第3話 空が割れた日 17 ―正義の英雄ッ!―

17


 今……



 "空の欠片"が一つ二つと落ちた……



「行くぜッ!! 決めるぜッ!!!」



 正義は雄々しく叫んだ。それは正義の決意を込めた叫びだ。

 そして、腕時計を着けた左腕の拳を顔の横まで大きく振り上げると、それと同時に右手を左斜め上に素早く弧を描いて振り上げ、振り下ろすと同時に腕時計の文字盤を思いっきり叩いた。


「レッツゴー!! ガキセイギ!!!」


 彼は己のもう一つの名を叫んだ。英雄である自分を呼び起こす様に。

 叩かれた文字盤はパカリと開き、その中から半透明の赤いタマゴが現れた。

 文字盤から現れたタマゴは正義の頭上の空に向かって一気に飛び上がり、グングンッと正義と同じくらいの大きさにまで巨大化した………かと思うと、一気に急降下し正義の体を包み込んだ。


 正義の体を包み込んだタマゴは、半透明でなくなり、実体を持った様に真っ赤に染まる。


 そして、タマゴの上部にヒビが入り、


「ハァッ!!」


 と大きな気合いの声と共に、ヒビの入ったタマゴの上部から正義が飛び出した。飛び出した正義は空中でクルッと一回転し、草が往々と繁る輝ヶ丘の高台に着地した。


 だが、それは正義であって正義でない。


 タマゴから出てきた正義の姿は、それまでとは違っていた。全身はメタリックレッドに輝くボディスーツに包まれ、その顔は真っ赤な仮面に覆われていた。



 そう、これこそが正に《正義の英雄》その名は……



「ヒャッホーイ! 遂に来た、遂に来た、遂に来た、遂に来たボッズーッッッッ! やっとやっとの! ガキセイギの登場だボッズー!」


 変身した正義の周りをボッズーがはしゃいでクルクルと回った。


「おいおいおい! どうしたんだよボッズー、急にテンション上がって! お前さっきまで『これから激しい戦いが始まるんだぞ! これまでみたいにいかないんだからな! 分かってんのか!』って俺に注意してたじゃねぇか! お前らしく無ぇぞ、緊張感持て、遊びじゃねぇーんだぞ!!」


「んな事ぁ分かってるでボッズー! でもなぁ、やっっっっっとお前のその姿を見れて、燃え滾っていく気持ちを抑えろってのが無理な話なんだよボッズー! 俺の体は疼いて疼いて仕方ないだボズッ!!!」

 そう言ってボッズーはガキセイギの背中に掴まった。

「さぁさぁ飛ぶぞ! 飛ぶぞぉ! その姿なら俺も全速力フルパワーでいっても問題ないボッズーねッ!」


 ボッズーの目は真っ赤に血走っている。


「へへっ! ヤル気満々だなぁ! でも、こりゃあ頼もしいぜ! あぁ、頼む! 全力でやってくれ!!」


「ほいやっさ!!」

 ボッズーはヤル気に満ち溢れた声で返事をすると、

「ハァッ!」

 と息を吸い込み、小さくしていた翼を大きく広げて、更にその翼に力を込めた。

「むむむぅ~」

 息を止めて力むボッズーの顔はガキセイギの様に真っ赤に染まる。

「むむむむぅ………ッ!! ぷはぁっっ!!」


 止めていた息を大きく吸い込んだ時、ボッズーの目はキラリと光った。


「大空をブッ飛べ! 変形! ビュビューンモード!!」

 そして、光ったのはボッズーの目だけじゃない、ボッズーが叫ぶと、その翼もビカビカと光った。


 そしてそして、驚くべき事が起こる。


 ビカビカの光と共に、ボッズーの翼が上下に真っ二つに分かれて四本になったのだ。


「せい……いやぁ違う違う違う! ガキセイギ、俺の準備はOKだボッズーよ!!」


 ボッズーの翼の光は収まった。今のガキセイギを正面から見れば、淀み一つも無い、四本の真っ白な翼を持った赤い天使だ。



「へへッ! おう!! ヨッシャア!!」



 ガキセイギはボッズーから合図を受けると、腕時計を叩き、翼の形をした白き大剣を取り出した。

「ハァァァァァァ……ッ!!!」

 大剣を取り出すと、ガキセイギは気合いの声と共に一瞬姿勢を低くしし、

「どりゃぁぁぁぁ!!!」

 力を込めて地面を蹴り、大空に向かって大きく跳び上がった。


 英雄の姿になった赤井正義の身体能力は常人を超える。力強く跳び上がったその姿は、まるでロケットの様だ。


「ヨッシャボッズーッッッ!!!」

 ガキセイギが空に向かって跳び上がると、ボッズーの上下に四本に分かれた翼の"上の翼"に向かって風がビュービューと吹き出した。


 いや、違う。


 翼に向かって風が吹いているのではない、ボッズーの翼が風を取り込んでいるんだ。

 そして"上の翼"に取り込まれた風は、"下の翼"から勢い良く噴き出される。


「行くぜボッズーッッッ!!!」


「行くぜぇッッッ!!!」


 吹き出した風はジェット噴射が如く。

 凄まじく強い風に乗って、二人は大空に向かって超高速でブッ飛んだ!

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