AIハンドラーの家出

泡沫

[ 1 ]

逃亡①

第1話 プロローグ

(やっと、この日がやってきた。)



G.E.3078 02.14.

 ニホンのTOKYOに本拠地を置く大企業の首脳陣が一堂に会するパーティーが開かれていた。


 その一角で、ひとりの男と綺麗な少女を多くの人が取り囲んでいた。


 「こちらが娘のマルキアです。」


 恰幅の男がグラス片手に得意げに紹介する。


 「おぉ、これが噂に聞く、フォーブス氏の娘さんですね。」

 「噂に違わぬ、否、それ以上の美しさですなぁ。」

 「イシズエは次の世代も期待できますなぁ。」


 取り巻く男性陣は口々に賛辞を述べる。


 「はじめまして、マルキア=フォーブスと申します。」


 それに対して、にこりと笑うでもなく、あくまで丁寧に挨拶をした中心の少女は、真っ赤なドレスを身に纏って、凛と立っていた。


 「この通り、無愛想なのが玉に瑕ですが、イシズエアカデミーも経営工学科を優秀な成績でパスしております。実践はまだ先になりますが、やっと成人し、こういった社交の場にも顔を出せるようになりました。是非ともよろしくお願いします。」


 (……チッ)


 マルキアは心の中で舌打ちをしたが、無の表情を保った。


 「表情を悟らせない、素晴らしい交渉術をお持ちで。」

 「ミステリアスというか、言葉に表しがたい魅力がありますな。」

 「美しく、成績優秀とは、素晴らしいですなぁ。」


 マルキアはそう説明している父が一瞬だけ眉を顰め、のちに響く賛辞にほっと息をついていたのに気づいていたが知らんふりをした。


 (……だいたい、ここに集まってんのなんて部下か父に取り入りたい人でしょ?どんなに娘が最悪だろうと、お世辞をいうに決まってるじゃない。)


 「さあさ、娘もずっと注目されては疲れるでしょうし、ここらで事業の話でもいかがですか。」


 マルキアの父がそういうと、ざわざわと人が移動していった。


 「マルキア、私の分の飲み物をとってきてくれ。」


 通り過ぎるときに、こっそりと、彼はマルキアに耳打ちした。


 「はい、お父さま。」


 彼女は静かにその場から離れた。


 (正直、給仕を人間にやらせるなんて、時代遅れにも程があるし、そんなのは金持ちの遊戯だと思っていたけれど、今回ばかりは感謝ね。)


 マルキアが小さく手を挙げると、黒いベストを着た同じ髪型の女性が近寄ってきた。


 「ノンアルコールの飲み物を2つ。」


 「かしこまりました。」


 柱の影、人の目から離れるそこで、給仕から2つの飲み物を受け取ったマルキアは、もう片方の手で、手提げの小さなバックに入っていた端末を操作した。それと同時に、給仕の女もポケットに入れていた端末を同じように操作した。


 次の瞬間、お盆と手提げを持っている女の給仕と、端末のみを持った赤いドレスを着た女がそこにいた。


 給仕は手提げの中から端末を取り出してポケットに入れ、手提げを目の前のドレスの女に渡した。ドレスの女は手に持っていた端末を手提げに入れ、無表情になった。


 「こちらがソフトドリンクです。どうぞ。」


 ドレスの女は給仕の女のもつお盆からグラスを2つ受け取って、のいる集団へ向かった。


 「、お飲み物です。」


 「ああ、ありがとう。」


 ドレスの女はの側に控えて、話を聞いた。

 頷き、相槌をうち、ときにを浮かべて……。

 たくさんの人と挨拶をして、たくさんの人と話をした。



 それから2時間ほど経つと、もう夜も遅いからと、父を残してパーティー会場を出て、運転手のいない車に乗ってへと向かった。


 車を降りて、高層マンションのエントランスをスッと通り過ぎて適当に歩く。

 どこへ向かうとも決めずに歩いたあとで、小道に入って、彼女は防犯カメラを確認してから、手提げの中にある端末を取り出し、操作した。


 すると、彼女の服は一瞬にしてオーバーサイズでカジュアルなものになり、帽子を目深にかぶってから、小道をでた。


 しばらく歩くと、車が彼女の目の前に止まり、自動でドアが開いた。


 「よぉ、大丈夫だったか、?」


 「誰にいってんの? そこらへん、抜かりないよ。大我たいがくん。」


 彼女は中に乗っていた男と挨拶を交わし、車に乗り込んだ。


 「キアちゃんは?」


 車が走り出して、ソフィアは尋ねた。


 「無事着いたってよ。マルキアにもソフィアをピックアップしたことは伝えたから、そろそろ連絡くるんじゃね?」


 そう言っていると、ソフィアの端末にメッセージが届いたようで、ソフィアは上機嫌にそれを読んだ。


 「相変わらずだな。古風なのが好きって珍しいな。」


 メッセージというものは残ってはいるものの、より速い意思疎通の方法として、伝える情報を常にプラットホームに上げておくというのが一般的だ。位置情報共有ツールであるLO★CATエルオー・キャットのシェアサービスはそれに当たる。


 「ただ、居場所と情報がわかればいいんじゃないの。大我くんは情緒ってものがわかってないよね〜。ほんとさ、着いたって以上にキアちゃんからメッセージがくることが嬉しいのっ!」


 「はいはい。そりゃわかってますよーだ。」


 この論争は何回もこの2人、いや、彼女に問いかけられ答えた問答である。


 「そろそろ?」


 「ああ、俺たちも向かおう。Secretaryセクレタリー特区へ!! 」


 

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