第2話 153IENP2450
鏡に映る私は、金髪にくるくるの髪、碧眼という、THEヨーロッパという見た目をしていた。
私のベッドの周りを取り囲んでいた大人は今は1人になって、細かく体調を尋ねられた。チェック項目を一から網羅していくような形式的な質問に呆れることなく答えたのが自分でも不思議だった。
--450
自分を空から見下ろすように客観的に見つめている自分がいて、それが『異常だ』と私に警告してくる。
異常?
なにが?
そう思って、ふと思い出した。
自分が金髪碧眼なんて見た目をしていなかったことを。
「450番、健康に異常はないが今日いっぱいはここで隔離させてもらう。感染症の有無もすでに確認できてはいるが、念のためだ。明日以降は今まで通りの規則で生活してもらう。」
「わかりました。先生。」
そう言って返事をした。
どうやら私は高熱を出して寝込んでいたらしいと会話を聞いて気づいた。
そして、少しずつ、自分の中で溜まっていた違和感が確信めいたものに変わっていくのを感じる。
生まれたときから私の名前は450で、この愛情の欠片もない無機質な施設で育てられた。ただ生きるための衣食住を提供され、従順な駒として育てる。この世界の歯車としてただ生きるだけの人生に、その当たり前の人生に違和感を覚えてしまった。
暖かい家庭で、遊んで、適当に学校に行って、ダラダラと過ごして、夜中にスマホをずっと見てる、そんな生活。親に怒られ、文句を言って、それでも守ってくれる籠の中にいて、就職してから初ボーナスでプレゼントを買ったな……。
そんな思い出がどこからか湧き上がってくる。
不自由なわけじゃない。
親は知らないけど、この施設の人間も私を冷遇するわけでもない。進学だってある程度自由だ。女性差別もない。人種差別だってほとんどない。技術は進んでロボットやコンピュータがいろんな仕事を代わりにやってくれて、宇宙にも進出して、絶対的貧困は消え去った。ここ数十年は戦争も起きてない。
平和で満たされている……なのにこんなに虚しいのはなぜだろう。
飢えて干からびそうだ。
私は450。
養育院で人工的に受精させられ誕生させられた有象無象のひとりだ。
……
…………
「……ん、私、寝てたぁ?」
「ああ、寝てた。寝顔も面白かった。」
大我は目を擦るソフィアを揶揄って、端末を見せた。
「ほら、ソフィの寝顔コレクション。」
「あっっ! 消せって言ったじゃん!」
自動運転車の中でバタバタと暴れ出す2人。
大我は愛しそうに手を伸ばすソフィアを見つめながらソフィアが届くか届かないかという距離感で端末を揺らした。
(ま、バックアップとってあるから無駄なんだけどね。)
バックアップ容量は個々で決められているために大事なもの以外はバックアップは行わないのが一般的であるから、ソフィアは大我が寝顔コレクションをバックアップしているとは夢にも思っていないわけだが。
『まもなく
その機会音声が流れてピタッと動きを止めた。
「俺らも早く行かないとな。」
「まあ、疑われるのも時間の問題だろうし。……大我くん、後で覚えててね。」
「夜這い、楽しみにしてるな。」
ニヤッと笑ってから大我は自動運転車を降りて、手を差し伸べた。
「毎度思うけど、このエスコート?必要?」
「まあまあ、いいじゃん?細かいことは考えない考えない!」
……
…………
……
「さてと、ここか?」
大我とソフィがたどり着いたのは空港の業務用入り口。
「るんた♪るんた♪家出ンテ♪アルデンテェのパスタが食べたいなッシングゥ♪」
陽気に歌いながらスキップして現れた少女は、短髪で空港のスタッフの制服を着ていた。
「ヤフーッ!家出共犯者さんたちぃ〜レッツァゴーっしょ!」
「この人は相変わらず分からん。」
「悪い人じゃないんだけどね。」
「分からん分からん分からんらん♪」
ハイテンションからいつになったら落ち着くのかも分からない彼女に冷ややかなというか虚無の目線を投げかける。
「ま、私も何言ってんのか分からないけどぉ。キャハハハッ!」
「……三笠、お前のソレを何かいうつもりはないが……」
これ以上放置していたら、何も進まないと大我がストップをかけた。
「OK, OK. 言われずともわかってるよん。さあ、行こうか。手配は済んでる。」
そう言いながら、2人を先導して進む。
(株)Anywhere 25min
地球上ならば『どこへでも25分で着く』をポリシーとした宇宙経由旅客機トップシェア企業。
「ま〜ほま〜ほまほろんぱ♪」
Anywhere 25min NIHON
代表:
「み〜かさまほろのまほろんぱ♪」
『Anywhere 25min
「伊達に
彼女はニンマリと笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます