24本目ー【後日談①】やがて、やがて
木剣を構える。
相手を見る。
相手は筋肉質な男性。秋近いのに、まだ胸筋腹筋丸出しだ。その体質に尊敬する。
「……よーい、始めッ」
レフリーが旗を下ろし、二人は急接近する。
私は彼が縦に振る剣をなぎ落とし、アメから教わった「荊流」で背中に三発ほど斬りを入れた。
叫ぶながら倒れる男。旗をあげるレフリー(役の学生)。試合は三秒で終了した。
「おまえ、……はぁ……強すぎだろ」
男が私の肩にぽんと手を置いた。彼は、私の体術科の先生だ。最初の頃は全然相手にもならなかったが、一年経った今やってみると瞬殺だった。
まあ、いちごオレのおかげだろう……にしても強くなりすぎだ。かつてはドラゴンを捻り潰したという先生だ。それをこんなにあっさりと……あとでイチゴに聞いてみよう。
……。
え、なんでまだ学校にいるかって?
もう先生はやらないんじゃないのか?
説明をしよう。
そこには、深いわけがあるのだ。
昨日、教師の辞退をアメと一緒にした。
するとアマネ校長は特に引き止めはせず、本当に二人には感謝しきれないわ、と言った。
そして提案されたのが「協力人」という肩書き。私もアメも部門の創立者なので、勝手に除籍はできない。いつまでもその席は残るという。
そして今教師をやめても私やアメと学校側は相互の協力関係になって、何かあった時に連絡をよこしてくれればできるだけ対応してくれるそうだ。
「まあ、裏を言っちゃえば、あなた達のような人材を引き止めておきたいのよ」と裏の声まで話してくれた。
そうなればあとは簡単。
せっかくなので体術科の方で自分の実力を測ってみようと思って、アメと二人で試験を受けているのだが……。
「アメどうだった?」
「パンチで倒しました!」
アメがガッツポーズをとる。
後ろにはアメに倒された人々の山ができている。
「お、おめでとう」
聞くまでもない。アメも成長しているのだ。毒を使わずとも相手を倒せるようになっているみたいだ。
アメが「いちごオレのおかげです!」と言っていたので、これは本格的に自販機のシステムを問直したくなった。
これで色んな人がいちごオレを飲みに来たらマズイ。ゲームではないが、ゲームバランスが崩れる。
……と思って聞いてみると。
『馬鹿ですか?』
から始まった。
君成長してないね、本当に。
罵声は続いた。
『そんなぽんぽん効果が出るわけが無いんですよ。全員魔法がかかる訳ないじゃないですか。……効果の出る範囲は分かりませんけどね』
『え、家族限定、とか?』
『ラメが家族として認めた人限定、という可能性はありますね。……雷受けて未だに気持ち悪いので、話しかけないでもらえます?』
……お、おお。ごめんなさい。
そんなわけで、誰もがその恩恵を受けられるわけではないことがわかった。
ついでにやってきた体術科の先生に二人揃って卒業を言い渡されて、学校とは本格的におさらばになった。
その後、生徒に引っ張り回されてアメと一緒に暗い部屋に招待された。
私たちが入ると部屋は明るくなり、破裂音が順番に鳴って、私たちは花びらの雨で歓迎された。
お別れパーティーだった。
見れば大きな教室だ。
くっつけ合わせてそれっぽく作られたパーティテーブルに、清潔に白いクロスが敷かれている。
花瓶にスイーツ。歌に笑い声。
アメを見た。私の袖をそっと掴んで涙していた。私がハンカチで拭いてあげると、アメも私の目を拭いてくれた。「真っ赤ですよ」と笑われた。
壇上に上がるように促される。
これが最後の登壇かもしれない。最初の頃グダグダになってしまって、授業がままならなかったのを思い出した。それから一年も経っていたんだと思うと、やっぱり感慨深い。
自分が選んだ道だから全く後悔していないが、どこかの並行世界があるとして、その世界の私とアメが仮に教師を続けていたとしても、きっと同じくらい幸せなんじゃないのかな。
生徒たちから花束や色紙を届けられ、嗚咽を漏らしつつ感謝の言葉を送られながら、そんなことを考えていた。
落ち着いてからはお話をしたり、これからしたいことを話してあげたりした。
私もみんなに何かあげたかったが、これをまったく予想していなかったので、イチゴを出した。そして秋らしく暖かコーヒーをみんなに配った。みんなで飲んだ。
帰り道までアーチでの見送りだった。アマネ先生と、マズマ先生が最後尾にいた。
「なんか、いきなりなことばかりで」と謝ると、いいんだよ、これからも会えると返された。
その通りだと思った。
立派な先生だったかはともかく、この世に来てだいぶ繋がりが広がった。
そしてこれからもきっと広がっていくと思う。
その一つ一つを、暖かい缶コーヒーを楽しむようにして、丁寧に、丁寧に心にピン留めが出来れば、それでいい気がした。
学校から家に戻る時は、みんなであえて馬車で帰ることにした。本当に二時間ほどかかった。
色んな疲れが溜まっていたので、寝床に着くとみんなすぐに寝息をたて始めた。私も新たに増えたペットたちを満足げに撫でながら眠りについた。
夢の中で、アメと二人で教団の前にたっていた。何をやったかはさすがに覚えていないが、きっとその夢の世界の私もアメも、素敵な生活を送っているのだろう。
次は、どんな出会いが待っているのだろう。
それはきっと、明日起きてからのお楽しみ。
今日も一日、お疲れ様でした。
明日も珈琲ブレイクが、楽しいものでありますように。
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