第2話 バケモノッッッッッ!!!!! 12 ―目は口ほどに物を言う―

 12


「なにぃ!!」


 正義の言葉に叔父の怒りはより強くなった。怒りが強くなると共に、叔父は再びフライパンを正義に向かって押した。


「ぐっ……ちょっ……ちょっと待って!!」


 正義は踏ん張った。殴られる訳にはいかない。だが、疲れのせいかそれとも叔父の力が強くなったのか、徐々に膝が折れていく。希望の叔父は身長180cm、体重100㎏を超える巨漢だ。その重さが正義に重たくのしかかり、正義の体はエビ反りに曲がった。


「何を言うか白々しい! お前らのリーダーが逃げ出した事をこっちが知らないとでも思ってるのか!」


「え……? な、なんて?」


 希望の叔父の言葉を聞いた瞬間、正義の力が一瞬抜けた。力の抜けた正義を叔父が一気に押し倒す。


「うわっ!!」


 ドンッ! と打った正義の背中に痛みが走る。だが、それはどうでも良い。それよりも叔父の『リーダーが逃げた』という言葉の方が正義は気になった。


「に……逃げたって、それどういう事すか?」


「まだしらばっくれる気か! 警察からはなぁ、逃げた男がまた希望を狙う可能性があると警告が来ているんだ! 俺はお前が希望を訪ねてきた瞬間にピンッと来たよ! 正直に白状しろ! お前は逃げた男の仲間なんだろ!! 男に何を命令されてここに来たぁ!! 復讐でもするつもりかぁ!!」


 これが、希望の叔父が正義を疑う一番の理由だった。昨日から昂る叔父の警戒心は、犯人が脱走したという情報で頂点に達し、そして叔父は希望を訪ねてきた正義を見た瞬間に、間違った答えを出してしまったんだ。


「いや……だ、だから!」


 正義は自分の体に跨がった希望の叔父を退かそうと左手で叔父の肩を押した。しかし、相手は重量級、ビクともしない。


 そんな正義に助け船を出したのは希望だ。


「やめてよ、おじさん!!」


 希望は正義に跨がる叔父の脇の下に腕を突っ込むと、正義から引き離そうと力を込めて引っ張った。


「正義さんは誘拐犯の仲間なんかじゃないから! やめて! 離れて!」


「いや、やめません! 希望の方こそやめなさい! おじさんの言う事を聞くんだ! 俺は今から警察に連絡する! この男を逮捕してもらわないと!」


 だけど、興奮した叔父は希望の願いに耳を貸さなかった。叔父はフライパンから手を離し、正義の体を地面に押さえ付けた。


「何言ってんだよ! 逮捕なんて出来る訳ないでしょ! 正義さんは何もしてないんだから! それよりも犯人が逃げたって本当なの?! 僕、そんな事知らないよ! おじさん、心配のし過ぎで妄想しちゃってんじゃないの!」


 希望は叔父を疑った。昨日からの叔父の挙動を見ていれば希望がそう思ってしまうのも仕方がない。


「いや、妄想なんかじゃない! 黙っていたのは希望を怖がらせないためだよ! 犯人はねぇ、昨日パトカーごと爆発させて警官の目の前から逃げたって話なんだ! おい、アカイセイギ!!」


 後ろから自分を羽交い締めにしようとする希望に顔を向けていた叔父は、再び声を上擦らせながら正義を睨んだ。正義を地面に押し付けていた手も、今度は乱暴に胸ぐらを掴む。


「目撃者の証言の中には、逃げていく犯人は""化け物""の姿をしていたって話もある! お前何か知ってるだろ! 警察よりも先に俺が聞き出してや………………え?」


 叔父は何故か突然、叫ぶのを止めた。


「え……えっ……なんだ?」


 戸惑いの声と共に、正義の胸ぐらを掴んだ手もフワリと解かれる。


「え? ど……どうしたの?おじさん??」


 叔父の異変に気付いた希望は、叔父の脇から腕を外してその顔を覗き込んだ。


「………あ、いや……」


 正義を見る叔父の顔は、何故か唖然とした表情。


「……ど……どうしちゃったの? おじさん?? 正義さんがどうかしたの??」


 その意味を知ろうと、希望は正義の顔を見た。


「………あっ!!!」


 その時、希望は耳慣れたことわざを思い出した。

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