11本目ー【後日談】そうだ、家を建てよう
イチゴが起きた頃には、日が落ちていた。
ひとまず宿に戻ることにした。
私たちの帰りに、受付嬢が笑顔になる。
「お帰りなさいませ。随分と遅かったですね」
「ああ、ちょっと色々あって」
耳飾りをいじる。
「そういえば、廃村の原因って沼ですよね。大きな沼」
「ええ。そうなんです。まず子魚の群れが厄介なんです。村の中を暴れて人を喰らおうとするんです」
やっぱりそうだった。
「それを振り切って沼に向かった人は大きな化け物に飲まれるんです。……あなたたちが帰ってこれたのも、奇跡ですよ。……凄いですね、無傷ですか」
私たちが倒したとも知らずに話を進めるので、いい加減打ち明けることにした。ピラニアの群れも、鮫も倒したことを伝えた。鮫がピラニアの主なら、鮫がいなければそれ以上湧き出るものもないだろう。
すると彼女は信じられないという顔をしてきた。さすがに今から森に向かうのは嫌なので朝見に行きましょう、と提案した。
するとすんなり受け入れてもらえて、「街人を代表してお礼申し上げます」と感謝され、ようやく説明を受けた。
彼女もかつてはそこの街の民だったという。そもそもこことあそこは同じ市であり、川をへだてているだけだった。ある日を境に魚群が沼にあるほうの街で暴れるようになり、一方の街に移り住むことになった。
その時からこの受付嬢もここで働くようになったという。
そして彼女の父親、つまり私たちに朝話しかけた男も、その討伐に一人で向かったが、メスの方しか倒せなかったという。
つまり私たちが倒したのはオスだ。……ピラニアじゃなくて、子供たちという可能性はある。
……待って、お父さん強くない?
メスとはいえ、そばには家族もいたはずだ。それでこうやってピンピンしているというのだから、相当な実力者だろう。
「だから、お父さんに信じろって言われちゃって……信じていたんですが、本当にすごい人達ですね」
「ありがとうございます!」とアメが得意げに返事する。
「報酬は後ほどもらう形になるかと思いますよ。……ちなみに、どこから来られましたか?」
受付嬢が声を小さくした。
そこでようやく、私は自分たちが今まで家なしであったことに気づいた。
「……そうだ!家」
「……はい?」
ふと、いい案が浮かぶ。
「あの沼とそのまわりって、土地代高いですか」
身を乗り出した。
「あんなところに住む気ですか!?」
「ま、まあ……」
「もっといい家なら……」
「まあまあ。で、高いですか?」
「お金かかるわけないですよ、あんな場所。基本的にモンスターのところに住む人はいないので、そういうところは土地代を計算していないんです」
「そっか。じゃあ、そこら一帯購入で。森は周辺だけで大丈夫です」
受付嬢が問い直す。
「ほ、本当に住む気ですか」
「まあ、面白そうだから。ここってそういう登録できる?」
向かい側にある登録所で場所割りを申請し、私たちは沼地に戻った。
「ラメさん、どうやってここに住むつもりですか」
アメが袖口を引っ張る。私はウィンクを返した。
「まあ見てて」
ここから、家を作るところに入る訳だが、そこで話しておきたいことがいくつかある。
その一。
自動販売機のレベルが上がったのだ。
レベルかどうかは分からないが、背後にローマ数字で「II」と刻まれていた。レベル2という解釈で合っているだろうか。
イチゴ自身に聞いてみると、『私ができることが増えたみたいです』と返ってきた。
そしてできるようになったことは、以下のもの。
・電話ーー箱の右に、旧式の電話がつくようになった。イチゴの意志で湧き出てくる。それを通せば、水を含んで会話、ということをしなくて済むのだ。
・出した飲み物の容器のサイズを変えられる。もちろん厚さも調節自由だ。
・お金を入れると、飲み物の模様替えができる。もっと色んな効果が試せるのだ。
その二。
