第2話 バケモノッッッッッ!!!!! 15 ―捜索開始―

 15


「本当にこの辺なのかボズ?」


「あぁ……その筈だよ」


 ボッズーと共に赤井正義は輝ヶ丘の空にいた……いや、『赤井正義』じゃない。今の彼は《ガキセイギ》だ。

 そして、その仮面の奥の目は鋭い。

 希望の叔父から聞いた《バケモノ》が現れたという話と、勇気から届いた尋常ならざる声……この二つは新たな戦いの始まりを予感させた。


「筈って、本当に大丈夫かボズぅ?」


「あぁ、俺を信じろよ……」


 勇気から届いた通信は、勇気の声を聞かせただけですぐに切れてしまった。だからガキセイギは、何としても勇気を見付け出そうと捜索を開始していた。


「勇気の母ちゃんは、墓参りに行く時はいつもこの林道を通っていくんだ……だから」


 捜すのは輝ヶ丘の高台近くから風見の山に向かって走る林道だ。ガキセイギは知っていた、勇気たちが墓参りに行く際には、風見の町内を通らずにこの林道から直接風見の山へと入る近道を使って行く事を。


「何でお前がそんな事知ってるんだボズ?」


「昔からそうだったからだよ。俺達と大木の近くで遊んで、そのままアイツは母ちゃんと墓参りに行くって時もあった。そん時と変わってなければ、多分……あっ!! ボッズー、アレ見ろ!!」


 喋っていてもガキセイギの目は鷹の目だ、抜け目がない。何かを発見したガキセイギは、目下に見える林道を指差した。


「ん? 何処ボズ??」


「ほら、アレだよ! 木の並びがちょっと歯抜けみたいになってる所! 下の道がよく見える場所あるだろ!」


「え、歯抜け?? 歯抜け……歯抜け……あぁ!! アレか!!」


 山中を延々と続く木々の群れを上から見ていると、一見すると緑一色。目を凝らさなければ林道は見えない。しかし、その中には木と木の重なり合いの度合いによって、ポツリポツリと穴が開いている様に見える場所が幾つかあった。だが『歯抜け』と表現出来る程に大きく開いた場所は一ヶ所しか無い。

 その場所は他の場所とは違って、目を凝らさなくても上空から下の林道の全貌がよく見えた。


「分かったか? 分かったならよく見ろ、あそこの道、煙……立ってないか?」


「煙? ……あぁ、本当だボズ? なんだ、焚き火かボズ?」


「いやいや、誰があんな道の真ん中で焚き火なんかすんだよ! ……ボッズー、ちょっとあそこに降りてくれるか!」


「うん、OKボッズーよ!!」


 セイギに命じられたボッズーは、一気に高度を下げた。


 ドンドン高度が下がっていく。


 すると、煙を上げている物が何なのかセイギには見えた。


「こりゃあ……車か?」


「うん、そうみたいだなボズ……」


 二人の目に映ったものは真っ赤な炎を燃やす1台の車だった。車が2台通れるかどうかくらいの幅の林道の中央に、その車は道を封じる様に止まり、煙を立ててメラメラと燃えていた。


「行くボスよ……」


 そして、バッサバッサと翼を羽ばたかせながら、ボッズーは木の群れが薄くなった"歯抜け"の中に入ると、


「おし、ここで良いかボズ?」


 炎をあげる車から少し離れた場所にガキセイギを降ろした。


「あぁ、ありがとう……どうやら被害者はまだいないみたいだな」


 煙の出所が車だと知ってからのセイギは一瞬足りともその車から目を離さなかった。セイギは『車内に人が残されているのではないか……』と心配だったんだ。だが、黒く焦げ始めている車内を見ても人影は無かった。車の周りにも怪我をしている人や倒れている人はいない。ガキセイギはその事に一先ず安心した。


「しかし……事故った感じじゃないよな? やっぱりバケモノが……」


 でも、何事かが起きたのは確か。車が炎上するなんて、何かが起きてなければ起こり得ない。しかも横転している訳でも、木にぶつかっている訳でもない。周りに人がいないのも逆に不自然だ。


「ん?」


『何が起きたのだろう……?』とセイギが車の周りを見回していると、もう一つ気になる物を見付けた。


「カラー……コーン?」


 今、セイギが視線を向けているのは輝ヶ丘方面。燃えている車が尻を向けている方向。その方向は緩やかな下り道になっていているのだが、その道には点々と赤と白の縞模様をしたカラーコーンが転がっていた。


「こんな物がなんで山の中にあるんだボズ? 工事……じゃないよな? まぁ、そんな事どうでも良いか。それより、この車って……」


「あぁ、パトカーだな……」


 セイギは気付いていた。燃える車はただの車じゃないと。それはパトカー……そして、


「カラーコーン……あぁ、なるほど」


 セイギは勘付いた。


 セイギはチラリと燃えるパトカーを見ると、一番向こうに転がるカラーコーンの所まで走っていった。その場所は下り道が終わって平坦な場所。そして、そのカラーコーンのすぐ傍には一枚の四つ足の看板が倒れていた。


 その看板を立ち上がらせると、セイギは


「やっぱりな……」


 小さな声で呟いた。


「ボッズー、見ろ」


 セイギは看板をくるりと翻し、ボッズーに見せた。

 そこに書かれていたのは


『検問中』


「そのパトカー、多分この場所で検問をしてたんじゃないか?」


「検問……??」


「あぁ、希望のおじさんから聞いたって言ったろ? あのリーダー格の男が逃げ出したって。多分、その捜索の為にやってたんじゃないのかな?」


「う~ん……なるほど」


「で……そこにビンゴでアイツが現れた。んで、パトカーを襲った……」


 そう言ってセイギは腕時計の文字盤を叩くと、静かに白い翼の大剣を取り出した。


「やっぱり、勇気はバケモノに遭遇した可能性が高いな。バケモノになったリーダー格の男に………ヨシッ! ボッズー、やる事は一つだ! 兎に角、勇気を捜し出そう! いや、勇気だけじゃないな、勇気の母ちゃんも、ここで検問してただろう警察の人もだ! バケモノにやられる前に急ごう!!」


「OKボッズー!! じゃあ、俺は空から捜すボズよ! セイギは地上から!」


「あぁ! ………んじゃあ」


 セイギは倒れるカラーコーンを見た。そのどれもが頭を登りの方向に向けて倒れている。


「……パトカーはこのコーンをなぎ倒しながら走ったのかな? んで、バケモノはパトカーを追っ掛けて、ブッ壊した……なら、こっちかな?」


 セイギは登り道を指差した。


「どっちに行くか決まったかボズ?」


「あぁ、とりあえず俺はこっちに行く! ボッズーはミルミルミルネでこの周辺を満遍なくやってくれ!」


『ミルミルミルネ』それはボッズーが昨日工場内で希望を捜索する際に使用した"青い瞳"の事だ。ボッズーはその瞳を《ミルミルミルネモード》と呼んでいる。


「OKボッズー!!」


 ボッズーはセイギに向かってコクリと頷くと、翼を翻し再び空に向かって飛んでいった。


「何か見付けたらすぐに連絡くれ! 頼んだぞ!!」


 セイギはそうボッズーに向かって言うと、勢い良く走り出した。

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