1章ーいざ、学園へ

12本目ーアメって、すごい?

 【ここまで読んでくれた方へ:2/25のお知らせ。4月いっぱいまで、この小説は訂正を繰り返します。途中で章が増えることもあります(極力避けますが)が、大筋は変わらないものと思ってもらえればと思います。逆に言えばカクヨムに乗せているのが初稿と思って読んでいただけると嬉しいです】


家を森の池に設置してから、一週間が経った。特に変なことが起きることもなく、あるとしたら街の人からの感謝状が多すぎて処理しきれないことだろうか。そこでなんだか事務仕事のころを思い出した。

 感謝状の内容は大抵、ピラニア退治についてで、特にお礼ができるものがありませんがお食事を良かったら一緒に、というものだった。

 断るのも悪く、行けるところはこの一週間で行って回ったが、ひとつ言いたいことがある。

「……あ、飽きた……」

 持って帰ったスイーツの前に突っ伏して座る。当たり前だが、そう大きくない市であるから、いくら特産品があるとはいえ一週間も回れば何度も同じものを食べることになる。

 今目の前にあるケーキなんか、これで十回目だ。毎度のように「あ、これはいただきましたよ」と言うと、「うちはもっといい」「あいつの店の元は俺んとこだから」と元祖争いされて、流れに負けて貰ってしまうのだった。

 いや、ね?気持ちは嬉しいよ。

 でももうちょっと、感謝も抑えめでいいかな、と思う。

 幸いなことに、聞いた話では死人はほとんどでていなく、その点は管理が行き届いていたと言える。……やっぱりあの男の人が管理しているのかな。


 ちなみに話は飛んでしまうが、この家。

 名前をついにつけてあげた。

 ───その名も、「抹茶ラテラス」。

 通称ラテ。

 元々は缶だ。私が飲んだのは普通のあったか抹茶ラテ。異世界に来て早々に飲めるとは思わなかった一品である。

 率直すぎるかもしれないが、他のメンツも気に入ってくれたようなので、そのままにしておいた。

 一応アメにも聞いてみたが、「ミラクルスーパー……」と始まったので口をスイーツで止めてやった。ごめんね。


 住めば都とはまさにこの事で、最初は移動が面倒だとか、階段がどうとかで不安だったが、森の一本道が出来上がって、修理屋を呼んで色々改善してもらったら、意外といい住み心地だった。

 一本道を進めば廃村にあたるが今や少しずつ片付けも始まっていて、賑わっている。そのまた向こう側に行けば、私が泊まった宿がある街に着く。



「……よし、トレーニングだ」

 動きやすい格好。暖かくなってきたので黒い短パンに薄色半袖、予備に上に一枚羽織っておけば十分だ。一応これらはプレゼント品である。

 異世界に来て、まだ一週間。しかしその前の仕事はまあまあ長くやってきた。高校時代の頃にはまっていたバレーも随分長い間途絶えてしまっている。

 先日の戦いでも、結構体力不足を味わっている。

 戦いには力だ。力にはトレーニングだ。

 王都中心の学校への申請云々はまた考えるとして、今は自分が強くなりたい。

 そう、せめて───。

「あ、あたしもやります!」

 アメが上の階からひょこっと頭を出す。階段を軽快な足踏みで降りてきて、壁の脇に置いてある武器箱を持ち上げた。

「あ、それは私が持つよ」

「えー……わかりました。交代交代でもいいですか?」

「それでもいいけど……アメもトレーニング?」

 アメがドアを開けながら頷く。

「はい。毒だけだと、戦えないので」

 いや、君はもう十分戦力だよ。今足でまといなのは私だ。

 さて森の開けたところ。

 私が武器箱を岩の上に下ろす。

 革のベルトを解くと、中に二本の剣といくつかの瓶が布に沈んでいる。剣は頼んで作ってもらった初心者用のもの。瓶は軽い魔法付加や、お手入れ用品だ。

 ちなみにこれは、商店街でセットで売っていたものだ。私の顔を見た店主が、先日は云々と、一箱くれた。

「ラメさん、後輩さんなどって来られないんですか」

 アメが教科書を見ながら剣を構える。

 私は、どうだろうね、と返事した。

 彼女に、自分が地球から来たと伝えるべきか悩んだ。が、せっかく一緒にいるんだし特に隠してもいい事はないから、結局昨日の夜に伝えた。この子はポンコツなところがあるので、寝言などで言ってしまいそうだが……それはまたその時である。

