25本目ー【後日談②】抹茶ラテラス、大発見

 学校を辞めてからの一週間は、遊びにラテにやってくる生徒も多かった。


 その後、ある日。

 今日も来たのね、と思いながら元気よく飛び出す私。ドアを開けてあげると、男が立っていた。……誰?と思った。

「……ええと、ああっ!イーヴンのお父さんですか」

 思い出して手をぽんと叩く。

 イーヴンの父、オルヴァスだった。

「お久しぶりです。……これをどうぞ」

 渡されたのは、綺麗な包装がされたお土産だった。出張で見つけて、ぜひ一回は試して欲しいと思ったそうだ。……ここにも出張ってあるんだね。


 ソファーにつかせる。

 休日で、床にゴロゴロして本を読んでいたイーヴンが今日も今日とて上の階に逃げる。

「イヴ、どうですか」

 毎回思うことだが、もはや家庭訪問みたいになっている。「イヴちゃん、お家での様子はどんな感じですかー?」「まあ、学校ではお友達と仲良くできてますよー」……みたいな雰囲気だ。

 そして私もイーヴンに帰って欲しいとは思っていないので、「まあ、元気な子ですね」とだけ言った。あとは思った通りに褒めた。


 いい子ですよー。

 ちょっと自分の世界に浸りがちですがー。

 まあ、大丈夫ですよー。


「特に急がすつもりは無いですが、いつお食事に……」と始まって、ああ、その話をしておかないと、とオルヴァスに打ち明ける。


 実は昨日、アメの父から手紙が届いた。

 オルヴァスと同じく、招待状だった。

 抹茶ラテラス一家へのお誘いで、その中にはイーヴンの名前もあった。日時も設定されていたので、オルヴァスの案件は後回しになるかもしれないのだ。

 すると彼の返事はこうだった。

「彼とは仕事仲間だったんでね。……おそらく、同じ招待地点でしょうな」

 と驚きの答えが帰ってきて、いざ照らし合わせてみるとまさにその通りだった。場所はどちらも、


『スパイラ・ジョーテの地下』


 初めて聞いた場所ではない。

 アメに何度か言われているので、そんな場所があることは知っていた。

 そうなったら断るはずもなく、アメの父が送った集合日と同じ日を選んで書いた。


 地下、ね。

 地下の世界は、小さい頃はずっと妄想してきた。実家に帰ればスケッチだってまだ残っているはずだ。

 地下城。

 闇の奥底の、悪魔の軍団。

 魔王があるいは頂点に立ち、その世界を指揮する。

 火を噴くドラゴンがあるいは暴れ回り、荒地を残していく。

 ……その世界が、これから実際に見ることが出来ると思うと、わくわくが止まらない。アメにとってもそのような場所は初めてらしく、いよいよ抹茶ラテラス・初本格旅行となる。イーヴンに聞くと、ああ、そこはいいとこっすよーと上の階からニヤ顔を見せられた。

 イーヴンって本当にあちこち回っているよねぇ。羨ましい。


 オルヴァスパパが帰ったあと、私はラテを出た。

 理由は、周辺の視察だ。

 あのスライム。そう、学生の旅行前に現れた強いスライム。あれを待っているのだ。

 一度あるものは二度あると言う。

 だから、きっとまたやってくるはず。

 そう思って、池に近づくと妙なものに気づいた。

 ウスメを手に取って、少し長めに伸びてもらう。そして池をかき混ぜた。


 するとボコボコと水面が水泡を吹いた。

 そしてそのかき混ぜられた底には、はっきりと───穴が見えた。水中洞穴である。

 ちなみに抹茶ラテラスのおトイレ事情だが、魔法のやりくりで水洗になっている。地球のものとほとんど同じだ。ただ唯一違うところは下水管がないところ……深くは言えないが、私なりに超ハイテクを作ったつもりだ。

 だから、洞穴を自分から掘ることはない。鮫を倒した時に既に確認済みだ。水底は平らである。特にこの穴が生活に支障をもたらすということはないが、気になるのだ。


 私はイチゴを呼んだ。そして炭酸を頼む。


『●名称 微炭酸 ●効果 一気飲みして、つんと来た瞬間に水に入ると潜水艦に入れる』


 今回はこれを使用することにした。

 微炭酸を一気飲みする。

 するとすぐに鼻をつくような嫌な感触がした。私服のまま、水に飛び込んだ。

(せーのっ)


「……」

 目を開けると、ペットボトルの中にいた。

 水底へと沈んでいく。洞穴が異様に大きく見えるので、私が小さくなったのだろう。

 ペットボトルは私の指示で好きに動くことができる潜水艦仕様。いきなり襲われるのも嫌なので、ゆっくりとボトルを下ろした。

「……これは……?」

 深くはない。少々曲がり道があって、上行ったり下潜ったり、しばらく進むと水面に浮き上がった。


【解除】


 そうつぶやくとボトルは光となって消えていき、私は岸に上がった。

 地下の水あり洞窟、という感じだった。ある音は、水の滴りのみ。

 広くない。が、うちのリビングくらいはある。

 ところどころに、結晶が生えている。

 それがまた地下らしさを醸し出している。

 ……ん?結晶?


 私の脳内に瞬時に、記憶が蘇った。古くない記憶だ。結晶。結晶になる。

 もしかして。

「……スライム!?」


 しかし、気づくのが遅かった。







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