22本目ー各々の、無双
ラメsideーー
最悪の状況が続いた。
幸い生徒の方は怪我人は出なかったようだ。障壁の魔法が使える生徒が落石を防いでくれたのだ。
とはいえ魔法とは限りあるもの。
いつまでも耐えている訳には行かない。
あまり「ファイアーボール」や「ウインドカッター」といった魔法らしい魔法を使ってこなかった私は実感が湧かないが、アメがかつて魔法科に体験で勉強した際に「最初は大変なんです。全然魔法をコントロール出来ませんから」と言っていたのを思い出した。
今やるべきことは、退却だ。
それは旅行もそうだし、採集もそうだ。
「みんな聞こえる!?……アメ先生は技術科をまとめているから、とりあえず今は私の話を聞いて!」
それに異論がある者はいない。
私は周りをみた。アメたちの姿はない。合流するのは無理そうだ。
まずは人里があるところに行くべきだろう。
「ラメ、こっちっす!」
イーヴンが指示する。
私はイーヴンの姿を確認して一息ついた。それから追いついて、生徒たちに着いてくるように呼びかけた。
少し肌寒い。
峡谷の奥に進む。
「こっちが出口?」
「いや、とりあえずの避難所っす」
避難所代わりの洞窟だ。
人数が多い少ないは私では判断がつかない。が、生徒たちいわくこれで全員が揃ったらしい。それでも大成功だ。
全員、休憩タイムだ。
ぐっすり寝ることはできないが、目を瞑って精神を安定させることは可能。
そして私はというと、イーヴンを連れて洞窟から出た。
「やっぱ、原因はあれっすかね」
「うん。私もそうおもう」
二人の意見は揃った。
「あれ」。それは、「堕天の花園」の真ん中にあった、丸いなにか。
アメの話によると、たまにドラゴンや蛇の巣になるという。それならば、雪崩の可能性は明確だ。
そしてその明確な答えをさらになぞるようにして。
私たちの前には────渓谷に収まりきらないほどの巨大さを誇る、影が
「あれは……」
「ドラゴンっすね。幼体の」
「幼体!?あれが!?」
イーヴンの分析に開いた口が塞がらない。翼を広げれば峡谷一個分の幅。鍵爪の一つ一つに電気が走る。翼は半透明だが、全身の肉付きは剣を通せないと思えるほどの厚さだ。
これが、幼体という。
なんやかんやで孵化したという訳だ。
稲妻が洞窟を襲う。
生徒たちの障壁だけでは足りる気がしない。
私はイチゴを呼んで、【無限重量】の状態になってカバーを頼んだ。イチゴは『任せてください、こんなちょろい攻撃』と返し、洞窟の前に立ちはだかる。
稲妻に次々と直あたりするイチゴ。
固唾を飲んで見守る私とイーヴン。
本人が平気というのだから送ったのだが、心配してしまう。私はピラニアに攻撃されたイチゴを脳裏に思い浮かべた。
「「……あっ!?」」
やがて嫌な音がした。回路がちぎれる時の音だ。薄灰色の煙を立てて倒れるイチゴ。「イチゴ!!」と駆け寄る私。イーヴンがついてくる。
『大丈夫!?生きてる!?』
『あ、平気ですよ』
……。
力が抜けて座り込む私。
心配したのに、余裕そうな声が返ってきた。
さすが異世界仕様の自販機と言うべきか。
『本当に大丈夫なのよね?』
『そう言ってるじゃないですか、うるさいですねー……まあ、心配してくれたことは感謝しますが……あ、あのドラゴンに私を投げつけてくれます?』
本気?やっぱ
『早くしてくれます?十数えますよ?……じゅー……』
「ああっ、わかったわかった!」
それ以上グダグダ言うのも時間の無駄なので、私はイチゴを頭に載せて、両手で抑えた。……あれ、私力ついたのかな。
「いっせーのっ───!!」
めいいっぱいに叫んで、私は雷のドラゴンに向かって自販機を投げつけた。
アメsideーー
あたしは、またしても大きなミスをしてしまいました。
混乱しているうちに、ラメさんの技術科の方に来てしまっていたのです。この地、あたしと相性が悪いのか全然感覚が役立たないのです。もう時間の余裕はありません。猛毒科の生徒はラメさんに任せる他なさそうです。
……どうか、無事でいて……!!
技術科の子の中には、同じく体術科のクラスメイトの子もいたので、人数が全員揃っていることは確認できました。
……ひとまずおっけーでしょうか。
ところで「おっけー」ってなんでしょうね。ラメさんを中心にして周りの方が使っていますが、未だに由来を知らないのです。
あたしは生徒さんたちを一箇所にまとめました。岩陰があってよかったです。
一息ついてフィンラ君と、ラメさんたちと合流するかという話をしていたら、突然技術科の生徒さんが「蛇!」「ヘビがーっ」「でっけえ」と喚き始めました。
本当に蛇が現れてしまいました。
ほとんど同時に、遠くで重い足音が聞こえました。あたしがラメさんに説明した蛇と、ドラゴンが、揃ってしまったのでしょうか?
ひとまず、生徒さんたちの前に出ました。
フィンラ君に止められましたが、ここはあたしの持ち場です。
谷を沿うようにして、粘液をまとった紫がかった大蛇。カエルにとっては一番の天敵です。
ですが。
「平気です。あたし、いっちばん強い毒ガエルですから」
虚勢ですが、フィンラ君の手を解いてあたしはそう言いました。ごめんなさい、フィンラ君はわるくありません。
蛇があたしを睨みつけました。
あたしはあくびをしました。……その、余裕とかそういうのじゃありません。……眠いのです。
大口を開けて、噛み付いてきます。
あたしは咄嗟にカエルの姿になりました。ラメさんに、「大きい相手には小さくなるか、もっと大きくなるか」と言われました。
もっと大きくなれませんが、小さくはなれます。
今の状態のあたしは、一滴の汗でも猛毒です。
ただ食べられたらさすがに死んじゃうので、そこは注意します。
蛇は毒を吐きました。粘液の網ですね。ただ残念です。あたしの毒の方が強いのです。……ラメさんは例外なのです。特殊なのです。
粘液の隙間から抜け出し、あたしは人型に戻りました。蛇に致命傷を与えるにはやっぱり攻撃は必要です。
あたしも変化は練習して、最近は数回ならチェンジが可能ですが、それでも数回だけです。
「フィンラ君!」
「はい!」
フィンラ君はあたしの意図を察して剣を投げてくれました。お見事です。これが終わったらサポートにしてあげます。
あたしは剣を取り、いよいよ開戦です。
蛇が尻尾を振ってきます。素早いです。でも強くはないです。
「えいっ」
体術科で、あたしの剣術は磨かれました。尻尾くらいははね飛ばせます。しっぽを斬り落としました。
ですが、すぐに再生してしまいます。再度の攻撃。そして横から飛んでくる粘液の波。中毒はしませんが、結構邪魔なのです。
「あっ」
間違えて蛇の皮を踏んでしまい、あたしは滑ってしまいました。牙が襲ってきます。咄嗟に剣を構えますが、横からくる尻尾にあたしはうち飛ばされました。
岩壁に打ち付けられました。ただ、何とか急所は避けられました。立ち上がるあたしは、自分の体から妙に何かが湧いてくるものを感じました。
頬に触れます。
忘れていました。あたしは、全身に黒い膜を貼って、毒を抑えていたのです。
あたしはそれを一枚一枚、丁寧に剥がして、フィンラ君に渡しました。そして蛇に再度対峙します。
「むぅ……」
頬を膨らませます。
頭につけているカチューシャが少しずつ紫色に染まりました。そしてティアラのような、結晶の冠になりました。
手首、足首から毒素の模様が広がります。煙幕が頬から溢れ出て、蛇を一瞬で囲みました。
今はラメさんがいません。でも、あたしはできることをします!
……反撃、開始です!
麻痺毒の霧雨は、蛇によく効きました。悶えています。あたしに攻撃を仕掛けます。あたしは剣を強く握り、毒を中に浸透させました。
飛び上がり、そして迫り来る蛇の頭に向かって一刺し。飛び散る血までが、猛毒のようです。
……まあ、あたしには効きませんが。
ただ、問題があります。
剣が抜けないのです。
あたしは手を離し、しりもちをつきました。狂ったように接近する蛇。
「……」
ですが、もう終わりです。
蛇は既に、体内に劇毒が走っていることでしょう。
全身から蒸気を上げ、みるみるうちに小さな焦げへと変わっていきます。今回は、ちょっとだけ強い毒を使ってみました。
後ろを見ると、障壁を張っているフィンラ君がいました。解毒剤つきの障壁で、生徒たちを守っていたそうです。
本当にフィンラ君には感謝ばかりです。
あたしは「お疲れ様です……フィンラ君合格です」と言ってあげました。ちょっと台詞が恥ずかしいので、顔を見ることはできませんでしたが、「……ありがとうございます。……頑張ります」という彼の声は輝いていました。
生徒たちから、歓声が上がりました。
「アメ先生すげー」「さすがラメ先生のパートナーですわ!」「あんな蛇を一人で……」と言ってくれています。パートナーって言ってくれたことが、とても嬉しかったです。
兎にも角にも一件落着です。
落ち着いていると、遠くから「アメー」と呼ぶ声が聞こえました。ラメさんです。どうやら、無事だったようですね。
……え!?なんですか!?
イチゴさんがパパッと片付けたんですか!?
ドラゴンですよ!?
ああ、幼体だったんですね。
……それでもドラゴンですよ!?
自動販売機というものはラメさんの世界のものだそうですが、ラメさん曰く、自動販売機は武器にならないらしいのです!
ラメさんの世界にはきっと、もっと凶悪なモンスターが沢山いるんですね……。
あたしももっと毒を強くして、頑張ってラメさんに追いつきます!!
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