セイギは素早く車外に出ると、腕時計の文字盤を叩いた。


「ボッ………」




「セイギ!!!」

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