第2話 バケモノッッッッッ!!!!! ―4……………の前に0.5―

 4……………の前に0.5


「ねぇねぇ勇気さん、アレだよ、アレ僕んち!」


 まだ遠くはあるが、自分が住むマンションが見えた希望は、指を差して勇気に教えた。


「ほぅ……随分良い所に住んでいるんだね」


 勇気の目に映ったのは30階以上はある立派なマンション。


「ワハっ! そんな事ないよ!」

 希望は顔の前で手を振って、勇気の言葉を否定した。

「勇気さんは? 勇気さんはドコに住んでるの??」


 希望のコミュニケーション能力は素晴らしい。基地を出てからここまで約10分、勇気との会話を一瞬たりとも途切れさせる事はなかった。


「ん? 俺?? 俺はなぁ、"北の方"だよ」


「えっ! "北の方"!! ………って事は"高い方"じゃん! なんだ、僕なんかより全然スゴいじゃん!」


「おいおい、『"北の方"だから"高い"』って……君らの世代でもまだそんな言い方してるのか?俺らが君くらいの頃でも、もう古い考えになっていたのに」


「えっー! みんなしてるよ!」


「そうなのか?」


「うん! "北の方"は"高い方"で"、北の方"に住むのは"お金持ち"だって! じゃあ、勇気さんはお金持ちなんだ!!」


「ハハッ……いやいや、まぁまぁだ。まぁまぁ……」


 正直、勇気の家は裕福だ。それを勇気も自覚はしている。だが、散々子供の頃に"金持ちイジリ"をされてきた経験から、あまり知られたくない事でもあった。

 だから、話の向かう方向があまり良い方向ではないと思った勇気は、話題を変えようと思考を巡らせた。

(因みに、そのイジリをよくしてきた奴は赤井正義という男だ)


「あっ……そうだ希望くん、さっき駄菓子屋の前を通ったの気付いたかい?」


「駄菓子屋? 山下のこと??」


 勇気の思惑通り、希望はすぐに新たな話題に乗っかった。


「あぁ、そうだ山下だ」


「うん、山下。山下がどうしたの? 僕もよく行くよ」


「ほぅ、そうなのか。あの山下な、俺たちが小学生の頃にもよく通った駄菓子屋なんだよ」


「えっ! 本当?? じゃあ、正義さんも通ってたの?」


「あぁ、勿論だ。………というか、アイツと知り合ったのも、その山下なんだよ」


「えっ! そうなの!!」


「あぁ、『知り合った』と言うと、少し言葉が違うか……元々クラスメートではあったからな。俺が転校してきて、アイツが居て……みたいな」


「へぇ~~そうなんだ!! スゴい! 僕もそのクラスに居たかったなぁ……」


「ハハッ! 何が凄い事がある。あの頃は皆ただの子供だ。普通の子供でしかない。君と同じさ」


「そうなの? なんか、普通の子供の正義さんって想像出来ないなぁ」


「そうかぁ? 結構あのまんまだぞ」


「ふぅ~ん。あっ……じゃあさ、パンダ公園には行った事ある? さっき前通った公園だけど」


「あぁ、勿論だ。あそこのパンダの遊具が酔っ払いの小便臭くて堪ったもんじゃなかったなぁ……」


「えぇ~~! ウソぉ! 今そんな事ないよぉ」


「ほぅ、じゃあ改善されたって事かな」


「えぇ~~! でも汚ったない! 僕もう触れないやぁ……」


「ハハハッ! すまん、すまん!」


「すまんじゃないよぉ~~! 変な事教えないでよ、勇気さん!!」


「ハハハハハハハッ!!」


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