沼の色が消えて、普通の澄んだ池になっていた。
その理由は簡単。イチゴがピラニアの群れに背後から殴られた時に吐き出した大量の缶。あの全てが解毒の「ミルクコーヒー」だったのだ。
もったいないことではあったが、そのおかげですっかり消毒ができて、底まで透き通って見えるようになっていた。
イチゴさまさまである。
その三。
私が強くなっている。
私限定なのか分からないが、イチゴオレの効果は永続的だった。
それに気づいたのは宿のトイレで用を済ませたとき。こういう効果ってだしたらもう意味無いのかな、と疑問に思い、軽く壁をパンチしたら少し凹ませてしまった。(もちろん賠償は約束した)
一日に飲める数も限られているし、基本的にお金を入れて飲むし、いつまで効果が続くか分からない。
だから、やはり個人のトレーニングは必要そうであった。
そして、その四。
私が受付嬢に、旅に行きたい、あと強くなりたいということを伝えたら、私をみて「学校に行ったらどうですか」とアドバイスをされた。
王都に向かう流れかな、と思っていたら、地図で「ここの市も王都の中です」と説明をされた。……ゲームのスタート地点がローマの森だったのだ。
中心地はこっちの繁盛した街の一番太い道路をまっすぐ歩いて二時間ほどで着く。
学校に行けば、お金が無くても奨学金で修学の過程として旅行に行ける。話によると、名門でありながら自由な校風で有名な学校があるらしい。生徒の中では世界を回っている人も少なくないという。
……そこに行くかは別として。
一応の地図と、学校の情報をもらってある。
歩いて二時間は近いほうである。それなら、まずは家を作ってから考えてもいい気がした。
私が知っている海外の学校と似ていて、そこも九月入学式だ。だから、今は焦ることはない。
……という訳で、家を作ることにした。
・まず、長い缶を一本飲む。(効果を無くすこと自体は言えば可能)そしてそのキャップを取って、細くなったところから横に半分切口をいれる。
・窓を開け、ドアを開け、いよいよ中に基本的な家の構造を作り、接着したり、外したり、磨いたり。そしていよいよ天井として、丸く切った木の板を牢固にはめる。
・塗装して、隙間を整え、あとはイチゴの力で巨大化&壁厚にするのだ。
───では、上手くいかず。
意外と失敗が続くものである。
巨大化も、ほかの素材の融合性も抜群だったが、階段を忘れたり、雨が漏れる構造だったり、塗装が臭かったり、ダサかったり、登ったら絶対死ぬ仕様だったりなどと、工夫すべきポイントは多かった。
そしてDIYは夕方頃にようやく終了した。
「わぁ」
「すごいわ」
出来上がった家。
沼、あらため池に支柱などを立て、家を本格的に設置できた。そこから得られた知識は……「
「ここに住むんですね」
アメが祈るポーズをする。
「そう。一週間くらい試して、また反省点考えよ」
私は借りたペンキを置いて顔を拭き、見上げた。
ちょうど木々に隠れる程の高さ、池の中の憩いの家が一つ。光り輝く水面が揺れ、幻想的な世界観を映し出していた。白い塗装。オシャレな丸い木窓。大きなドアが、私たちを呼び入れている。
池の真ん中まで行くために、二三箇所たまり場と橋を渡した。たまり場は、缶の蓋を裏返して土台にしている。光の魔法も設置済みオレンジっぽい、暖かい光にした。
アメに手を引っ張られる形で屋上階へと駆け上がる。そこはテラス。少し遠くが見渡せる、日常のプチロマン。
ちなみにアメが落ちないように、柵は高めだ。
柵に満足した顔で寄りかかる。
この、やりきった感。魔法は頼ったけど、自分の手は動かせた。
これも、異世界の楽しみ方のひとつなのかもしれない。
……とまあ呑気な話が続いたが、この憩いの場が魔窟になるのは、もう少し先の話だ。
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