第3話 空が割れた日 15 ―希望、ちょっとこっち来い―

15


「うわッーーーー!!!!!」


 突然、正義が大きな叫び声をあげながらガバッと起き上がった。


「ひぇっ!!!」


「ワワワワッ!!!」


 希望とボッズーは突然の事に驚いて思わず飛び上がった。


 ボッズーは文字通り空に向かって高く。希望は膝立ちの姿勢から、大きく目を見開いて尻餅をついた。


「はぁ……はぁ……はぁ…」

 起き上がった正義は肩で呼吸をしながらパチパチとまばたきをしたかと思うと、

「ふぅ~~」

 と大きく息を吹き出して、犬みたいに頭をクルクルと振った。その額にも、ボッズーや希望と同じく大粒の汗が。


「あっ……あっ……正義? 目を……覚ましたのかボッズー?」

 そんな正義にボッズーは、極々当たり前の質問を送った。

 そんなの見れば分かる。でもこれは、自分自身へ投げ掛けた"確認のための質問"だった。だって、どんなに起こそうとしても全く目を覚まそうとしなかった正義が突然起き上がったのだから、すぐに信じられなくても仕方がない。


「ん?」

 正義はボッズーの声が聞こえると、パチパチとまばたきをしながら声の聞こえた方向を見上げた。

「へへっ……あぁ、ごめん。待たせたな、帰ってきたぜ」


「帰ってきた?」


「あぁ……そうなんだよ。ちょっと不思議な所に行ってきた」


「はぁ?」


「へへっ……訳は後で話すぜ!」

 正義は首を傾げるボッズーにそう答えると、ボッズーのすぐ真下で尻餅をついたままの希望に視線を移した。

「希望、怖かったろ? でも、もう大丈夫! 俺が帰ってきたからな!!」

 正義はニカッとした笑顔を希望に送った。


 そして、


「ヨシッ!!」

 と勢い良く立ち上がると、笑顔を浮かべたまま、希望に手を伸ばした。

「さぁ、立とうぜ! いつまでもここに居ても仕方がない! 行くぞ!」


「行く? ……ど、どこに?ですか?」


「へへっ! これからなぁ、この町ではあの変な馬鹿デカイ音なんかよりも、もっともっとトンでもねぇ事が起こるんだよ。だから、逃げよう」

 そう言って正義は、伸ばした手を催促する様にクイクイっと動かした。


「逃げる? でも、もうそんな時間は無いんじゃないのかボッズー? 希望はもうこのままこの大木の下に居た方が……」


「いや!」

 正義はボッズーが質問をしてくると、

「ここに居たんじゃあ危険だ! もっと安全な場所がある!」

 それにちょっと食い気味で割り込んで、希望に伸ばした手とは反対の手の親指で後ろを指差した。


 その指差した先は、輝ヶ丘の大木。


 その事にボッズーは驚く。

「え……まさか! アレを教える気かボッズー!」

 どうやらボッズーは、正義が言った『もっと安全な場所』に心当たりがある様子。


「あぁ、その通り! 希望、君は俺達の秘密を絶対誰にも話さないんだもんな?」


「え……う、うん、誓ったよ! 絶対言わないよ!」

 希望は二人の会話をキョトンとした表情で聞いていたが、正義から質問をされると力強く頷いた。


「へへっ! だってさ! 希望はそう言ってくれてる。なら、良いだろ? なぁボッズー?」


「え……えぇ……これ以上この子に秘密を教えるのは」


「一個も二個も一緒だよ! それとも、希望が危険になっても良いのか? なぁ、ボッズー、頼むよ!」

『頼むよ!』とお願いする様な言い方だが、正義の目を見れば分かる。彼の意志がもう揺るがない物になっている事が。


「はぁ……」

 その固い意思を見たボッズーは、大きくため息を吐いた。

「し……仕方ないなぁ、分かったボズよ」


「へへっ! ありがとな!」

 ボッズーの了承を得た後の正義は素早かった。正義はボッズーに感謝の言葉を送るとすぐに、既に希望に伸ばしていた手でその手を無理矢理取ると、彼を立ち上がらせた。


「な……何するの?」


「へへっ!」

 希望の質問に正義は直接答えなかった。ただ笑顔を送るだけ。そして、後ろを振り向き、希望の手を取ったまま大木へと近付いた。


「ハァ……あんまり秘密を教えちゃうと希望の負担になっちゃうぞボッズぅ……」


「分かってるよ。でも、ここが一番安全な場所なんだ! 仕方ない!」

 正義はボッズーのボヤキにそう答えると、左腕に着けた腕時計の文字盤を大木の幹に押し付けた。


 その瞬間、不思議な事が起こった。



 それは……



 正義が腕時計を押し付けた大木のその場所に、突然、木目調の扉が現れたのだ。


「えぇッ!! なにこれ?!」

 それを見た希望は驚きの声をあげた。


 その扉は大人一人が通れるくらいの幅の狭い扉で、高さも2m有るか無いかくらい。


「へへっ!」


 でも、それだけじゃない。その扉は誰も何も触っていないのに、独りでに『バタンッ!』っと大きな音を立てて開いた。


「うわぁ……」

 扉が開くと、その中は真っ黒。

「え? 大木の中ってもしかして空洞なの?」


 希望は疑問を口にしたが、正義はそれに答えない。


「へへっ! 希望、さぁ行くぞ!!」


「え……なに? なにすんの?!」


「へへっ! 大丈夫! 怖くねぇよ! 少年よ大志を抱け! 行けば分かるさぁ~~!!」


 正義は希望の問いに答えにならぬ答えで答えながら、希望の手をグッと引いて真っ黒な空洞の前に立たせると、その空洞に向かって希望の背中を押した。


「えぇ~~! なにぃ!!! うわぁ~~~!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る