23本目ー学校について、そして
ドラゴンとの紛糾があったあと、私は生徒たちに休憩させてからアメの方へと向かった。
手伝おうとしたが、既にアメが片付けてくれたらしい。アメが毒まみれになっていて、しかもシールをほとんど全部剥がしていたので、激戦があったのだろう。
……と、敵の方を見ると黒焦げしか残っていなかった。
聴けば、途中までシールを剥がし忘れていたらしい。つまり本当なら最初から圧勝だったわけだ。
……アメ、恐るべし。
アメに私の方のことを聞かれたので、イチゴが終わらしてくれたと素直に伝えた。
正直、ほとんど戦いにならなかった。
まずは私が投げた
急に意識朦朧になったドラゴンが自販機のドア(アメが出てきた場所)に引っ張られる形で吸い込まれる。
抗うドラゴンの尻尾を私が蹴ると、跡形もなくドアの中に消えた。
「……」
それを聞いたアメがあんぐりと口を開けている。
「その証拠に」と私が自販機にコインを入れて、とあるボタンを押した。
───ガコンッ。
出てきた暖かい缶をアメに渡す。
「……これは?」
「飲んでみて」
その通りに一口すするアメは両目を星にした。
「おいしいです!なんですか?」
「ドラゴンのだし汁」
「ドッ……」
缶を落としそうになる彼女。慌てて持ち直して、「ドラゴンの出汁とか初めて聞きました」と感想を漏らした。うん、私も初めてだよ。
イチゴに聞いてみた。
すると返事はこうだった。
今回の個体は電気をまとっているドラゴン。その電気はまさにイチゴの原動力なので、お腹いっぱいに吸わせてもらったらしい。
そしてそのおかげでほんの一瞬だけだが、ドアから出られるようになったらしく、そのままドラゴンを処理して出汁にしたという。
なるほど。
つまり毎回そうという訳には行かないのだ。今回は不運と同時に幸運が重なったということだ。
『……ちょっと待って、出られるってどういうこと!?』
そう、イチゴは「出られる」と言った。
それが気になってしょうがない。
なに?
どういうこと?
いや確かに、ドラゴンが引っ張られるようにしてドアに入ったのは見えたが……。
……イチゴって───?
『それってまたできる?電気を通せばまた出られる?』
なんだか、世紀の大発見な気がした。
すると彼女の返事はこうだった。
『嫌ですね。あれ結構シビレが気持ち悪いので、やめて欲しいです』
……そう言われたらしょうがない。
謎は、謎のまま取っておこう。
まあ、それはともかく。
確かにドリンクは美味しかった。ただ、今回は無精卵に魔法が働いてできた個体だったのでいいとして、全てがそうという訳ではない。
それに、ドラゴンとはあまり戦いたくは無い。
ドラゴンの出汁は生徒たちにも人気で、少し肌寒い渓谷にピッタリの一品だった。やがてエミラ先生の分を買うと『売り切れ』となってしまった。
期間限定なんだね。
二軍は再合流したあと、何かあった時のためにテントをまとめて張ることにした。
翌日起きて「堕天の花園」を見に行くと、真ん中にあった丸いなにかが飴玉サイズにまで縮んでいた。
アメの方はできるだけ採集をやって、私の方も残りの「作品」の採点を済ませて、一緒に学園に転移することになった。
帰り道に見た最後の景観である滝も壮大なもので、アメといつかゆっくり眺めたいな、なんて思っていると、すぐに校長室に着いた。
今回のプチ旅行は充実した。
転移ができるほど近い場所だが、それでも色んなものが見れた。途中でハプニングがあったが、一人も怪我なく終わったので、概ね大成功だ。
ついでに校長先生に勲章を貰った。雷放つドラゴンに蛇が巻きついているデザインだった。これは鮫討伐の記念と一緒に部屋に飾っておこう。
ドラゴン汁の話をしたかったが、イチゴ曰く「期間限定なのでもう出せない」そうなので、言わないでおいた。代わりにアメの毒で黒焦げになった蛇の皮の一部を渡したら、「あら、焼けてなかったら貴重品だったわね」と残念がっていた。
「今年度もよろしくね」と言われて、校長先生に新しい先生名簿を渡された。今年入ってきた、私の部門の跡継ぎの人々だ。アメの方も後輩が育ってきたらしく、毒検定で合格した面々が揃っているという。
私はアメと目を見合せた。アメがコクリと頷く。そして二人揃って一礼した。
な、何が起こったの?と立ち上がるアマネ校長。
私は説明した。
ちょうど一年間先生をやらせてもらって、いい経験ができた。
(先生になったきっかけは言えないが)学校の入学希望者も倍増していて、かつ任せられる先生たちもいる。
今回のプチ旅行では、先生としての自覚の足りなさが身に染みた。計画にしろ、ハプニングにしろアメ、ウスメ、イチゴ、イーヴンそして私という少人数ならいいにしても、多くの生徒の安全を守るのは、やはり先生らしい先生がすべきなのだ。
(私としても、アメとしても、一緒にいられる時間が減って残念だね、という話をしていた頃だった……なんてことは話せないが)
やりがいはまた見つかるし、今では生活することが既にやりがいだ。一度のんびりした人生に戻りたい。そして、たまに旅行にぱあっと行ってくる、くらいが私に合っている。アメもそれには同意してくれた。
……。
とにかく。
「「……今まで、本当にお世話になりました!」」
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