第1話 大木の中へ 11 ―英雄たちに与えられるプレゼント―

 11


 希望が唱え終えると、



 ガサガサガサ……



《願いの木》の傘の様に広がった葉っぱの群れが大きく揺れた。



 そして……



 ドサドサドサ……



 葉っぱの群れの中から"何か"が落ちてきた。


「おっ! うわわわわっ!!」

 何かが突然頭に降ってきた正義は、慌てて頭を押さえて体を屈めた。

「なんだよいきなり!!! ………ん??」

 視線を下げた正義の目に、足元に転がったその"何か"が映る。

「………あっ!!!」

 正義はその"何か"に見覚えがあった。だって、正義はソレを一度食べた事があるのだから。

「コレって、あの果物か!!!」


「ハハハハハッ!!」

 そんな正義を勇気は笑った。

「おいおい……驚き過ぎだ。何が起こるのか、大体予想はついただろう?」

 そう言いながら勇気は、果物を一つ拾い上げ、一口齧った。

「ほぅ……悪くない味だな」


「でしょ! 美味しいよね!」

 希望は木から手を離して勇気の方に振り返ると、まるで自分自身の事を自慢するみたいに自信満々な表情を浮かべた。


「あぁ、旨いな! さっきもこうやって希望くんが願ったら、この果物が出てきたって事か?」


「うん!!」


「ほぇ~~!」

 その言葉に正義は感心のため息を漏らした。そして、勇気と同じく果物を拾い上げると、一口ガリっと齧る。

「美味っ!!」


「それにしてもよく気が付いたね。この木の能力に」

 勇気は屈み込んでもう一つ果物を手にした。木から落ちてきた果物は一つや二つじゃない。ドサドサと音を鳴らしたくらいだから、トンでもない量だった。さっきまでクローバーの絨毯が目に優しい緑を広げていたのに、今じゃ真っ赤。ただただ、真っ赤。


「うん!」

 希望は勇気に褒められたのが嬉しいのか、大きな笑顔を浮かべて首を大きく振って頷いた。

「でもね、全然偶然なんだ。果物が出てきた時は、この木が《願いの木》だなんて思ってなかったから驚いちゃって!」


「じゃあ、何でこの木に願い事をしたんだ?」

 正義が聞いた。


「それはね、正義さん。僕、この木に寄り掛かりながら『お腹空いたなぁ』って思って、アレも食べたいな、コレも食べたいなって色々想像しちゃってたんだ。だから、それが願い事になってたみたい。あっ、なんか僕食いしん坊みたいだね……」

 希望の笑顔が恥ずかしそうな笑顔に変わった。『食い意地が張ってる奴だと思われる』と思ったのだろう。


「へぇ~~なるほどなぁ」

 しかし、正義は希望に質問をすると《願いの木》に視線を移したから、希望の表情の変化に気付いていない。


「ふふっ! 希望くん、果物好きなの?」

 次に希望に話し掛けたのは愛だ。

 希望は恥ずかしそうだが、愛はそうは思わなかった。勿論、正義も勇気も。逆に愛は、木に寄り掛かりながら『お腹空いたなぁ』と呟く希望の姿を想像すると、可愛く思えて仕方がなかった。


「うん……」

 愛に優しく話し掛けられた希望はそう答えたが、その顔はドンドン紅く染まっていく。

「リンゴとか……プラムとか……」

 声もドンドン小さくなる。


「へぇ~そうなんだね!」

 でも、愛の声は反対にデカい。

「だからこの果物はリンゴみたいにも見えるし、プラムみたいにも見えるんだ!」


「そう……」


『そうなのかなぁ……』と希望が言おうとすると、その声をかき消すくらいの大声で答えたのはボッズーだ。


「そうボズよ!! この木は、"木に触れた者の頭の中にある願いを具現化"する事が出来るんだボッズー!!」

 その言い方もまた、さっきの希望みたいにまるで自分自身の事を自慢するみたいな言い方だ。


「頭の中にある願いを……具現化……」

 勇気だ。勇気は手のひらの中の果物を見詰めながら、ボッズーの言葉をゆっくりと繰り返した。


「そうボズ! だから二人に『気軽に触るな』って言ったんだボズ。この木は俺達にとって良い物だけを出す訳じゃないからなボッズー! もし、頭の中で"恐ろしい物"を想像していたとしたら、ソレが現れてしまうボズからね!!」


「恐ろしい物……??」

 これは正義だ。正義は『例えば?』という風にボッズーを見詰めた。


「そうボズ。もっと詳しく説明するとボズね、例えば『赤井正義を消滅させる武器』と願いながら、銃や剣を想像する……すると、その"想像した物の形で、願った通りの効果を持った物"が現れてしまうボズよ!」


「想像した物の形で……願った通りの効果を……」

 正義はボッズーが語った言葉を噛み締めながら手に持つ果物を見詰めた。

「じゃあ、例えばこの果物が『赤井正義が食ったら赤井正義を消滅させる果物』って願われた物だったとしたら?」


「食べたらお前は消えるボズな!!」

 ボッズーの顔は『当たり前だ』と言っている。


「マジかよ……」


「でも安心しろボズ。《願いの木》から現れた物……仮にコレを《プレゼント》と呼ぶ事にするボズね。で、その《プレゼント》には制限時間があるボズよ! だから、制限時間を超えれば《プレゼント》は消えてしまうボズよ。もし《恐ろしいプレゼント》が現れてしまっても、制限時間を超えさえすれば……パアッ!」

 ボッズーは大きく口を開けて両手を広げた。

「……消えてしまうだボズよ! ねぇ希望? 一番最初に君が願った時に現れた果物は、さっきこの部屋に入った時にあったかボズ?」


「え……?」

 問い掛けられた希望は恥ずかしそうな顔から、キョトンとした顔になって辺りを見回した。

「あっ!!! そういえば無くなってる! 初めて僕がこの果物を手に入れた時も、今とおんなじくらい果物がいっぱい落ちてきたのに、さっきこの部屋に来た時はもう無かった!」


「ほらねボッズー!!」


「なるほど……それは制限時間が来たからって事か」

 今度のは勇気だ。


「うん!」

 ボッズーは勇気に向かって頷いた。

「そういう事ボズ。そして、その制限時間は"願われたものの大きさ"によって変わるボズ。勿論、大きさって言うのは物のデカさもあるけど、それだけじゃないボズ。『大型戦艦を出してくれ!』って願いとかならその物のデカさも制限時間に関わってくるけど、一番は"効果"ボズ! その《プレゼント》が持つ"効果"が重要なんだボッズー!」


「"効果"が凄ければ凄い程、制限時間は短くなるって事だな?」

 正義だ。正義はボッズーに話し掛けながら、天を仰いでウロウロと歩き出していた。何処かに向かおうとしてる訳じゃない。右に行ったり、左に行ったり。右手は髪を掻きむしっている。何をしているかはこの手を見れば分かる。これは、正義が考え事をしている時の癖だ。正義は何かを考え始めているらしい。因みに左手は一口齧っただけの果物を手のひらの中で転がしている。

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