 ちなみにイチゴとウスメは最初から知っていた。彼女らが一体何なのか、未だによく分からない。ほとんどぽんと湧いて出てきた存在だ。いずれわかるだろう。

「じゃあとりあえず一個目の型だけ」

「はい」

 いよいよ剣の練習、スタートだ。体力作りにはなるだろう。

 怪我しないように、瓶の魔法で風の鞘をつける。

 本当なら教師でも呼びたいが、街のみんなは廃村の再計画をしているので暇がありそうな人もいないし、頼れそうなあの受付嬢のお父さんもそれからは見ていない。……名前を聞いておくんだった、と今更後悔している。

【基本に忠実に。剣の握り方は図を見て真似してみましょう。風の鞘をつけて、怪我の防止をしておきましょう。】


「……こうかな?」

 私が剣を両手に握り、振り下ろす体勢をとる。鮫に食らわせたのと同じ手のポーズである。


【足は前屈立ち。(※武道の立ち方の一種)

 肩幅一個分の広さに広げ、右足を後ろに滑らせる。重心は真ん中にして、ずらさないようにしましょう。】


 その通りにする。アメに合図をし、できるだけまっすぐ振り下ろす。

「はい、じゃあ行きます!」

 アメは一呼吸おいて、それを「えい」と言って受けた。

「……」

 剣どうしがぶつかり合い、小さく金属音を鳴らす。

 ……が、そのぶつかり合い方に、私はつい目を見開いてしまった。


 なに、


「……もう一度やるね」

「どうぞ!」

「ふんっ」

「行きます!……えいっ」

 ───キンっ。

 やっぱり。そうだよ、おかしいよ。

 見間違いでは無さそうだ。

 納得がいかない。納得がいかない。そういうものか?……そういうものなのか?

 その後、何度か同じ型を繰り返す私であったが、ついに耐えきれなくなってアメに尋ねてしまった。


「その……剣先で受けるのが普通なの?」

 そう、彼女。

 この子は、なんとのだ。

 言い換えよう。

 私のめちゃくちゃな剣筋のその剣先を、自分の剣先で摘まんできたのだ。微妙なところで、鉄同士を引っ掛け合わせたような感じだ。

 ───「アニメ」。

 そう、これだ。この比喩が正しい。

 主人公とボスが剣を交わし、最後に剣を向け合うシーンを見たことがあるだろう。その時、妙に剣先がぶつかる。通常なら滑るはずだ。両方ノックアウトだ。だが演出上、そっちの方がかっこいいので、剣先が激しく戦う。

 それと、同じ感覚。

 彼女はそれを、地で行っている。

 だがアメの返事はこうだった。

「……?昔パパに習った通りにやっただけです」

「……どうやるの」

 できる気がしないが、一応聞くだけ。

「ええと。まずー、剣先って曲がっていますよね」


 ……。


 なに?剣先って曲がっているの?

 その「まず」で、私は関門に引っかかってしまった。

 彼女が続ける。

「それを自分の剣で、引っ掛けるんです……こうやって」

 やって見せてくれた。確かに、地味に引っかかっている。

「あとはテキトーに流すんです……大したことではないですよ。剣術ではありませんし。……峰で受けますか?」

 いや。

 大したことだよ。

 初めて聞いたよ、剣が曲がっているなんて。

 彼女にはこの世界がどのように見えているのか気になった。

「それって全部の剣がそうなの?いい剣も?」

「生物が作るので、どうしても」

「新品も?」

「新品もそうですね。……たとえば」


 アメは説明してくれた。

 剣術は……まあ、あとだ。

 要は、顕微鏡レベルの世界の話である。肉眼では見えない僅かな引っかかり。本当なら重さに負けて滑るのだが、正しい方向に持っていけば問題ないという。

 さらに新品の剣も、刃は波打っているという。そのような隙間を狙って、剣を入れるといい音を立てて真っ二つになる。

 それも剣の材質とは関係なくそうらしい。

 もはや、未知の領域だった。

「ラメさんも練習すればできます!」

 アメが両手をぎゅっと絞って「ファイト!」のポーズを作る。

「……私人間よ?普通の人間」

「あたしも最初は全然できなかったんです。あ、そういえば、こういうのもありますよ!」


 ……剣の教科書の内容はどこへやら、その一日はアメ先生による「毒ガエル流(?)」の剣法の授業に変わってしまった。















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