邂逅①

第5話 新天地

 「キアちゃん、髪切った?それにその色もっ!」


 「うん、染めた。インナーだけね……心機一転スタート肝心。まあ、ただの自己満足的な気分転換だよ。」


 少し前まで、ソフィと同じ髪型をしていた彼女はもういない。大人しい無表情でお淑やかな女性ではない、悪戯に笑う陽気で快活な若者だ。


 「スミスの旦那、面と向かって会うのは初めてッスね。」


 大我は老人の方へと近づいた。


 「おまいさんこそ、面と向かって会うとより生意気だな。」


 スミスは豪快に笑う。


 「お褒めに預かり光栄ッスよ。」


 『無視か。興味ないのか。それでもヘコタレナイ。』


 マルキアのそばで浮遊していた球体は怒りを露わにして文句を言っていたが、誰も気にする様子はない、哀れ。


 「さて、新居で仲間が待ってる。今まではネット上でしか会ったことなかったから、結構驚くと思うよ。アルドル、行くよ。」


 『了解、マルキアハンドラー。』


……

…………


 都市を歩き、郊外のひっそりとした建物の3階にオフィスがある。


 作りたてというか、業者の手はあまり使わずに作業した結果だろうか、大きな机といくつかの椅子、大量の充電スペース、土足禁止スペース、すっきりとした、悪くいえば、なにもない殺風景な大部屋。


 そこには既に何人かがいて、思い思いにくつろいでいた。


 適当にくつろいで、とマルキアは2人に指示すると、それぞれに挨拶しながら、その空間に馴染んでいった。


 「まあ、初対面とはいえ、初対面ではないから。自己紹介は不要だと思うのだけど……様式美ってやつだから、一応互いに自己紹介しておこうか。」


 マルキアは笑って声をかけて、目があった人に自己紹介を促した。


 「僕が最初? 絶対に違うと思とったー。」


 「油断してたデショ?」


 その男は人をダメにするクッションに寝そべっていた。


 「大工園おくぞの志鶴しづるといいまーす。知っとると思うけど。半導体関連志望しとります。よろしゅー。」


 そう言うと、志鶴はそのクッションに突っ伏した。


 「次、俺か。石川大我。何でもクリエイターやってます。場所は問わないからまあ、新しいこと吸収してくつもりです。あと、ソフィアに手を出したら許さない。」


 大我は簡潔にまとめた。

 が、一瞬空気が凍りついた。


 その空気を解凍したのは隣の人だ。


 「別に大我にどうこう言われる筋合いないんだけど。みなさん、こいつの発言は無視してもらって構いません。気軽に話しかけてもらえると嬉しいです。ソフィア=イシザキ、イシズエ関連からきました。シナリオライターをやってますが、他にも稼ぐ先が欲しいので、スキル取得目的もあります。お願いします。」


 ソフィは大我を若干睨みつつ自己紹介をした。

 ちょっと空気が弛緩した。


 「Brandonブランドン Smithスミスだ。老耄おいぼれも仲間に入れてくれると嬉しいな、若造ども。」


 ニヤッと豪快に笑った。


 「はーいっはーい!ええと、おれはCarterカーター、ですっ!地球に来たくて協力しました!すごいですね!なんか、ほんと、色々っ!予定にない雨が降ったり、ほんとなんかズシンって感じがすごくて、ほんと、なんか、わって感じで、ほんと、おれ、がんばrm@:%&*」


 「カーター、落ち着いて、興奮してるのに無理があるか、でも、噛んでもそんな、世界が終わったりはしないから、落ち着いて。」


 「はい!」


 カーターは元気にニコッと笑った。

 刹那、流れた和やかな空気に周囲のメンバーは癒された。


 「Saliimサリーム Ghannamガンナームだ。サリさんとか、サリ先輩とか呼んでくれ。オレは地球出身だが、Secretary特区に興味があって来た。オレに頭脳労働を期待するな。その代わり、肉体労働なら負けねぇ。」


 「サリ先輩ッ! カッケーッ!!」


 「ヘヘッ」


 サリは大変得意気だ。

 生暖かい空気が漂う。


 「Líviaリヴィア Vegaヴェガよ。私はここの出身ではないけれど、しばらくここに住んでいるわ。今は違うけど、Secretaryに関わる仕事をしたこともあるわ。一応、大きい意味ではシステムエンジニアね。よろしく。」


 特徴的なアフロヘアに鮮やかな服を身につけたリヴィアは洗練された大人の色気を纏っていた。


 (直接会うと大人っぽさがより増して素敵……)


 ソフィアが目を輝かせて見つめると、微笑んでウィンクを返した。


 「そして、改めて、マルキア=フォーブスです。この集まりの発起人にして、AIハンドラーをやってます。こちらが、私の今のメインAIであるアルドル。」


 『オナシャーッス!』


 「シャーッス!!」


 アルドルの挨拶にカーターとサリが返答した。


 「サブとして私が13の頃の思考回路を記録したAIが存在します。そして、私を含めたこの8名がここで現場で動くメンバーです。リモートには、まあ、ばあやとか色々いますが、それはまた改めて。」


 ここで、マルキアは一度区切って、全体を見渡してから、続けた。


 「私の家出に協力してくれてありがとう。けど、ここがスタート地点です。様々な事情でここにいることは承知しています。それぞれの目的の達成に向けて動きましょう。」


 「おうっ!」

 「はいっ!」


 皆、頷き、同意した。


 「んで、どうすんだ?」


 大我が尋ねると、先ほどまでとはうって変わって砕けた言葉遣いでマルキアが答えた。


 「まずは、Secretaryに私たちが必要だと、大事だって思わせないといけない。」


 「どういうことだ?」


 「どういう事情かは色々あるけど、Secretaryここに来たかった理由の一つにきっとココが特区だからというのがあるでしょ?彼らに守ってもらえれば、ある程度、動きやすくなる。それに、Secretaryに認めさせれば、動ける幅も広がる。」


 (それが終わって初めて、家出が完了するんだ。)


 マルキアは心の中でそう呟いた。

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