宇宙人、もつ鍋が美味しい

街に着いた。

オシャレを優先してしまったのでかなり寒い。


もつ鍋の店までここから10分も歩かない。

一応メールで

「今街についたよ。店にむかうね」といれる。


相手からも

「こっちも着いてるよ〜」と返信が来た。


しばらくすると、

歩いている後ろ姿を見つけた。

彼女は身長が低く、街の人混みに紛れてしまう。

私は身長が183センチあるので上から彼女を見つけ出せる。


手を伸ばせば触れられそうな距離をキープしながら歩いた。

声はかけられなかった。

でも、後ろから見ているだけで心がスキップしていた。


店の近くで歩く速度を落とした。

タイミングよく待ち合わせに間に合った風を装う。


すごく照れくさかった。

夜会うのは初めてだ。

いつもより大人の女性として完成された状態だった。

後ろ姿しか見ていなかったので実際に目の前に現れてしまうと言葉を失う、

可愛いだとか綺麗だけではなく素敵な人だった。


店に入り

個室に案内される。



焼きもつ鍋というものにした。

あとビールを二つとサラダと串物を頼んだ。

来るまでのあいだ相手を褒めるでもなく、他愛もない会話をした。

そしてハンカチを早く渡してしまいたい気持ちが先走って、

「これ!ハンカチ!」と言いながらプレゼントを渡してしまった。

本当はもっと「クリスマスが近いからあなたに似合いそうなハンカチを…」みたいなセリフを使いたかった。


そもそもはじめての食事にハンカチをプレゼントって謎すぎるだろ…と冷静になってしまった。


すると、彼女は

嬉しそうに丁寧に包装をはがしハンカチをだした。

「うわぁこれセリーヌじゃん!嬉しい。私セリーヌ好きなんだ」と喜んだ

私はブランドが全くわからなかったので、好きなデザインで選んだのだが、どうやら好きなブランドだったようだ。


「ははっは」とぎこちなく笑い

心の中で安堵した。


そして頼んだものが届き

食事がはじまった。

もつ鍋はそこで煮るので、時間がかかる。


会話もぎこちなく上手く喋れない。

私の話なんてつまらないと思いながら話していた。

ただ、この時間がずっと続けばいいと思った。


根拠はないけれど、やはり私は恋をしている。


緊張のあまり出来上がったもつ鍋に味はしなかったが、きっと『とても美味しかった』と思う。


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