5.チート能力?それがどうした!
「お姉様は……伝説の魔法使いだよ」
ノアのその言葉に……バラバラだったものが少し繋がった。
ノアの言う『お姉様』は、前会った占い師の様な人物で間違いないだろう。
そして、……不審な点。
これも明かさなきゃ。
「ノア、ちょっと待ってて。……アリス、ちょっとサラを呼んで貰える?」
「かしこまりました」
「えっ……急にどうしたの?リズ」
「ちょっと、大切な事を思い出したの」
私は近くに居たメイド……アリスに、サラを呼ぶように言った。
すると、サラは直ぐに駆けつける。
「お待たせしてすみません。お呼びでしょうか?」
「ちょっと、こっちに」
私はサラを連れて部屋の隅まで行く。
聞かれても良い事ではあるけれど……悪い予感が当たっているのなら、それは周りの人達にとってはわざわざ呼び出して聞くほどの事では無いのだから。
「サラ、一つ良い?」
「……はい」
「魔法って、どう思う?」
サラは私の質問に驚きつつも、少し考えて答える。
「憧れですね。……『お姉様』も来て下さる事ですし」
「そう。……ありがとう」
あぁ、的中してしまった。
最悪な予感が。
前と同じ質問をしたのに、サラは前回と今回で違う回答をした。
しかも今回は、『憧れ』と言った。
前回の答えからサラが現実主義なのは明らかで、そんなサラが憧れと言う、それが表す事は……。
……この世界は、改変されている。
多分、あの『お姉様』に。
そう考えると辻褄が合う。
ソフィアが一瞬で体調を回復させたのも、『お姉様』が改変したからだろう。
そんなの……チートだ。
「リズ、大丈夫?」
「……大丈夫。待たせてごめん、食べよっか」
「うん」
……そう、チート。
元々魔法が空想上のものだったこの世界に、あたかも最初からあったかのように、魔法の存在が本当にあるものとして植え付けた。
そして、私にはそれが効いてない。
それはどうして?
私が元からこの世界の人間じゃないから?
私にだけその魔法は効かない?
……それとも、あの『お姉様』に泳がされて、手の内で遊ばれているだけ?
「……ノア」
「ん?……んぐっ、どうしたの?」
「ノアは魔法、使いたいと思う?」
「えっ……魔法?」
ノアは食べる手を止めて考え込む。
やがて、答えた。
「うーん……僕も魔法って、良く分かってないんだよね。ウワサでは寿命が減るとか、大切な何かを代償に……とか、言われてるし」
「確かに、それは怖いかもね」
「うん……」
……チート?
私に言わせれば、『それがどうした』。
魔法だろうがチートだろうが何だろうが、元々無かったものを全体に浸透させようとすると、穴が出る、ボロが出る出る。
実際、ノアだって魔法には憧れては居そうだけど、実際に使ってみたいとは思っていないらしいし、物語の中で言う『黒魔術』的な考えで浸透している、恐れから来る信仰のようなものだろう。
……しばらくは観察だ。
今少しの会話だけでも見つけられたんだ。
致命傷の穴は必ずある。
魔法の隙を、ついてやる。
****
「リズ、またー?!」
「ごめんごめん。ノアは頼りになるなぁ」
「もう……ほんとに……」
ノアと二人で山積みの本を運ぶ。
「でも、今度は魔法に関する本なんて……しかも物語を除くって言うんだから、こんな難しい本しか残って無いよ」
「いいの。その為のノアだよ」
「えっ……?」
「ノア、頭良いでしょ?」
怠惰に暮らしてきたリズが、すぐにこの難しい本を読めるのは、いくら最近本を読みさあってるからと言ってもいささか不審だろう。
だから……こんな時こそ、ノアの出番。
ノアは努力の人だからびっくりするほど頭が良くて話も上手いし、前本を読んでいるのをちらっと見たけど、かなり速読な方だった。
そんなノアに読んで内容を纏めて貰えば内容をごく自然に理解出来るし、私の労力もだいぶ減るし、ついでに『頼ってくれる幼なじみ』で彼の好感度まで上げられちゃう美味しい展開だ。
「……もう、分かったよ。その代わり……」
「……なに?」
「今度のパーティー、一緒に出ない?」
今度のパーティー……えーっと……ダンスパーティー?
でもそれって、確か一緒に出た男女は結ばれるって言う……?
