第1話 大木の中へ 12 ―願いの木はどう使うべきか?―

12


「……じゃあ、さっき言った《俺を消滅させるプレゼント》が現れたとして、ソイツのはどれくらいなんだ? 制限時間は?」


「う~ん……正確に何分かは答えられないけど、本当に短い時間の筈だボズね。およそ1分。もしかしたら、もっと短いかも。だって"この世に存在する者"を消す事になるんだからなボズ」

 ボッズーは『この世に存在する者』の部分を殊更強調して正義に答えた。


「1分か……じゃあその対象が《王に選ばれし民》だったとしたら?」

 正義はボッズーの方をチラリとも見なかった。質問の答えを特に求めてない感じすらある。


「それも同じボズ。対象が何者かなんて《願いの木》には関係の無い事ボズからね……《願いの木》にとっては相手がどんな悪人であっても"この世に存在する者"には変わりはないボズ」


「やっぱりそうか……」

 やはり正義は答えを求めていなかった。正義の中で答えはちゃんと出ていたらしい。ボッズーに質問したのも正確に答え合わせをする為だけだ。


「それになボズ……"効果"に寄って変動するのは制限時間だけじゃないボズよ」


「制限時間だけじゃない?」

 やっと正義はボッズーを見た。

「他には何だよ?」

『何だ?』と質問する目はさっきと違って本当に答えを求めていた。


「それはな、人数ボズ」


「人数??」


「あぁ、この《願いの木》は人の願いを形にするボズからね。ある意味、その願いを原料にして《プレゼント》を作っているんだボッズー。だから《プレゼント》の"効果"が大きければ大きい程、願う人間も増やさなければならないボズ」


「一人じゃ足りないって事か……」


「そゆことボズ」

 ボッズーはコクリと頷いた。

「しかも同時ボズ。みんな同じタイミングで同じ物を願わないと《プレゼント》は現れないボズよ!しかも具体的にな!!」


「同じタイミングで、同じ物を……具体的に……じゃあ、何人必要なんだよ?《王に選ばれし民》を……"この世に存在する者"を消すには?」

 正義はボッズーの言葉を丸々真似た。その言葉のチョイスに意味がある気がしたからだ。


「………」

 勇気は話す二人を腕組みをして見ている。


「……ボッズー、何人なの?」

 愛は、催促するように正義の質問を繰り返した。


 この正義の質問の答えに、勇気も愛も興味津々だった。正義とボッズーの会話を聞いてる内に二人は気付いたんだ。ボッズーの答え次第では《プレゼント》の制限時間がたったの1分だったとしても、《王に選ばれし民》との戦いにおいて、その《プレゼント》が重大な戦力になり得るという事が……


「う~ん……」

 正義の質問を受けたボッズーは、眉間に皺を寄せながら首を捻って唸った。

「やっぱり正確な数は分からないボズね……でも、おそらく百……いや、それでも足りないボズね。何百……いや何千……それでも足りないかも知れないボッズー」


「何千……」

 勇気はため息を吐く様に呟いた。


「………」

 愛は無言。残念そうに、ただ俯いた。


「何千か……多いな。多過ぎる……」

 正義は《願いの木》を見詰めた。

「数人だったとしても、願いを統一するのに苦戦しそうなのに……そんな莫大な数じゃ、木に触れる事自体がまず無理だな」

《願いの木》は輝ヶ丘の大木ほど大きくはない。どこにでもある普通の木とそんなに変わらない大きさだ。片手だけだったとしても、何千人もの人間が、同時に《願いの木》に触れる事は不可能だ。

「結局、実質的には不可能って事だな。《王に選ばれし民》を消してくれる……そんな一発逆転の武器を出してもらうなんて事は」


「そういう事ボズね……」


「はぁ……」

 正義はため息を吐きながら髪の毛を掻きむしった。

「俺はてっきり、この木が基地の中にあるって事は《王に選ばれし民》の奴等との戦いに重要だからあるのかな?と思ったんだけどなぁ……」

 正義の髪の毛は何度も何度もかき混ぜられてもうぐちゃぐちゃだ。

「う~ん……」

 まだまだかき混ぜられて、このままではバターになりそうだ……


「なぁボッズー、何か見当はつかないのか?この木をどう使うべきなのか……」

 勇気は眉間に深い皺を寄せてボッズーを見た。


「むむっ……勇気、そんな怖い顔で見ないでくれボッズー。まず、ちゃんと言っとくけど俺は《願いの木》の使い方は"分かってる"けど、正義が疑問を持った事……この木が何故この基地にあるのか、その理由は知らないし、どう使うべき物なのかも"分からない"ボッズーよ」


「なんだそれは……」

 勇気は不満そうにボッズーから視線を外し、今度は《願いの木》を睨んだ。


「はぁ……やっぱ自分達でこの木の使い道を考えていくしかないかぁ~~!!」

 正義は《願いの木》を見詰めながら再び果物を齧った。

「何かある筈、何かある筈なんだけどなぁ……でも、今は傷を癒してくれるこの果物しか思い付かねぇな。結局奴等と戦うには俺達一人一人に与えられたこの力を使うしかねぇって事だな!」

 正義は前向きな奴だ。すぐに頭を切り替えたらしい。ニカッと笑いながら左腕に嵌めた腕時計を愛と勇気の二人に見せた。


 しかし、愛と勇気は前向きにはなれなかった。それどころか正義が腕時計を見せたら、その顔がより悩みに満ちた。

「そう……だね。だけど……」

 愛は少し言いにくそうに話し始めた。

「その力の事なんだけど……私も勇気くんもまだなんだ……」


「ん? まだ??」

 正義は愛の言葉の意味が分からず大きく首を傾げた。

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