「……」
ノアは顔の赤いのを隠しきれて居ない様で、黙って下を向いている。
……もしかして、『金の為』ルートは外れたって事?
つまり……堕ちていた?
でも困った。
仮にも婚約者が居る身で……幼なじみとは言え、大々的な言い伝えのあるダンスパーティーに行くなんて……
「……うん。行きたいって思ってたの」
……良いかも。
きっとリズの婚約者……テオもあのダンスパーティーに来る。
ソフィアと一緒に。
その時、鉢合わせてしまえばいい。
魔法だかなんだか知らないけど、そんな少しでも『欠陥』のあるものに、私が負ける事なんて……正直やれるものならって気分。
そんな事より、ようやく物語が面白くなってきたって、ワクワクでいっぱいなの。
「……良かった。じゃあ僕、これからこの本達読み込むけど……リズはどうするの?」
「私は……そうだなぁ」
部屋に戻ってプランを練っても良いけど、たまには……
「ノアの為に、お菓子でも作ろうかな」
……私の子の為に、使ってあげよっと。
***
リズの得意な事。
あんまり描写されていなかったけど、幼少期にお菓子作りが好きだったのは何となく描かれていた。
そして、ノアがそのお菓子を食べるのが好きだった事も。
「お、お嬢様、本気で……?」
「えっ?」
だから当然上手なものかと思っていたけれど、メイド達の反応を見る限り……かなり下手?
じゃあノアは、美味しいお菓子じゃなくて、失敗作でも『リズが作ったお菓子』を食べるのが好きだったんだ。
……健気だなぁ。
でも、突然上手く作れるのも変だし、丸焦げのクッキーでも食べてもらおう。
「お嬢様っ!」
「あぁ、そんなに混ぜては……」
メイド達の悲鳴が飛び交う。
でも好感度が下がる程じゃ無いから、残念だけどリアリティーの方を優先させて貰う。
「出来た!」
完璧。
完璧に、黒焦げのクッキーだ。
「あの、お姉様……」
「……ちょっと失敗しちゃったけど、ノア、食べてくれるかな……」
先手必勝。
うるうるとしながら言えば、メイド達はたちまち焦り出す。
「大丈夫ですよ!」
「そうです!お嬢様の愛がこもっていますから!」
「ノア様も嬉しいですよー!」
「……ありがとう!」
私はメイド達にお礼を言って、クッキーを乗せたトレイを持ってノアの元へ小走りする。
「ノア!」
「……ん、ごめん、何?」
ノアはアンティークなメガネをかけて読むのに集中していた。
「邪魔してごめんね。クッキー焼いたの」
「……クッキー?」
ノアは本から目を離してこっちの方を見る。
その目線は、黒焦げのクッキーを捉える。
「……へぇ、僕に?」
「うん。ちょっと失敗しちゃったんだけど……」
私が言いかけてる途中に、ノアはクッキーの一つをつまんで口に入れた。
見ているだけで苦い味が広がってきそうだけど、ノアはあろう事か幸せそうに笑った。
そして、
「……やっぱり、変わってない」
と、噛み締めるように言った。
「ごめん……」
「あ、違う違う。何か、最近リズが変わっちゃった気がしてたから……小さい頃と同じ味で、変わってないのが懐かしくて、リズはリズのままだったんだなぁって」
そっか。
やっと分かった。
ノアはリズに最初から惚れていたんだ。
『金の為』発言は……自分の恋への別れの為の、強がりだったのかも。
「私は、私のままだよ」
私はリズじゃない。
けど、申し訳無いなんて思わない。
だって、今は私がリズなんだから。
リズとして、彼の好きな『リズ』を演じてあげるだけ。
「……そうだね」
リズに注がれるまっすぐな愛は、私に届かず『リズ』の所で消える。
****
「リズ、久しぶり」
「……」
次の日、現れた『お姉様』は、やっぱり前の『お姉様』だった。
片手にはあの分厚い本、そしてもう片方の手には……
「……リズ」
テオ……リズの婚約者を連れて。
「今日は彼が言いたい事があるらしいんだ」
「……あぁ、言いたい事がある」
手を取られている時点で、何となく次に発される言葉が分かった。
でも、それが『お姉様』に何の得が?
やっぱり愉快犯?
……何でもいい。
早くしたらどう?
私が『お姉様』を見上げると、『お姉様』は小さく含み笑いをした。
そして、それと同時にテオは口を開いた。
「リズ。お前との婚約を……破棄する」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます